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コロナ禍、産学で革新 京都・大阪・神戸3大学シンポ

関西経済人・エコノミスト会議

討論する(左から)京都大学の湊総長、大阪大学の西尾総長、神戸大学の武田学長、Strolyの高橋社長、シスメックスの家次会長兼社長(13日、大阪市中央区)

日本経済新聞社と日本経済研究センターが主催する「関西経済人・エコノミスト会議」は11月13日、「関西から創る未来社会~コロナが問う変革」をテーマに大阪市内でシンポジウムを開いた。京都大学の湊長博総長、大阪大学の西尾章治郎総長、神戸大学の武田広学長、産業界からシスメックスの家次恒会長兼社長CEO(最高経営責任者)、スタートアップのStroly(ストローリー、京都市)の高橋真知社長兼共同CEOが出席。新型コロナウイルス禍をどう変革につなげるかなどを議論した。司会は日本経済新聞社大阪本社編集局長・渡辺園子。(文中敬称略)

 シンポジウムの映像は日経チャンネル(https://channel.nikkei.co.jp/e/3G20)で今後1カ月近くご覧いただけます。

湊氏 講義の本質を再構築

司会 新型コロナウイルス禍での最も困難な挑戦について聞きたい。

京都大学総長 湊長博氏(みなと・ながひろ)1951年生まれ。75年京都大学医学部卒。医学博士。京都大学研修医、同医学研究科教授などを経て、2020年10月から現職。

西尾 最も心を砕いたのは新入生のことだった。彼らはオリエンテーションを除いて大学に来ることができなかった。想定していた学生生活とかけ離れているのではないか、孤独感を強めていないか。大学は単に知識を習得する場ではない。6月以降、10回に分けて歓迎イベントを開き、ようやく私自身、対面で「入学おめでとう」と言うことができた。

 京都大も「ノーチョイス」でオンライン授業を導入し、学生からは「分かりやすい」と高い評価を得た。だが嫌みな言い方をすると、これまでどんな講義をしていたのか、ということ。教員にとって講義の本質を考える機会になった。大学教育に足りないものを再認識し、すでに失っていたかもしれない学生とのコミュニケーションを含めて再構築するいいチャンスになったと思う。

武田 オンライン授業は結果的に非常に良かった。何度も見返すことができる、利便性も高いとの声が上がった。障害がある学生にとっても快適だ。その一方で、調査では学生が人とのつながりを求めているのも分かった。大学は人と人の交流を提供する場だ。コロナ禍で全てが元に戻るのは難しいが、オンラインの良さと対面の重要性のバランスをとり、今後の教育方式を決めていく。

西尾氏 総合力向上へ新機軸

大阪大学総長 西尾章治郎氏(にしお・しょうじろう)1951年生まれ。80年京都大学大学院工学研究科博士後期課程修了。工学博士。大阪大学教授などを経て、2015年から現職。

司会 コロナ禍で大学の総合力を高めるには。

西尾 データに基づく研究を進める上で、個人情報の扱いが問題となっている。データは誰のものなのか。そこを解決するのは知財に関する法的知識を持つ人材だ。またコロナ感染者や医療従事者への差別や偏見など倫理的な問題もある。ELSI(科学技術の倫理的、法的、社会的課題)を解決しないことにはコロナ禍は乗り切れない。

人文科学系が中心となり、自然科学系を巻き込んで社会の課題を解決していく、イノベーションを起こしていく、という新たな方向性を今こそ出すべきだ。

〈キーワード〉ELSI
 倫理的、法的、社会的課題(Ethical, Legal and Social Issues)の略。エルシーと読む。生命科学や人工知能(AI)などの技術革新に伴い、重要性が指摘されるようになった。
神戸大学学長 武田広氏(たけだ・ひろし)1949年生まれ。78年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。理学博士。神戸大学教授などを経て、2015年から現職。

司会 企業は大学に何を求めるか。

家次 日本企業には年功序列が残る。だがデータサイエンスなど新しいことを学んできているのは若い人で、どう活用するかが課題だ。また様々な知見を持つ人を引き入れ、ダイバーシティー(多様性)を実現しないとグローバル競争には勝てない。大学は新しいことにチャレンジできる人材を送り出してほしい。

