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コロナで仲間の連帯感 絆がより強く(井上芳雄)

第82回

井上芳雄です。新型コロナウイルスがまた拡大してきました。どの劇場も感染対策には万全を期していますが、それでも陽性者が出て公演中止となる作品も出てきています。お客さまには申し訳ないし、関係者は悔しくて残念だろうと思います。いつ自分たちが同じ状況になってもおかしくないなか、僕たち俳優やスタッフはこれまで以上に細心の注意を払って、公演に臨んでいます。

ミュージカル『プロデューサーズ』で、かつてはヒット作を生み出したが、今は落ちぶれたブロードウェイのプロデューサーを演じる井上芳雄。12月6日まで東急シアターオーブで上演(写真提供:東宝演劇部)

演劇の公演が再開されてから、どの劇場もできる限りの感染対策をしています。例えば、楽屋には2人までしか入らない、PCR検査で陰性の人しか来られないなど徹底しています。僕たち俳優は2週間に1回、定期的にPCR検査を受けます。ヘアメイクさんやスタイリストさんといった、俳優とじかに接するスタッフも検査を受けて、みんなの結果が出るまでどきどきしながら待つというのを、この半年くらいずっと続けていますね。最近はまた感染が拡大して、初期のころのぴりぴりした空気が戻ってきて、緊張感が高まっています。

舞台上の演出も、今は基本的には俳優同士の接触を極力避ける方向になっていると思います。僕は11月9日から東急シアターオーブで上演しているミュージカル『プロデューサーズ』に出ていますが、この作品もそう。例えばキスシーンはこれまではほとんど実際にしていたと思うのですが、今は直接触れないような演出になっています。ただ、業界に一律のガイドラインがあるわけではないので、作品によっては違うかもしれませんが。

そういうなかで感じるのは、仲間の連帯意識が高まったこと。自分たちもいつ感染するか分からないし、できる限りの対策をして、みんなで協力して危機を乗り越えようという気持ちは一致しています。演劇界の横のつながりが強くなったように思います。

海外の演劇人との絆も感じます。僕が出ている『プロデューサーズ』はブロードウェイで大ヒットしたコメディの傑作。公演の初日には、オリジナルの振付・演出をしたスーザン・ストローマンと日本版振付のジェームス・グレイから、メッセージが届きました。「今の時期に開幕できたのは奇跡だと思う。一緒にお祝いしたかったけど、残念だけど行けない。でも、こんな時代だからこそミュージカルコメディが必要だと思うから、頑張ってください」とありました。楽屋に貼って毎回見て、舞台に上がってます。ブロードウェイの劇場は2021年5月末までの閉鎖が発表されています。今、日本で公演できていること自体、向こうでは考えられない状況でしょう。海を越えたブロードウェイの仲間たちの思いも受け止め、一緒に頑張るという気持ちで演じています。

コロナ以降、舞台裏で大きく変わったのは、キャスト同士の行き来が減ったことでしょうか。飲み会に行けないのは当然ですけど、楽屋間の訪問も控えるようになりました。普段集まれないから、開演直前に舞台袖でその日初めて会うみたいな感じです。終わるとすぐに帰るので、世間話をするタイミングも限られます。僕は出ずっぱりなので、それでもみんなと舞台上で会うのですが、限られた人としか演技しない役だと、カンパニーの中でも「あの人と全然会ってない。舞台上にいるのは知ってるけど」みたいな笑い話になります。気持ちの上ではつながっているけど、実際の接触は最小限。これは、今までになかったことですね。

 終わってからは、今までは関係者が来たら楽屋で面会して感想を聞かせてくれたので、こっちも「よかったんだな」とか「いまいちなのかな」と反応が分かったのですが、それがなくなりました。SNS(交流サイト)では感想を書いてくれていると思いますが、今まで自然と耳に入ってきていた、見た人の声が届かなくなりました。なので毎日黙々と自分たちの仕事をしている感じ。それも今までと全然違いますね。毎日がシンプルになりました。

だから作品に対する反応を知る方法は、舞台上から見えたり、聞こえたりするお客さまのリアクションが頼り。コメディなので、笑いの反応ははっきりと表れます。幕が開く前は、お客さまがちゃんと笑ってくださるか心配だったのですが、日に日に笑いが大きくなっているので安心しました。開演前の客席はシーンとしているのですが、始まったら大笑いされています。きっと今は、これまでよりも大変な日常だし、その状況も厳しくなっている。だからこそ、お芝居が始まったら、そこに身を委ねて笑い飛ばしたいという気持ちなのではないのでしょうか。それくらい、客席からのエネルギーが日増しに強まっています。世の中が暗いときには明るい作品が求められるといわれますが、そういうことなのかなと。「こんな時だからミュージカルコメディが必要」というブロードウェイからのメッセージの通り、今こそ笑いが必要と信じて、12月6日の千秋楽まで精いっぱい演じます。

新しいミュージカルのフェス

12月13日には『The Musical Day~Heart to Heart~』という配信コンサートに出演します。ミュージカル俳優が集まって、いろいろな歌を歌ったり、しゃべったりする、無観客の配信ライブ(17時30分開演)です。企画したのはミュージカル俳優の上山竜治君。春先、コロナの自粛中のとき、『レ・ミゼラブル』からの『民衆の歌』をミュージカル俳優がリレー形式で歌う動画を配信した人です。僕は、それには参加できなかったのですが、ミュージカルの力を多くの人に届けたいという彼の思いに賛同して、今回出演させていただきます。ミュージカル俳優自身がイベントを企画して、いろんなところと組んでやろうとしているのは新しい流れ。ここにも、ミュージカル仲間の連帯感が表れているように思います。新しいミュージカルのフェスです。よければ、みなさんもぜひ参加してください。

『夢をかける』 井上芳雄・著
 ミュージカルを中心に様々な舞台で活躍する一方、歌手やドラマなど多岐にわたるジャンルで活動する井上芳雄のデビュー20周年記念出版。NIKKEI STYLEエンタメ!チャンネルで月2回連載中の「井上芳雄 エンタメ通信」を初めて単行本化。2017年7月から2020年11月まで約3年半のコラムを「ショー・マスト・ゴー・オン」「ミュージカル」「ストレートプレイ」「歌手」「新ジャンル」「レジェンド」というテーマ別に再構成して、書き下ろしを加えました。特に今年は、コロナ禍で演劇界は大きな打撃を受けました。その逆境のなかでデビュー20周年イヤーを迎えた井上が、何を思い、どんな日々を送り、未来に何を残そうとしているのか。明日への希望や勇気が詰まった1冊です。
(12月21日発売/日経BP/2700円・税別)
井上芳雄
 1979年7月6日生まれ。福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。大学在学中の2000年に、ミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビュー。以降、ミュージカル、ストレートプレイの舞台を中心に活躍。CD制作、コンサートなどの音楽活動にも取り組む一方、テレビ、映画など映像にも活動の幅を広げている。著書に『ミュージカル俳優という仕事』(日経BP)。

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第83回は2020年12月19日(土)の予定です。

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