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ボールでもストライク? 状況で変わるストライクゾーン

野球データアナリスト 岡田友輔

リプレー検証が定着したプロ野球にあって、いまだに異を唱えることが許されない聖域がある。ストライクとボールのコールだ。ストライクゾーンを明らかに外れていても球審がストライクといえばストライク、真ん中でもボールといえばボールである。納得できないことがしばしばあるのはやむを得ない。審判はときに誤り、ストライクゾーンは状況によっても変わるのだ。

判定に納得がいかない阪神・サンズ。ストライクゾーンはカウントによっても変わる=共同

米大リーグでは全球場にレーダーやカメラを駆使したボールの追跡システムが設置されている。最新のテクノロジーを使えば、投球がストライクゾーンを通過したのかどうかは一目瞭然だ。審判の技量も丸裸になってしまう。

2018年にボストン大学の研究チームが発表したところによると、同年の球審の「誤審率」は9.21%。この数字が多いか少ないかは意見の分かれるところだが、08年の16.36%からは大きく改善したという。個々の誤審率はリーグによる査定にも使われるから、ジャッジの正確性は審判にとって死活問題となる。テクノロジーの進化が技量向上をもたらしたのだ。

2ストライク後の「誤審率」は21%

それでも、誤審率が突出して高い状況がある。2ストライク後の判定だ。フルカウントからの際どい1球は三振と四球の分岐点だ。2ストライク後の誤審率は21.45%にも上るという。08年の36.68%からは改善しているが、5球に1球は間違った判定が下されているということになる。

近年は日本でも多くの球場が追跡システムを導入している。しかし残念ながら、球審の誤審率などは公表されていない。そこでデータ分析を手掛けるDELTAでは目視により、ルールブック上のストライクゾーンと球審の判定がどれだけ一致しているのかを調べてみた。テクノロジーを使った統計に比べると精度では劣るが、大まかな傾向を把握することはできる。そこで確認できたのは、現実のストライクゾーンの広さはカウントによって変わるということだ。

18年のデータを見てみよう。例えばカウント0-0では、ボールゾーンへの投球がボール判定された一致率は83.7%、ストライクゾーンへの投球がストライク判定されたのは72.7%だった。ところがカウント0-2になると、ストライクゾーンのボールがストライクとコールされる確率は僅か24.7%になってしまう。一方、3-0になるとストライクの一致率が83.5%になるだけでなく、ボールゾーンへの投球でも2割以上がストライクと判定されている。つまり「2ストライクではストライクでもボール、3ボールではボールでもストライク」。これはファンの皮膚感覚ともおおむね一致するのではないだろうか。

日本シリーズでストライクを宣告される巨人・亀井。様々な球種を瞬時に判定する球審は高度な専門職だ

ここから推察されるのは、審判は極力、自分のコールで打席を終わらせたくないという人間心理である。恐らく無意識のうちに、審判は打者が何かしらの打球を飛ばして決着をつけてほしいと願っているのだ。人間は自分の判定が他人の運命を決めることを、極力避けたいのだろう。

大リーグも含め、ストライクゾーンについてはほかにも様々な興味深い検証結果が報告されている。ルール上のストライクゾーンは長方形だが、実際の運用では高低が狭く、横に広い傾向があり、四隅も角張っておらず、全体的に丸い傾向になっている。また、特に米国では、煮詰まったカウントでホームチーム有利の判定が多いことが確認されている。これは審判の意図的なひいきというより、際どいボールに起きるホームチーム寄りの歓声やどよめきがジャッジに影響を与えるからと考えられている。地元ファンの熱狂に乗せられて、ホーム有利の判定をしてしまうのだ。バスケットボールやサッカーなどにおいて、この傾向は一段と顕著に出る。ただ、日本のプロ野球においては確認できない。日本の審判は公明正大なジャッジをしているといえるだろう。

機械的な正確さとともに「良い判定」を

こうしたバイアスを踏まえたうえで、審判はどうあるべきだろうか。大リーグではルールブックにのっとった「正しい判定」が求められる傾向が強まっている。しかし定義上のストライクゾーンを厳密に適用すると、ホームプレート上でストライクゾーンを通過した後、捕手の前でワンバウンドするような落ちる球もストライクになる可能性がある。大リーグでかつてボールと判定されていた高めの多くがストライクになったのは顕著な例。それにより、有効な球種や配球、打者の対応を含め、大リーグの野球は変わった。機械的な判定で正確性を向上させると同時に、競技への影響については慎重に考えた方がいいかもしれない。

150キロや大きく変化するボールがストライクゾーンをかすめたかどうかを瞬時に判断し、コールするという球審の仕事は高度な専門職である。最新のテクノロジーが誤審を暴き、審判をたたくためのツールになってしまっては不幸である。機械にもミスはあるし、人間が機械の助けを借り、より良い判定を目指していくのが望ましいあり方だろう。「良い判定」と「正しい判定」をどのように擦り合わせていくかは、議論を重ねていくしかない。

岡田友輔(おかだ・ゆうすけ) 千葉県出身。大学卒業後、民放野球中継のデータスタッフやスポーツデータ配信会社勤務を経て2011年に独立。株式会社DELTAを立ち上げ、野球のデータ分析やプロ球団へのコンサルティングなどを手がける。

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