高橋氏 多様性受け入れ重要

司会 スタートアップには多様な人材がいる。

高橋 世界の優秀な人材に「こういう会社があるから日本に行きたい」と思ってもらいたい。小さな会社だが女性の比率は高く、海外在住のメンバーもいる。ダイバーシティーを重視するのは、意識的にイノベーションが起きる環境をつくらないとビジネスはオリジナルにならないから。若い人でも裁量と責任を持たせれば力を発揮するのを目の当たりにしている。

 Stroly(ストローリー) 地図情報サービスを手掛ける。関西文化学術研究都市の国際電気通信基礎技術研究所(ATR、京都府精華町)で社内ベンチャーとして立ち上がり、2016年に高橋真知氏らが独立した。本社は京都市。23人のメンバーの約半数を女性が占め、海外出身者や海外在籍者もいる。
会場案内などでも利用される

 ストローリーはサービス名でもあり、手描きのイラストマップなどとオンラインの位置情報を連動させる技術が特徴。移動データなどの蓄積も可能で、観光マップだけでなく、テーマパークやイベント会場案内などにも利用が広がる。

司会 オープンイノベーションの現状と課題についてはどうか。

武田 神戸大は「科学技術イノベーション研究科」を立ち上げた。理工系の学生が多いが、起業マインドを教え込む。ベンチャーを興したり、特許を取ったりする学生もいるが、修士の学生は大企業に行くことが多い。博士課程の学生は研究者として養成するが、専門性を持った企業人としても使ってもらいたいという側面もある。ただ日本の場合、博士号人材を企業がすんなりと採ってくれないようにも感じる。

〈キーワード〉オープンイノベーション
 組織の外部から技術やアイデアを取り込み、技術革新につなげる手法。2000年代初頭に米国で提唱された。企業間の協力だけでなく企業と大学の共同研究など産学連携も進んでいる。

西尾 大阪大の博士号人材をシスメックスに採用してもらった例がある。高橋さんの会社もまさに知識とアートを集約したビジネスを展開している。産業や社会構造が劇的に変わる中で、修士や博士課程まで進んでから社会に出なければ、フレキシブルに対応できる人材にはならない。知識集約型に加えてフレキシブルな人材を育成できるか。そうしたことに産業界の発展がかかっている。

 これまでの産官学連携は企業に「お膳立て」するようなものもあった。最近、企業が大学の初期研究に手を突っ込むようになってきたのは良い傾向。そこはリスクを取るべきだ。両者が入り組むような産学連携でないと本物にはならない。

今、大事なのは地球レベルの課題の意思決定に科学がどの程度関与するかだ。コロナだけでなく、災害や気候変動の問題もある。大きな課題に直面した際に迅速に対応できる体制をつくっておく必要がある。

武田氏 特徴ある文化、連携を

司会 関西の競争力を上げるには何が必要か。2025年には国際博覧会(大阪・関西万博)も予定されている。

武田 神戸には医療産業都市があり、神戸大もかかわり、デジタル、バイオなどに注力している。関西には神戸、京都、大阪それぞれに特徴ある文化があるので、うまく連携して、スタートアップを含め新たな動きを出していけばよい。

Stroly社長兼共同CEO 高橋真知氏(たかはし・まち)米大学で美術史を専攻。2016年ストローリーとして独立。19年の米スタートアップイベントで日本人唯一のファイナリストとなった。

高橋 東京に比べて、関西でスタートアップを立ち上げるメリットはないとされてきた。だが最近は支援も充実し、ベンチャーキャピタルやビジネスパートナーに出会うこともできる。先輩(メンター)の存在も重要でコミュニティーや情報共有の場が大事だ。

 京都大が以前、米国で研究シーズをプレゼンする場を設けた際、投資家がたくさん集まった。米国でそうしたコミュニティーに入るには資金が必要だというが、大学が拠点をつくり、プラットフォームとすれば「アカデミックルート」で投資家とコンタクトを取れる。グローバル展開の大きな鍵になると思う。

家次 技術革新を含めて変化のスピードが速い時代だ。関西は様々な芽を持つが、それをどう組織化していくか。特に大学と企業、一般の人がどう交流できるか。万博をどう成功させるかも経済界にとって重要となる。

基調講演・家次氏 新常態、大きな挑戦の機会

シスメックスは血液や尿などの検体検査機器を手掛けており、売上高で世界7位、血球計数検査の世界シェアは50%以上を占める。現代の医療は検査のデータがないと成り立たない。新型コロナウイルス感染症でPCR検査を一般の人も知るようになり、検査への関心が高まっている。

