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川辺の活性化で都市を磨く 国技館前に新たな拠点

42カ所ある東京五輪の競技会場の中で最も東京の歴史や文化を感じさせるのはボクシング会場の両国国技館(東京・墨田)だろう。国技、相撲の聖地と呼ばれ、周辺には江戸東京博物館、旧安田庭園などがある。そしてすぐそばを流れる隅田川沿いには11月、不動産大手のヒューリックが官民連携で整備した複合施設「ヒューリック両国リバーセンター」が全面開業した。川を生かした新たな観光、にぎわいづくりの拠点として期待されている。

「新しい船で、特別な時間を過ごしてもらいたい」。隅田川のクルーズを手掛ける東京ウォータウェイズ(東京・墨田)の原田和義社長は、リバーセンターに商機を見いだしている地元の企業経営者の一人だ。センター内でヒューリックのホテル子会社が運営する「ザ・ゲートホテル両国」と組んで、宿泊者向けの「クリスマススイートクルーズ」などを企画する。

クルーズ船などが発着する新しい船着き場の前に建つリバーセンターはホテル、レストラン、水上バスの待合所、児童福祉施設「両国子育てひろば」などで構成する複合施設。JR両国駅からは徒歩3分という近さだ。ヒューリックが東京都、墨田区との官民パートナーシップ(PPP)事業によって整備した。

PPPの仕組みはこうだ。ヒューリックが約50年間の定期借地方式で都有地と区有地を合わせた約1510平方メートルの用地を確保してリバーセンターを建設。両国子育てひろばなどの公共施設も含め、地上9階建てのビル全体の維持管理も担う。同社の投資額は40億~50億円とみられる。

両国国技館の前に立地するヒューリック両国リバーセンター

ヒューリックのような民間デベロッパーにとって、PPPは用地確保のための投資を抑制できる利点がある一方で、行政からの政策課題を背負うことになる。「水の都」東京の顔となる拠点の形成――。東京都建設局が民間のパートナーに求めたのは、かなりハードルが高いテーマだった。

他社に競り勝ち、ヒューリックが事業予定者に選定されたのは2017年夏。20年夏に予定していた東京五輪に向けて東京の都市再生が加速していた時期だった。当時、東京都は両国に防災機能を高めた高規格堤防(スーパー堤防)を築く計画で、これに合わせて「東京の顔」となる民間施設を整備するため、ヒューリックに白羽の矢を立てた。

「パリ、ニューヨーク、ロンドンも川のある街がにぎわいを持っている。東京ならば隅田川がそういう場所になる」。ヒューリックの西浦三郎会長は国立競技場などの設計で知られる建築家の隈研吾氏と食事をした際、こんな話を聞いて、隅田川沿いのにぎわい創出によって、東京が世界の主要都市に負けない魅力を磨くことができると考えたという。

東京五輪は都市の魅力を世界にアピールする最高の機会となるはずだが、来夏、何ができるのかは新型コロナウイルスの感染動向次第。それでもヒューリックは「ホテルのレストラン前にある『隅田川テラス』やスーパー堤防の大きな階段などの屋外スペースをイベント会場として使ってもらいたい」(高橋則孝常務執行役員)と知恵を絞る。

東京都も「リバーセンターを中心に墨田区観光協会やホテル、地域が連携したイベントを開催して、新たな水辺のにぎわいづくりを進めたい」(中島高志建設局長)と前向きだ。ヒューリックは東京五輪の期間中、コロナ感染対策を徹底したうえで、官民挙げて祝祭感を打ち出せる企画を模索する。

コロナ禍に伴うインバウンド需要がなくなり、リバーセンターのホテルの稼働率は当初計画に比べて6割程度にとどまる。足元は厳しいが、インバウンド需要が回復すれば、リバーセンターを中核とする街づくりは本来の実力を発揮できそうだ。近隣には江戸東京博物館、刀剣博物館、すみだ北斎美術館など訪日客に江戸文化の魅力を伝える強力なコンテンツがそろう。海外でも有名な葛飾北斎や歌川広重らの作品には、隅田川を行き来する船、両国橋、花火などを描いた浮世絵も多い。

