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師走のIPOラッシュ到来 スゴ腕個人の狙い目は?

人気が過熱、有望株探しに工夫凝らす

初値が公開価格の11.9倍まで上昇し、過去最高を更新したヘッドウォータースの篠田庸介社長

15日から師走恒例のIPO(新規株式公開)ラッシュが始まる。毎年12月は他の月に比べてIPOの件数が多い。今年は年間(93社)の4分の1を超える26社が新たに上場する。14年(28社)以来6年ぶりに25社を上回った。今年は上場後に最初に付く初値が公開価格を上回るケースが多く、15日からのIPO銘柄の売買も活況を呈しそうだ。ラッシュを目前に控えた個人投資家の対応を探った。

初値倍率が過去最高の銘柄も

11月末までに上場した67社の騰落率を見ると、初値を公開価格で割って算出する初値倍率の平均値は2.4倍。過去13年間で最も高かった13年の2.2倍をも上回っている。

9月末に上場したAI(人工知能)システム開発のヘッドウォータースの初値倍率は11.9倍となり、過去最高を更新した。画像認識ソフトウエア開発のフィーチャが9倍、投資用不動産開発のタスキが7.5倍で続き、計9銘柄が5倍を超えた。

今年のIPOがこれほどの盛況ぶりを見せている背景には、「新型コロナウイルスの感染拡大という特殊事情がある」(いちよし証券投資情報部銘柄情報課の宇田川克己課長)。

まず感染が拡大した2月から4月上旬にかけて上場した銘柄の初値が伸びなかった。さらに上場の中止や延期が相次ぎ、4月中旬から6月中旬までの2カ月間はIPOがストップした。これらの反動で、6月下旬に再開したIPOに投資マネーが流入し、初値が大きく押し上げられた。

「AIやクラウドなど、人気の投資テーマに関連する銘柄の上場が多かったことも大きい。コロナショック後の株高で資金を増やした個人投資家の買いが、それらの銘柄に集まった」。金融情報サービスを手掛けるモーニングスターの宮本裕之・株式分析部長はこう分析する。

この流れを受けて、12月に上場する銘柄の中にも、人気化して高い初値が付くものありそうだ。宮本部長は、新興家電メーカーのバルミューダ、「ロボアドバイザー」と呼ばれるコンピュータープログラムによる資産運用支援を手掛けるウェルスナビなど、9銘柄に注目する。

「Jカーブ銘柄が見当たらない」

例年に増して盛り上がる今年のIPO相場。個人投資家は一様に歓迎しているかと思いきや、さにあらず。個別株投資で1億円を超える資産を築いた実力者の中には、苦々しい思いを抱いている人も少なくない。なぜだろうか。

理由の一つには、彼らがIPO銘柄の売買で大きな利益を上げようとはしていないことがある。例えば、50代の会社員投資家の奥山月仁さん(ハンドルネーム)。割安な成長企業の株を長期保有する手法で数億円に上る資産を築いたスゴ腕だ。自身の投資法を分かりやすく解説したブログが、個人投資家の間で人気を博している。

その奥山さんは「抽選に当たって上場前にIPO銘柄を買えても、多くの株数を買うことはできない。上場直後に大きく上昇しても、売却益は高が知れている。だから、IPO銘柄の売買は手掛けない」と話す。

奥山さんと同様に割安な成長株を長期保有する投資で億単位の資産をつくった兼業投資家の竹内弘樹さん(本名)。投資に関する情報を提供する複数のサイトを運営する起業家でもある40代のベテラン投資家は、次のように語る。

「IPO投資のサイトを運営していることもあり、自身でもIPO投資を実践しているが、それがメインではない。12月のIPOは26社あるが、片っ端から抽選に応募しても、3~4社当選すればいい方だ」

もっとも、彼らが今年のIPO相場の活況を好感していない最大の理由は別にある。彼らの主な投資手法が、上場から3年以内の成長株を買って、大化けを狙うやり方であるためだ。

「新規に上場した後も業績を伸ばし続け、テンバガー(10倍高)を達成した銘柄の株価チャートは、判を押したように似ている」。奥山さんはこう解説する。

その形状とは、次のようなものだ。まず上場してからしばらくは、業績が伸びていても、株価は下がり続ける。上場前から保有していたベンチャーキャピタルなどの大口株主による売却に加え、IPOで注目した投資家たちの関心が徐々に薄れ、その銘柄を売却して別の銘柄を購入する動きが相次ぐからだ。この下落期間は銘柄ごとに異なり、中には2年に及ぶものもあるという。

だが、短期に売却益を上げる目算で購入していた人たちが売り切ると、株価は下げ止まって上がり始める。そして、公開直後に付けた初値を超えて、さらに大きく上昇していく。その結果、株価チャートの軌道はおしなべて、アルファベットの「J」を右側に傾けたような形になる。そこで奥山さんはこの株価チャートの形を「Jカーブ上昇」と名付けた。

ところが今年のIPO銘柄は、上場後も初値を上回る価格で推移しているものが多い。4月上旬までに上場した銘柄で初値が高くならず、公開価格を下回るものもあったことが主因だ。そのため、Jカーブを描いている銘柄が見当たらない。「今年に上場した銘柄を精査したところ、3月に上場して下落基調が続いているシステム開発のコンピューターマネージメント以外に有望な銘柄は見つからなかった」(奥山さん)

有望な成長株の発掘に試行錯誤

竹内さんも「IPOが再開された6月以降に上場した銘柄は、いずれも割高だ。有望株であっても、価格が大きく下がらない限りは購入の対象にはならない」と苦笑する。

一方で、この12月に上場するIPO銘柄には期待を寄せる。「12月はIPOが集中するので、投資家の買いが分散し、他の月よりも初値が上がりにくい傾向がある。有望な銘柄の中に初値が公開価格を下回るものがあれば、その後に短期間で値上がりする可能性も高い。それを狙っていく」と話し、ベビーシッター派遣などを手掛けるポピンズホールディングス(21日に上場予定)などに注目する。

上場して間もない銘柄に絞って成長株を探す投資法に特化し、19年に目標の運用資産2億円超えを達成した人気投資ブロガーの弐億貯男さん(ハンドルネーム)。この40代の会社員投資家も銘柄選びに苦心している。

「IPO銘柄に限らず、今年はコロナ禍を追い風にするとみられたDX(デジタルトランスフォーメーション)や巣ごもり消費の関連銘柄が軒並み買われ、割高になっている。そうした銘柄は、新型コロナのワクチンが普及して追い風がやめば、急落する可能性がある」と指摘する。

そこでDXや巣ごもり消費の関連ではない銘柄に的を絞って物色。今年に上場した銘柄では、介護付き有料老人ホームの運営を主に手掛けるリビングプラットフォームを購入したという。

弐億さんは、12年から19年にかけて保有した介護付き有料老人ホーム運営のチャーム・ケア・コーポレーションで、テンバガーを達成している。いわば、その2匹目のドジョウを狙った投資でもある。3月中旬に上場したリビングプラットフォームの初値は公開価格を9%下回り、4月と8月に大きく上昇したが、その後は下落基調で推移している。

「売上高は増加しているが、利益の水準が低迷している。老人ホームの新設が続き、投資が先行しているからだ。新設した老人ホームの収益が加われば、利益も急増する。それはチャーム・ケアで経験済みだ。3~4年後に株価が跳ね上がることを期待して持ち続ける」。弐億さんはこう話し、長期戦も辞さない構えを示している。

(中野目 純一)

日経マネー 2021年1月号 会社員でもつくれる!老後資金1億円

著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2020/11/20)
価格 : 820円(税込み)

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