韓国映画、女性監督が躍進 作品テーマも多彩に

韓国映画「82年生まれ、キム・ジヨン」が公開中だ。原作は韓国で130万部を突破し、日本でも20万部を超えた小説。ある女性の半生を振り返りながら、女性であるが故に経験してきた理不尽さや不平等などを描き、韓国では367万人の観客を動員した作品だ。
実はこの映画は、今年日本でヒットした韓国映画「はちどり」と大きな共通点が2つある。1つは、いずれも1人の韓国女性が社会における女性としての自らの生きづらさを描いたものであること。「はちどり」は1994年の韓国を舞台に、14歳の多感な少女が外の世界を知っていく過程を描いた作品で「キム・ジヨン」の主人公とはほぼ同年代に当たる。もう1つは、女性監督による映画であることだ。
2つの作品の背景には、韓国社会に根付く「女性嫌悪(ミソジニー)」に対して2015年ごろから起こった「フェミニズム・リブート」の動きが挙げられる。16年にソウルでミソジニーが動機とされる江南駅女性殺人事件が起きたことも起爆剤となった。時を同じくして米国で「#MeToo」運動が生まれ、大きなうねりを見せていった。
韓国映画に詳しい映画ライターの佐藤結氏は「インディペンデント映画と商業映画の2つの流れから、ほぼ同時期に話題作が出たことに大きな意義がある。ごく普通の女性の生きざまをテーマにした作品は、これまでにもインディペンデント映画ではあったが、商業映画では初めてのこと」と語る。
フェミニズム的な視点が前面に出たこの2作だが、実際には女性監督の作品テーマは多岐にわたる。日本でも秋から注目作が相次ぎ、映画では「詩人の恋」「君の誕生日」が公開。9月25日にNetflixで配信が始まった「保健教師アン・ウニョン」は、サスペンス・スリラー「荊棘(ばら)の秘密」(16年)で脚光を浴びたイ・ギョンミが監督を務めている。

女性監督の躍進の裏には、韓国映画界が意識的に女性に機会を与えていることもある。「代表的なのは『バーニング 劇場版』や『シークレット・サンシャイン』のイ・チャンドン監督。『私の少女』(チョン・ジュリ監督)や『君の誕生日』(イ・ジョンオン監督)など女性監督の作品でプロデューサーを務めており、意識的にサポートを続けている」(佐藤氏)
韓国映画100周年の19年に行われた、100人の監督がそれぞれ100秒の作品を制作するプロジェクト「100×100」(主催・韓国映画振興委員会〈KOFIC〉)では、監督の男女比は同じに設定。「プロジェクト統括のミン・ギュドン監督が『100年の歴史を振り返ると監督の性別は片側に傾いているが、今後100年を見据えると同じ比率で構成するのが至極自然』と語っていたのが印象的。映画業界全体として女性監督に機会を与えることで"より正しい"方向に舵(かじ)を切ろうとする意思を感じる」(佐藤氏)
米国では9月に映画芸術科学アカデミーが、24年から作品賞の新たな選考基準として「制作スタッフの重要なポジションに女性やLGBTQ(性的少数者)、障がい者が就くこと」などを挙げたが、韓国でも同じ流れが進んでいきそうだ。
(「日経エンタテインメント!」11月号の記事を再構成 文/横田直子)
[日経MJ2020年11月27日付]
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