大韓航空がアシアナ買収 ANA・JAL再びちらつく統合論

韓国航空首位の大韓航空が2位のアシアナ航空を買収する。政府が主導した再編だ。コロナ禍で打撃を受ける航空業界に対し、各国で政府が関与を強めている。ANAホールディングス(HD)と日本航空(JAL)の間でも、かつてのような統合論が再燃してもおかしくない。
大韓航空はアシアナを1兆8千億ウォン(約1700億円)で買収する。韓国ではLCC(格安航空会社)が多く、競争激化でアシアナは経営難に陥っていた。一時は同国の建設大手による買収で合意に至ったが、コロナ禍で破談。そこでアシアナの再建を主導していた政府系の韓国産業銀行が、大韓航空による買収の枠組みをとりまとめた。
各国の政府が大手支援

韓国産業銀行は大韓航空の持ち株会社に出資し、再編の資金としてもらう。韓国などの独占禁止法当局の審査を受け、2021年中に買収手続きを完了する計画だ。運航規模を示す旅客キロ(旅客数と輸送距離を掛けた数値)を単純合算すると、ANAやJALを上回る世界15位の大手が誕生することになる。
コロナ禍が世界でまん延し、各国の航空大手が苦境に陥る中で、一つの大きな流れになっているのが政府による支援だ。世界トップ3の企業を抱える米国の政府は、1社当たり最大7800億円の融資枠を設けた。独ルフトハンザには独政府が直接、20%出資し一部国有化した。韓国での動きも、こうした再編の流れの延長線上にある。
コロナ禍に見舞われてから、世界の航空産業を巡る状況は大きく変わった。日本でも、「社風の違うANAとJALだが、コロナ禍の状況次第では統合を考える必要が出てくる」(航空会社幹部)という声が聞かれる。
ANAもJALもこれまで統合という考え方を否定してきた。業界関係者は「日本よりも経済規模が小さい韓国ですら2社体制だから、日本に2社あってもおかしくないと言えた。だが、大韓航空によるアシアナ買収でその言い分は通らなくなった」と話す。
もともと日本市場については、経済規模などから見て大手が2社ある必要はなく、再編すべきだという考え方があった。例えば米国は、国内総生産(GDP)が日本の4倍なのに大手は3社しかない。コロナ禍の前からANAもJALも不採算路線を抱え、日本全体としてみれば効率が悪いというわけだ。
日本の航空行政は、独占禁止法の考え方を重視しながら進められてきた。例えば、新興勢の独立性を守るため、大手が2割以上を出資すると「ドル箱」である羽田空港の発着枠を出資先が返上しなければならないというルールが運用されてきた。スカイマークやソラシドエア(宮崎市)、スターフライヤー、AIRDO(札幌市)へのANAの出資が10%台にとどまるのはその象徴でもある。
極端な業績悪化が続く可能性がある今、これまでとは違う考え方があってもいいというのは航空大手の元幹部。「特にANAが厳しい状況に置かれている。ANAとJALを統合させた上で、ANAHDが出資するスカイマークなどは完全に独立させ、国内線での競争環境を保つというような考え方はあり得る」と話す。
浮上した国際線事業の統合

かつてANAとJALの統合論が浮上したのは、JALが深刻な経営難に陥った09年のことだ。当時の民主党政権内で、2社の国際線事業を統合した上、国内線は引き続き2強体制を維持するという案があった。
これに対して国土交通省は「競争環境を維持するため、少なくとも2社、できれば3社は必要と考えていた」(大手関係者)。JALの経営状況は緊迫し、統合に向けた議論を深める時間がなかったこともあって、10年にJALは会社更生法を適用し、政府主導で経営再建することになった。
政府はその後、航空産業の公平な競争環境を保つためとして、ANAに羽田空港の発着枠を多く割り当てたり、JALの事業拡大を制限したりするなどの形で関与し、2強体制を維持させようとしてきた。
だが、両社とも苦しい経営が続いている。足元の数字から、計画通りに進むか心もとない状況が見てとれる。
JALは21年3月までに、国際線の旅客需要がコロナ禍前の25~45%、国内線で72~87%まで戻ると想定しているが、10月の旅客数(速報値)は国際線が前年同月比4%、国内線で53%にとどまる。ANAも21年3月末時点で国際線が5割、国内線で7割まで回復すると試算しているが、10月は国際線4%、国内線で43%となっている。しかも、コロナ禍の第3波によって市場の不透明感が増している。
そもそもANAやJALは、高単価のビジネス需要について、いつになってもコロナ禍前の水準に戻ることはないと見ている。テレワークやオンライン会議の普及をそれだけ重く受け止めている。
欧米の航空大手は01年の米同時多発テロや08年のリーマン・ショックで打撃を受けて再編を進めてきたが、日本の体制は変わらなかった。今、韓国の首位と2位が統合するほど経営環境は変わっている。航空業界のニューノーマルとして現状の2社体制のままでいいのかどうか、改めて考えざるを得ないのかもしれない。
(日経ビジネス 高尾泰朗)
[日経ビジネス電子版 2020年11月25日の記事を再構成]

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