/

54歳タイソン、レジェンドの輝き見せた"復帰戦"

スポーツライター 杉浦大介

試合後のタイソン(右)とジョーンズ(左)=AP

"レジェンド"の元気な姿を見て、多くのスポーツファンは楽しんだはずである。11月28日、米ロサンゼルスのステープルスセンターで行われたボクシングのエキシビションマッチで、54歳になった元世界ヘビー級王者マイク・タイソンが、51歳の元4階級制覇王者ロイ・ジョーンズ・ジュニアと対戦。2分8ラウンドをフルに戦い抜き、結果は引き分けだった。

■ドロー判定にも満足感

「(ドローで)構わないよ。みんなが喜んでくれたのであればね」

終始優勢だったように思えたタイソンだったが、試合後、世界ボクシング評議会(WBC)が選定した特別ジャッジの微妙な採点も意に介さなかった。成熟を感じさせた元王者は、"戦いではなくエンターテインメント"というエキシビションの趣旨を理解していたのだろう。それと同時に、やるべきことはやったという満足感もあったに違いない。

全盛期には一世を風靡したタイソンだが、2005年6月の試合を最後に引退。それから15年の時を経て、公式試合ではないとはいえ、リング復帰したことに冷ややかな見方も少なくなかった。現役時代の栄光が忘れられず、ビッグマネーの魅力にひかれてカムバックを望み、失敗するアスリートは珍しくないからだ。

ただ、今戦を控え、タイソンは最低1000万ドルと報道された報酬はチャリティーに寄付すると明言。近年は経済的にも安定が伝えられていた中で、それでも復帰を選んだ理由は、コロナ禍の中で再び感じたボクシングへの愛情と情熱だったという。

「(2005年の引退時は)リングを去れてハッピーだった。ドラッグもやっていたし、もうリングにいたくなかった。ただ、今の私には意欲がある。準備はできているよ。どれだけ良いファイトができるか世界に示したい」

15年ぶりにリングに復帰したタイソン(左)。パワフルなパンチも健在だった=AP

実際にリング上でのタイソンの動きは予想以上に良く、パワフルなパンチの迫力も健在。試合後半もスタミナの急激な衰えは感じさせなかった。クリンチで時間稼ぎをしたのはより若く、3年前まで現役だったジョーンズの方だった。

米国ではペイ・パー・ビュー(PPV)と呼ばれる課金システムで放送されたこの試合。視聴には約50ドルの追加料金が必要だったが、試合終了後には不満の声は少なかった。ピーク時と比べれば身体はだぶついていたとしても、タイソン目当てにチャンネルを合わせたファンは懐かしさを感じたのではないか。

史上最年少で世界ヘビー級王者となり、一時は「史上最強」とまで称されたタイソンだったが、キャリア後半は坂道を転がるように落ちていった印象がある。婦女暴行事件で1992年から3年間にわたって収監され、1997年のイベンダー・ホリフィールド戦では「耳かみ事件」で世界的な非難を浴びた。その後もリング内外で様々なトラブルに見舞われ、選手生活終盤は厳しいものだった。

■引退後、再びリスペクトを集める

しかし、時の流れはそんな残念な記憶も風化させる。引退後、自らのブランドを設立し、トークショー、ポッドキャストも成功させ、人生を立て直したことでタイソンは再びリスペクトを集めるようにもなった。

今回の試合前も、米国での注目度はエキシビションマッチの範囲をはるかに凌駕(りょうが)したものがあった。ニューヨーク・タイムズまでが紹介記事を組むなど、話題性は健在。タイソンの方も、こうして再び戦える姿を見せ、ボクサーとしてキャリアの結末を少しでも書き換えられたことに喜びを感じたはずである。

「この試合を終えられてハッピー。また先に進んでいくよ」

試合後、老雄は絶えず満足そうな表情でそう述べた。エキシビションでも健康面のリスクは消えないだけに、レジェンドファイトの継続には反対の声も出るだろう。ただ、人気者がこうして健康にリングを降り、さらなるファイトへの意欲を見せるほど元気であることにファン、関係者は安堵した。だとすれば、少なくとも、この日の異色のイベントは"成功に終わった"と言って良かったはずである。

初割ですべての記事が読み放題
今なら2カ月無料!

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン