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米国に迫る新たな南北戦争(重見吉徳)

フィデリティ投信 フィデリティ・インスティテュート マクロストラテジスト

米国では、2021年から新しい政権が誕生する見込みですが、米国も世界も、大きく見れば、まだ変わらないでしょう。なぜなら、所得や富の格差拡大は続くと見られるためです。実際、選挙後は「融和」や「団結」が訴えられながらも、そのそばから、株価は上昇し、格差はさらに開いています。

この株価の反応のとおり、暫定ながら今回の選挙結果は、世界の投資家にとって、望ましいものとなったようです。

議会は、「ねじれ」が続くことで、大手テクノロジー企業への規制強化や、医療保険制度改革、企業や富裕層、投資家への増税の可能性は低くなります。

次に、第46代アメリカ合衆国大統領には、民主党のジョー・バイデン氏が就任する見込みです。保護主義の姿勢が緩み、経済活動のグローバル化が維持される可能性が高くなります。

例えば、対中姿勢は相対的に温和になって、米中双方の企業はビジネス環境を維持できる可能性が広がるほか、高スキルの労働者を含む移民の積極的な受け入れも再開されるでしょう。

合わせて、米国は、世界保健機関(WHO)の加盟継続、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」やイラン核合意への復帰などの国際協調路線に復帰すると見られます。

すなわち、今回の選挙結果は、金融市場の投資家のみならず、政治家や国際官僚、セントラルバンカー、企業経営者、富裕層などのエリート層にとって、「まだ、現在の栄華や格差が許容される」という意味で、ほぼ完璧に近いものだったわけです。

それは何より、トランプ大統領が、この4年間に「白人・中間層」の支持をしっかりと維持できたことが大きいでしょう。なぜなら、トランプ大統領の善戦によって、所得や保有資産の「下位50%」の層が分断されたままになり、「下位50%」の人たちが、格差の是正で一致団結できないままになったためです。つまり、世界は(まだ)変わらないということです。

平和による長期の繁栄と資本主義は、格差の拡大を生みます。中道寄りの大統領府と議会の「ねじれ」を考えれば、格差は縮小しそうにありません。消費性向の高い中間層や低所得者層への恩恵は少ないために、大きく見れば、実体経済は「低体温状態」が続くでしょう。

データが取れる1900年代からの大きな流れを見ると、第2次大戦が始まる前までは、格差の拡大とともにディスインフレになり、第2次大戦以降1970年代までは、格差の縮小とともにインフレの傾向が生じました。直近では、1980年代以降の格差の拡大とともに、ディスインフレの傾向が続いています。

一般物価のディスインフレ傾向によって、金融緩和は続き、資産価格だけは上昇します。それは、個人投資家にとって、資産運用の重要性を示唆します。

確かに、米国人の「気質」に従えば、(たとえ貧しくとも)自由を志向し続ける可能性があり、米国では、下位50%の団結や、左派政権の誕生は思想的に難しいのかもしれません。

しかし、格差の拡大と連邦債務の増加は、「下位50%」の団結ではなく、逆に、富裕層が集まる州による連邦からの離脱運動という別の分裂の形として、米国や世界を揺らがす可能性もゼロではないかもしれません。

投票前、世論調査の多くが「フロリダで民主党優勢」とし、「テキサスも民主」との評論もありました。筆者は「本当にそうか」と疑問に感じました。なぜならこれらの州の所得税率は0%であるためです。

米国の国勢調査で2019年時点の国内移住者の変化率(2010年比)を取ると、2010年時点で所得税の最高税率が高い州や、2000年対比で2010年の最高税率が上昇している州では、人口の減少率が大きい傾向が見られます。静かなる離脱と分裂は進んでいるのかもしれません。

スペインの地域独立運動や各国の法人税率引き下げ競争、租税回避地は現代の実話ですが、フランスの思想家トクヴィルは、「アメリカのデモクラシー」の中で、米国国内の産業の違いによる関税政策や奴隷労働、人口の変化や新たな州の加盟に伴う大統領選挙人や連邦議員の数などでの諸州の対立と分裂を懸念し、その懸念は、南北戦争という現実になりました。

米中よりも重大な対立が、迫っているのかもしれません。

プロのポートフォリオは運用に精通したプロが独自の視点で個人投資家に語りかけるコラムです。
重見吉徳(しげみ・よしのり)

2002年大阪大大学院了(経済学修士)。農林中央金庫や野村アセットマネジメントで外債などの投資・運用業務に従事。JPモルガン・アセットマネジメントを経て、20年より現職。
[日経ヴェリタス2020年11月29日号]

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