/

行船公園(東京・江戸川) 釣り池閑散、一瞬を待つ

浮きを見つめ、ヘラブナのアタリを待つ(11月、東京都江戸川区の行船公園)

晩秋、曇り空の日曜日。上着を着込んだ男性が1、2、3、4人、直線で囲われた池のほとりに距離を置いて腰を下ろしている。手元のさおの先、緑の水面に立つ浮きを見つめ、時折しかけを上げて餌を付け直すとまた投げ入れる。

東京都江戸川区の行船公園は東京メトロ東西線の西葛西駅から徒歩15分ほど。3万平方メートル近い敷地には日本庭園や小さな動物園があり、近隣住民らの憩いの場となっている。その一角にヘラブナの釣り場として開放された池がある。

「釣れないね。いるにはいるけど数が少ないから」。年金暮らしだという71歳の男性はヘラブナ釣りを始めて40年近くになる。他に用事がなく天気が崩れなければ、こだわりの道具一式を自転車に積んで池に通ってくる。「最後に釣ったのは半月くらい前かな」

1933年に地元の住民が当時の東京市に土地を寄付。50年に都から江戸川区に移譲され、区が公園として整備した。70年に改修した際に釣り池を造り、フナやドジョウを入れた。その後、浅瀬を設けて水草を植え、酸素を供給するポンプを設置。底にたまったヘドロをさらい、2010~15年は毎年900匹のヘラブナを購入して放してきた。

ところが17年1月の400匹を最後に区は放流をやめてしまった。せっかくフナを放してもウが飛んできて食べてしまう。「平成の初めごろは50人くらい来ている日もあったが、今は決まった人しか来ないし」と区の担当者は話す。「なんで放流しないんだと苦情は来るが、お金を取っているわけでもない」。釣り池を今後どうするかは検討中という。

「ここに残っているのはウが食えない大きいのばかり。大きくなるとあまり餌を食わないんだよ」。常連の男性はたらいの練り餌を手早く丸め、小さな2本の針に付ける。フナが餌を吸い込めば浮きがわずかに沈む。すかさずさおを引いて針をかける。「その瞬間のために朝から夕方までじーっと浮きを見ている。それでいい。数を釣りたいわけじゃない」

隣のグラウンドからは野球少年たちの元気な声が聞こえてくる。小さな子どもを連れた家族が動物園の方から歩いてくる。池のほとりの4人は会話を交わすこともなく、水面の浮きを見つめている。ゆったり流れる時間の中で、かすかなサインと心躍る一瞬の訪れを待っている。

(田中信宏)

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン