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危機の時代 空想羽ばたく 民博教授×作家、対談

文化の風

対談する国立民族学博物館の西尾哲夫教授(右)と作家の森見登美彦氏(6日、大阪市中央区)

閉塞感に満ちた現代に「妄想」する意味を改めて問う講演会「ファンタジーの挑戦 もうひとつの世界を想像しよう」が11月6日、日本経済新聞社大阪本社カンファレンスルームで開催された。「千一夜物語」の研究で知られる国立民族学博物館(民博)の西尾哲夫教授と多くのファンタジー小説をヒットさせた作家、森見登美彦氏がコロナ禍の中で空想の翼を羽ばたかせる大切さを語り合った。

民博は毎年秋に東京で講演会を日経新聞と共催しており、今回は21回目。今年は新型コロナ感染拡大を受け大阪での開催となった。

最初に西尾教授が「アラジンはなぜ世界を魅了するのか? ファンタジーの文明誌」と題して講演した。千一夜物語はフランス人のガランがアラビア語の原典から仏語に翻訳し広く知られるようになった。だが、その中で語られる「アラジンと魔法のランプ」の物語は原典になく、ガランがシリア出身の商人ディヤーブから入手した原稿を基に翻案したとみられている。

西尾教授は「西の辺境から来た魔術師が、アラブ世界の奇譚(きたん)を、東の果てである中国に仮託した物語。それをアラブ世界出身のキリスト教徒だったディヤーブが語り、ヨーロッパ人のガランが再構成した」と説明。「複数の文明を往還する普遍性や様々な要素をパーツ化した柔軟性、時代の心性に合うリセット機能を備えるからこそ世界中の読者を魅了した」と分析した。

日々の断片が膨張

その上でファンタジー小説の本質を「受け入れる社会に合わせて自らの形を変えていく。読み手がどこにいても上手に『もうひとつの世界』を考えさせる」と指摘。「世が乱れるとファンタジーがブームになるといわれるが、社会が危機に直面することでファンタジーが生まれ変わり成長するのでは。人類が進化しながら生み出すのがファンタジー小説だ」と考察した。

続いて「妄想が世界を創る!」をテーマに森見氏と西尾教授が対談した。森見氏は、融通無碍(ゆうずうむげ)に展開する物語を創作する舞台裏について「書きたいと思うシチュエーションや人物、言葉などの『断片』や、自分の人生や生活に結びついた『断片』が、自分の中でゆらゆらしている。その一つが膨らみ、他と結びついて物語になる」と語った。

西尾教授が「ファンタジーはあらゆる世界を描き得る可能性を秘める。どうやって作品に閉じ込めるのか」と尋ねると、森見氏は「世界観が壊れないよう自分なりの基準がある。ただし自分の内にあるものでしか書けず、そこが弱みになっている」と自己分析した。

西尾教授が現在のコロナ禍に関連して「地球規模の災厄の中で、ファンタジーが想定しなければならない世界が極大化している。現実世界に妄想があふれ出す中で、現実とどのように距離感を保つのか」と問うと、「材料を集めて書くのは苦手」という森見氏は「コロナをテーマに小説を書きたいとは思わない。自分の中でモヤモヤしているものを書くうちに気が付くとコロナだった、という感じで書かなければ、自分の場合はファンタジーにはならないだろう」と答えた。

探偵、京都舞台に

 森見氏が「今取りかかっているのは京都を舞台にしたシャーロック・ホームズのニセモノの物語だが、うまく書けない。デビューしたころは何も狙わず、がむしゃらに書くうちに落ちるところに落ちた。これでは立派な小説家になれない、と構想を立てて取材するよう努力してきたが、自分には合わない」と悩みを打ち明けると、西尾教授は「自分はホームズのファン。新作に期待している」と激励し、講演会を締めくくった。

(編集委員 竹内義治)

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