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幅広い視点で金銭感覚育む お金に強い子供の育て方

アジア開発銀行駐日代表事務所代表 児玉治美さん

アジア開発銀行(ADB)の駐日代表を2019年5月から務める児玉治美さん。ADBは、アジア・太平洋地域の途上国へ貸し付けなどを行う国際開発金融機関だ。民間企業も貸し付けの対象で、技術支援なども担う。途上国の女性支援を行うNGO(非政府組織)や国連人口基金(UNFPA)で活動した経験も持つ児玉さん。途上国支援を通して持つようになったお金観とは。また、子供へのマネー教育はどのように行っているのだろうか。

児玉治美(こだま・はるみ) 議員秘書を経て、1998年から国際協力NGO(非政府組織)のJOICFP(ジョイセフ)で活動。2001年から国連人口基金(UNFPA)ニューヨーク本部に勤務。08年、アジア開発銀行(ADB)に転籍。19年5月からADB駐日代表事務所代表。

ミクロとマクロ、両方の視点でマネー教育

――約1年前、フィリピンのADBマニラ本部から東京へ。長年海外で国際支援に尽力してきた児玉さんは、日本に住むのが18年ぶりだそうですね。

久しぶりの日本で、最初は少し「浦島太郎」のような気持ちでした。ずっとマニラで暮らしてきた子供たちにとっては、日本での生活は初めて。新鮮な気持ちで東京での暮らしを楽しんでいるようです。

夫が米国人なので双子の息子たちはハーフですが、生まれは日本。私の地元、鹿児島県で里帰り出産をしたためです。日本に戻ることを決めた時、子供たちは「母国で暮らせる」と喜んでいました。

――マニラでの暮らしはどのようなものでしたか。

現地の街の様子は、当然ながら東京とは全く異なります。教育の機会が限られている子供も多く、十分な保健やサービスが行き渡っていないのが現状。狂犬病などの感染症で亡くなる子供もいます。

息子たちはマニラでの生活で、貧困とはどういうものなのかを肌で感じて育ちました。貴重な経験だったのではないでしょうか。

――近年の経済発展が目覚ましいアジア・太平洋地域ですが、貧困問題も絶えません。

「国際貧困ライン」とされる絶対的指標は1日1.9ドルで暮らす生活。その水準、あるいはさらに貧しい暮らしをする人がアジア・太平洋地域には2億6000万人いるとされています。

1.9ドルというと、日本円では約200円。東京の喫茶店でコーヒーも飲めないようなお金で日々の生活を賄っている。ここ30年で貧困問題は改善されてきましたが、今後はコロナ下の世界的な景気悪化・雇用喪失が足を引っ張るでしょう。

――具体的な数字を知ると、現状の深刻さを実感します。

ADBの仕事では幅広い視点での金銭感覚が必要です。途上国への貸し付けで億ドル単位のお金について考える一方で、1日数百円以下で暮らしている人々がいるということを忘れてはいけません。

生活にかかるコストを具体的に教える

――家庭ではどんなマネー教育をされていますか。

息子たちにも幅広い視点での金銭感覚を持ってもらいたい。そのためには、マニラでの生活水準を知る彼らに、日本での生活費を知ってもらうことが役立つと考えました。「生活にはいくらお金がかかるのか」というミクロな視点での金銭感覚を身に付けてもらう一方で、フィリピンと日本の貧富の差を具体的に知り、マクロ的な金銭感覚も得てほしいと思っています。

かなり詳細に、家賃、光熱費、所得税と住民税、年金の額、社会保険料など、生活にかかる費用を教えます。それぞれが何のためのお金なのかも、理解してもらう。おかげで息子たちは「東京の生活費はマニラと桁が違う。万が一、お母さんの収入がなくなったらまずいぞ」という危機感を持っているようです。

――金銭感覚を身に付けると同時に、「お金がなくては生活できない」ということを、よりシビアに実感しているわけですね。

子供が小さいからといって、親が具体的なお金の話を避ける必要はないと思っています。私の資産運用の状況も、息子たちに隠すことはありません。運用はファイナンシャルアドバイザーに任せていて、3カ月に1回は通信ソフト「スカイプ」でやり取りをするのですが、よく息子2人でその様子を見ています。

「この金融商品をあとどれぐらい買おうか」「もう少しリスクを取った方がいいだろうか」。私がそういった相談をするのを見て、子供ながらに投資を身近に感じてくれたらうれしいですね。銀行口座に眠らせるだけがお金の在り方ではない、ときっと彼らは分かっているはずです。

リサーチやプレゼンを重視

――お子さんたちはインターナショナルスクールに通っています。日本の学校と教育法に違いは。

インターナショナルスクールは、生徒たちにより能動的な学習姿勢を求めていると感じます。関心があるトピックを生徒自身に選ばせ、自分でリサーチしてプレゼンさせることをとても大切にしている。

我が家でも、欲しいものがあったら私に向けてプレゼンさせます。例えば何か欲しいゲーム機があるのならば、類似商品とのスペックの違い、価格の比較、オンライン通販でのレビューの中身までしっかり調べてもらう。

「積極的に調べる」という姿勢を持てば、政治や社会問題についても興味が湧きます。息子たちはトランプ氏対バイデン氏の米大統領選に強い関心を持ち、テレビ討論会は全てフォローしていました。ハイライト版ではなく、約1時間半の討論を最初から最後まで、2~3回繰り返し見るのです。

どちらの候補がいいのか、私も一緒になって議論しました。親子で話し合うことで、自分の意見を持ち、それを他者に伝える能力を身に着けてもらいたい。米大統領選だけでなく、気候変動やジェンダーなどについて議論することもあります。

政治や社会問題は、世の中のお金の動きとも密接に関わっています。ADBが途上国に貸し付けを行う際も、その社会背景を考慮することは必須です。我が家での議論は、広い意味でのマネー教育と言えるかもしれません。

――国際的な視点を持っていることが、息子さんたちの将来の仕事に役立つかもしれませんね。

息子の一人は、いつかADBで働きたいそう。もう一人は米国の大統領になりたかったそうですが、日本生まれのため実現できないことを悔しがっていました(笑)。今は政治家か医師になりたいとか。将来の夢はいずれ変わるかもしれませんが、親としては夢を大きく持ってもらいたいと感じます。私自身、「できないことは何もない」というマインドで生きてきました。

1ドルの重みも忘れない

――児玉さんは20年以上にわたって公的機関で活動されていますが、民間企業とは違った苦労もあったのでは。

UNFPAは加盟国からの任意拠出金で賄われており、十分な活動資金がない時がありました。同僚や自分の給料を、提案書を書いて財団から調達したことも。

1ドル単位からの募金活動を行うこともありました。1ドルあれば、途上国の女性が安全に出産するための分娩キットが買えます。そうした経験から、マクロ的な視点でお金を見つめるだけではなく、ほんの小さなお金に目を向ける大切さも感じています。

――「幅広い金銭感覚を養いたい」という教育方針の背景には、そうしたご自身の経験もあったのですね。

そうですね。生活費といった身近なお金について教える一方で、政治や社会問題について考える機会を与えることで、ミクロとマクロ、両方の視点からお金を見つめる力を育みたいと思います。「米国人の父を持ち、日本人だけれど途上国暮らしは10年以上」という国際色豊かな生い立ちも、幅広い視点を持つために生かしてもらえるとうれしいです。

(大松佳代)

[日経マネー2021年1月号の記事を再構成]

日経マネー 2021年1月号 会社員でもつくれる!老後資金1億円

著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2020/11/20)
価格 : 820円(税込み)

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