持続可能な社会の実現に産業界も注力しており、企業は自らの利益を追求するだけでなく社会課題の解決が大事になる。我々ヘルスケア関連企業は人々の健康への欲求や、新型コロナのような未知の感染症への対応が求められている。

シスメックス会長兼社長CEO 家次恒氏(いえつぐ・ひさし)京都大学経済学部卒、三和銀行(現三菱UFJ銀行)入行。86年東亜医用電子(現シスメックス)入社。96年社長、2018年から現職。

新型コロナには予防、診断、治療の各段階で医療課題がある。我々のミッションは、PCRなど正確な診断のための検査体制をどうつくるか、重篤化の予測など治療プロセスにおける適切な検査体制をどうつくるか、医療従事者の安全をどう確保するか――の3つだ。安全確保の問題ではロボットによる検査の自動化に挑戦している。

迅速な価値の創出には産官学との様々な協力が重要になる。スピードの速い時代に自前主義でコツコツ取り組んでいては間に合わない。とくに医療や薬事の分野では大学などとうまく連携する必要がある。

シスメックスも関西を中心に大学と共同研究に取り組んでいる。地元の神戸では神戸大学医学部付属病院などを核とする医療産業都市を舞台に、企業や研究機関が新たな挑戦をしている。オープンイノベーションがこれからの主流となり、いかに迅速に成果を上げるかが大事になる。

ポストコロナのニューノーマル(新常態)はどういう時代になるのか。新型コロナによってライフスタイルが変化し、企業ではリモートワークが一気に推し進められた。また電子商取引が広がった。これらによって東京一極集中の是正につながるのではないか。

ここで関西の良さを指摘したい。京都、大阪、兵庫というカルチャーの違う地域が集積し、ダイバーシティー(多様性)という意味でも大事だ。文化の融合によってこれまでも関西から新たなモノが生まれてきた。ポストコロナは関西の時代になるのではないか。

大きな潮目の変化がある時には必ずチャンスが生まれる。需要が蒸発して厳しい状況もあるが、チャレンジャーには大きな機会がある。関西は大きなチャレンジの機会を得たと前向きに考える必要がある。

ポストコロナではデジタル化、そしてグローバル化への対応が重要になる。世界に向けて関西から何を発信するかが問われる。ベースになるのはアカデミアだ。大学の新たな知見を企業が形にして世の中に提供し、社会課題を解決することが我々の使命だと思う。

京都大学、新たな「知」で社会に貢献 予防など11研究に助成

「京都大学が最も重視してきたのは研究者の主体性だ」。10月2日の就任記者会見で湊長博総長はこう話し「創造的な研究で社会や国民に貢献する新たな『知』をつくりだす」ことを京都大の使命と強調した。この言葉通り、新型コロナウイルス対策でも多士済々の研究者が最前線に立つ。

6月には山中伸弥教授が所長を務めるiPS細胞研究所と京大病院が大阪市立大学と新型コロナ感染症の共同研究に取り組む協定を結んだ。感染者の血液からつくるiPS細胞を活用し、病気の特徴や重症化する仕組みを解明。治療薬やワクチンを開発し、2020年中の臨床応用を目指している。

iPS細胞研究所の研究には援軍も登場した。京都大に個人で総額100億円を寄付するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長だ。iPS細胞研究所向けの50億円のうち、5億円を20~22年度に新型コロナの研究に充てるという。

世界最高の計算速度を誇る理化学研究所のスーパーコンピューター「富岳」。新型コロナ研究のため、1年前倒して4月から試験運用が始まった。ここでも京都大の研究者が活躍する。

理研副プログラムディレクターを務める京都大の奥野恭史教授らは既存の薬剤2000種類以上を対象に富岳による模擬実験を実施。7月に新型コロナ感染症の治療薬の候補となる物質を数十種類発見したと発表した。いずれも細胞内でウイルスの増殖を妨げる可能性がある。実際に細胞を使った実験で効果を調べ、製薬会社などとの臨床研究や治験も検討する。

新型コロナの感染拡大が続くなか、9月には新たな社会貢献につながる研究を後押しする独自の助成制度も創設した。総額1億1500万円の助成の対象に採択した研究テーマは11。感染症予防サプリメントの開発やポストコロナ社会の企業価値向上戦略など、人文社会系から医理工系まで幅広い分野にわたり、ポストコロナ時代の社会貢献につながる研究を推進する。

1年後の21年8月末をめどに研究成果をまとめ、具体化の計画を策定。民間企業や公的機関との連携による事業化のほか、大学発スタートアップとしての育成も視野に入れている。

大阪大学、感染症対策に新研究拠点 医学軸に横断的に対応

大阪大学は古くから強みとしている医学分野を軸に、ナノテクノロジーや情報科学など、領域を越えた知を結集して「コロナ新時代」と呼ばれる難局に立ち向かう。西尾章治郎総長は「今後の大学のあるべき姿を見直す機会にしなければならない。社会のステークホルダーと共創し、地域から世界全体に及ぶいろいろな課題を解決していく」と話す。

一つのけん引役となるのが、2021年度に吹田キャンパス(大阪府吹田市)に立ち上げる予定の感染症総合研究開発拠点(仮称)だ。

同キャンパスには医、歯、薬学部、工学部などが集積し、関連する研究所や付属病院も立地する。病原微生物学や免疫学、たんぱく質科学、ナノテクノロジーなど強みを持つ分野を結集し、新型コロナウイルスを含む感染症に対し予防や防疫、創薬などの研究開発を加速させる。「実証フィールド」として基礎研究から臨床、治験、社会実装までを手掛ける構えだ。

20年4月には「社会技術共創研究センター」、通称ELSI(エルシー)センターを立ち上げた。例えばコロナの研究でも個人情報の扱いなど法的、倫理的、社会的な問題がつきまとう。人文社会科学系からの知見で新たな科学技術の課題に横断的に対応する体制構築を進めている。

教育面では講義のオンライン化に踏み切った。基盤整備が進んでいたため移行はスムーズだったというが、今後も対面授業とメディア授業の併用による「ブレンド教育」を標準スタイルとする方針だ。障害などで通学が困難な学生も含め、教育効果が高い「インクルーシブ」な学習環境の実現を目指す。

コロナ禍では物理的な移動を伴う国際交流も困難になった。大阪大は北米や欧州、東アジアなどに拠点を構えている。ネットワークを活用し、「バーチャル留学」や従来型の留学との「ハイブリッド」型のプログラムも積極的に推進していくという。

こうした研究・教育体制を支えるには、教職員の働き方改革も不可欠だ。希望者全員のテレワーク実施や会議時間の50%削減のほか、学生サービスのオンライン化や情報基盤の整備をさらに推進していく。

神戸大学、産官学連携強め地域活性化 文理の壁越え人材育成

コロナ禍で社会のしくみや生活習慣が大きく変わる中で、神戸大学では現在3つの特徴的な取り組みを進めている。

1つ目は2021年春の新学部「海洋政策科学部」の発足だ。ヒトやモノの流れが大きく変わる中で、海に関する様々な課題に取り組むグローバルリーダーや、海洋資源の探査などに取り組む専門人材を総合的に育成する。22年春には新練習船を導入する。

2つ目は、社会の様々な課題に迅速に対応するための産官学の連携強化の仕組みだ。4月に学長直轄の産官学連携本部を発足し、2月には全額出資で「神戸大学イノベーション」を設立した。神戸大で生まれた研究成果を産官学連携や技術移転を通じて実社会で生かすのが狙いで、新会社では知的財産戦略や技術移転、スタートアップの育成支援などを担う。

バイオや先端医療などの分野では神戸大発の研究成果をもとに起業を後押しする取り組みも進めており、これまでにゲノム編集やDNA合成などのスタートアップ企業が育っている。医療機器分野ではシスメックスと川崎重工業の折半出資会社、メディカロイド(神戸市)と連携し、国産初の手術支援ロボットの開発を支援している。

3つ目が、既存の価値観にとらわれないイノベーション(革新)を生み出す人材の育成だ。そのために4月に立ち上げたのが全学横断組織「バリュー(V.)スクール」で、文系や理系を問わずすべての学部生や大学院生が自由に参加できる。文理の壁を越えて多様な人材が交流しながら、新たな価値の創造について考える場にする。

武田広学長は「価値創造の教育と研究を体系化し、社会にとって革新的な価値を生み出す人材を育てる」と話し、世界をリードする拠点にする構想を描く。定員30人に対して約60人の学生が集まり、活発な議論がなされているという。

研究の成果を社会に役立てるため、V.スクールが地元金融機関と連携し、新型コロナ禍で疲弊する地元中小企業の新事業創出を支援するプロジェクトも始まった。神戸大の研究成果や知見など様々なリソースを活用して地域経済の活性化に貢献する考えだ。

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