約50年間というパートナーシップの期間を考えれば、今回のコロナ禍のような苦境は今後も形を変えて何度かあるかもしれない。「リバーセンターを拠点にして、江戸・東京の歴史を感じながら、大相撲、花火大会もある街の良さを知ってもらいたい」(墨田区の山本亨区長)という地元の思いをかなえるためにも、官と民、さらに地域の絆は苦しいときこそ一層重みを増す。

◇   ◇   ◇

「両国を地元とともに盛り上げる」ヒューリック会長

両国国技館の前に誕生した「ヒューリック両国リバーセンター」はホテルを核に、両国エリアの活性化を担う拠点として整備された。ただ、コロナ禍の影響は避けられず、思惑が外れた面もありそうだ。ヒューリックの西浦三郎会長に東京五輪・パラリンピックや街づくりなどについて聞いた。

ヒューリックの西浦三郎会長は隅田川を活用した街づくりで東京の魅力向上をめざす(東京都墨田区)

――来年の東京大会はコロナ禍という特殊な状況下での開催になりそうです。

「パラバドミントン(の競技団体)の公式スポンサー企業だから、東京大会の開催に期待するが、フルに世界中から選手が来ることはできず、規模は縮小するのだろう。今回の大会は選手全員が安全にプレーし、健康なまま帰国できることが最大の課題だ。クラスター(感染者集団)が発生せず、大会が成功すれば、その後、徐々に訪日客を受け入れていくことになるだろう。そのためにも大会の安全や健康は一番大事だ」

――来夏、両国はにぎわうでしょうか。

「地元の皆さんと一緒に、墨田区とも協力して盛り上げたい。アスリートが選手村から出てこられないのならば、競技会場がある地域として、どのように歓迎できるのかは簡単な話ではない。ただ、横浜スタジアムなどで観客の上限を緩和する実験もあったので、(ボクシングの)観客が多くなれば、街としての歓迎の仕方も考えられる」

――両国ならではのアイデアはありますか。

「ホテルで(地元企業が運航する)船をチャーターして隅田川をクルーズできる。一杯飲みながら、おつまみを食べて、ナイトツアーなら東京スカイツリーや隅田川の橋の照明に彩られた美しい夜景も楽しめる。そして両国は相撲だ。コロナ禍が収束すれば、朝稽古を見学し、ちゃんこを食べるツアーを始める。(相撲部屋の)親方にもお願いをしていて、準備中だ」

――東京が都市としての魅力を高めるための課題は何でしょうか。

「コロナ禍が収まったら行きたい世界の都市はどこかというランキングで1位は東京だそうだ。安全で、食べ物もおいしく、江戸文化の魅力もあるから確かに東京が一番だという感じはある。ただ、デジタル化への取り組みは遅れているし、地震への懸念や環境の問題もある」

「今後、当社は100棟以上の開発や建て替えを進めるが、耐震のためのコストが必要になるのも事実だ。環境も大事だ。当社は(すべての電力を再生エネルギーでまかなうことを目指す国際的な企業連合の)RE100に加盟し、太陽光発電や小水力発電のために数百億円規模の投資も計画している。東京には良さもあるが、直すべきところは直していく必要がある」

――東京大会を機に、企業のスポーツや文化への貢献も一段と注目されるようになりました。

「パラバドミントンの公式スポンサーのほか、文化では将棋を応援している。日本将棋連盟の佐藤康光会長は銀行時代からの知り合いで、棋聖戦の特別協賛をしている。当社はJR千駄ケ谷駅前に土地を持っており、日本将棋連盟は建物が古くなった将棋会館をここに移転させる方針だ。隣の津田塾大学の土地と一緒に再開発をしたい。2つの土地を合わせれば、大きく、立派な開発ができる」

にしうら・さぶろう 1971年早大第一政経卒、富士銀行(現みずほ銀行)入行。2004年みずほ銀行副頭取に就任。06年に日本橋興業(現ヒューリック)社長に転じ、東証1部上場を推進。16年から現職。東京都出身。72歳。

(山根昭、近藤康介)

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