秋の4試合で見えた 森保J、カタールまでの道
サッカージャーナリスト 大住良之

新型コロナウイルス感染が再燃するなか、試合実施自体が「綱渡り」のような状況で行われた10月と11月の日本代表活動。それは、あまりに特殊な状況下ではあったが、2018年ロシア・ワールドカップ後に就任した森保一監督の下での「2年間の総決算」とも言うべき試合だった。
日本代表の次の試合は来年3月と6月に行われるカタールワールドカップのアジア2次予選の残り4試合。そして9月には、2次予選とは比較にならない強豪と対戦するアジア最終予選がスタートする。この秋の4試合を振り返り、日本代表がどこまで到達したか考えてみたい。
■「テスト」の上でのメキシコ戦完敗
日本国内で国際試合ができないなかでたどりついた欧州での4試合。その最後は、4つの相手のなかで最も国際サッカー連盟(FIFA)ランキングが高い11位のメキシコだった。この強豪に対し、前半、日本は相手の強烈なプレスを逆手に取るように再三決定機をつくってシュートを放った。しかしそのチャンスを決めきれない。後半は、システムを変えて日本の攻撃の中心となっていたMF鎌田大地を封じる策をとったメキシコに対し苦しい時間が続き、2点を奪われての完敗という形になった。
「勝利を目指す」と「ベストメンバー」を送り出したはずの森保監督だったが、それでも小さな「テスト」を入れていた。左サイドに計算の立つ長友佑都ではなく若い中山雄太を使ったこと、そして「ワントップ」に南野拓実ではなく鈴木武蔵を使ったことだ。いずれも、チームとしての選択肢を増やすための起用だった。
後半の相手の変化に対しても、対応策を取ろうと思えば難しいことではなかっただろう。しかし相手に対応して自分たちの形を崩すより、勢いづいたこの強豪を相手に日本がやろうとしていることがどこまで通じるのか、交代で送り出す選手がどんな変化をチームに与えてくれるのか、さらには、この状況をピッチ内で選手たちがどのようにコミュニケーションをとって解決するのか、「実験」のように試合を見ていたように思われた。
残念ながら後半はチーム全体の運動量が落ちてしまい、後手の状況が続き、良いところはほとんど見られなかった。「実験」は好ましい結果こそ出なかったわけだが、だからといって無駄であったとか、方針を変えるべきだという話ではない。

「攻撃も守備も、改善しなければならないポイントはある。しかしチームの戦い方としては、いまやっていることをより長い時間、強度が高いなかでやっていけるように、個のレベルを上げながらチームのレベルを上げていきたい」
メキシコ戦後、森保監督はこのような話をした。
10月からの4試合を振り返ると、大幅に先発メンバーを変えて臨んだ11月のパナマ戦を除外すれば、「長い中断期からのリハビリが順調に進んでいる」という経過だったのではないか。10月のカメルーン、コートジボワールとの2試合は、守備面でのチームの方針がきちんと消化され、無失点。前線からの守備が効いたことで、センターバックの吉田麻也と冨安健洋のコンビが力を十二分に発揮できた。その一方で、攻撃面ではコンビネーション不足や意思疎通の欠如が随所に見られた。
しかし11月の試合では、メキシコ戦の前半のようにリズミカルなパスで相手の堅守を何度も崩すことができた。非常に残念だった後半のプレーについては、その要因を分析することは重要だが、森保監督の言うとおり、前半の半ばにできていたことをより長い時間にわたってできるようにすればよいということで、「道」は見えているように思う。
■チームのため、ファンのために結束求める
18年秋、森保監督が就任してからの数カ月間は、南野、堂安律、中島翔哉といった「ポスト・ロシア」の若手アタッカーたちが躍動し、大迫勇也とともに心浮き立つ攻撃を見せて高い評価を得た。翌19年1月には、コンディション調整が難しいなかアジアカップ準決勝でイランを相手に最高のゲームを見せた。そしてその後始まったワールドカップ2次予選では、アウェーの難しい状況で攻撃のリズムは狂わされたが、きちんと無失点で4連勝。最終予選進出を決定的にした。
本来なら、ことしの6月までに2次予選を終え、9月から親善試合を挟みつつ最終予選を戦う予定だったが、新型コロナウイルスで9月まで活動は完全にストップ。10月にオランダで行われた2試合は、昨年11月に行われた2次予選、アウェーのタジキスタン戦以来、実質的に11カ月ぶりの活動だった。

選手は個々には所属クラブでプレーしている。しかし11カ月も活動がなかったチームが本来のリズムを取り戻すのには時間がかかる。この10月と11月が、いわば「リハビリ」期間であったことを忘れてはならない。その状況下では、「できなかったこと」より「できたこと」にフォーカスすべきだろう。
当然、11カ月もの空白によって森保監督が考えていた「カタールまでの道」は大きなダメージを受け、強化スケジュールも修正を余儀なくされたのは間違いない。しかし「チーム」というものが、右肩上がりでなくアップダウンを繰り返しながら成長していくものであることを考えれば、そのダメージを最小限に食い止めることは不可能ではない。
何より、「非常事態」のなかで行われたこの2カ月の活動で、森保監督からの強い働きかけもあり、選手たちがチームのために戦い、日本中のファンや国民のために結束することを完全に理解し、行動できるようになったのは、目には見えないものの大きな成果であり、前進だ。この成果が、最後の最後、最も重要な局面でものを言うのではないか。
21年前半に2次予選の4試合を戦うなかで、今秋の4試合で出た課題を克服し、さらに来年秋からの最終予選で新しい課題に取り組むことによって、カタール大会のある22年秋には、森保監督の強化計画どおりのチームができるのではないか。私はそう期待している。