竹芝からeスポーツ躍動 東京五輪で動き出す産業集積
中村伊知哉CiP協議会理事長に聞く

2021年の東京五輪・パラリンピックはアニメやゲームなどの日本が誇るコンテンツを世界にアピールする好機でもある。今秋に開業した東京ポートシティ竹芝(東京・港)をデジタルコンテンツ産業の集積地にしようと活動するCiP(コンテンツ・イノベーション・プログラム)協議会は東京大会に合わせ、eスポーツなどのコンテンツを紹介する大規模イベントを計画中だ。その狙いを中村伊知哉理事長に聞いた。
――竹芝エリアの開発に参加する際、どんな問題意識を持っていましたか。
「漫画、ゲーム、Jポップなどの日本のコンテンツが海外から注目されているのに、それらが集積されている場所がないため、チャンスを逃していると思っていた。例えば、パリ郊外で開かれる(日本ポップ文化の祭典である)ジャパンエキスポ、米ロサンゼルス市でのアニメ・エキスポのような場が日本にはない。だから、『更地』状態から設計できる竹芝は非常に魅力的だった」
――CiP協議会が目指す街づくりの具体像は何でしょう。
「(バーチャル歌手の)初音ミクのイメージだ。ロンドン五輪の開会式で歌ってほしい歌手についての世界的なアンケート(英語サイトで実施)で、初音ミクが1位になった。このとき(評価を得た背景に)3つの要素があると考えた。ボーカロイドの技術、日本のポップなキャラクター、そしてネットによる『参加型』で育てていったプロセスだ。竹芝にはテックとポップが融合し、皆が参加できる3要素を備えた場をつくりたい」

――東京ポートシティ竹芝が開業して、手応えや課題はありますか。
「各業界に声をかけ、多くの企業が(協議会に)集まってきたので、ここまでは順調。それにソフトバンクも丸ごと(本社を竹芝に移転して)やってくる。3~4年前からテクノロジーを丸ごと街に実装したいと言っていたが、実際にロボット、センサーなどがそろっている。あとはモビリティー(移動体)を動かせば、ほぼ全部だ。世界的に見ても、スマートシティーとしてかなり先端を走っている」
「課題の一つは規制緩和。ドローンタクシーを東京湾の上に飛ばして、竹芝と羽田空港を行き来できるようにしたい。今は夢物語だが、規制緩和を働きかけていきたい。そして横展開も課題だ。愛知県が計画する起業支援拠点『ステーションAi』などとの連携を進める。東京にはない強みを持っている地域とつながり、ポップ・テック列島を目指したい」
――ポップカルチャーやコンテンツはどうでしょう。
「コンテンツとテクノロジーが集積する日本を代表するイベントを来年から竹芝で開く。アニメ、ゲーム、音楽、お笑いも、ちょっとテクノロジーを導入して、ちょっと先の未来を見せる。だから『ちょっと先のおもしろい未来』という名称になる。10年かかるかもしれないが、ジャパンエキスポやアニメ・エキスポを超える内容にしたい。その潜在力は東京という都市にはあると思う」
「東京五輪の前か後の開催を考えている。スポーツコンテンツでは、eスポーツや超人スポーツをアピールする。世界中の人が注目する五輪以上に情報発信できる機会はない。海外に発信できる日本のコンテンツは全部乗せていくべきで、これこそがクールジャパン戦略で一番やらねばならないこと。東京五輪に合わせるのは大きな使命だ」
――拡張現実(AR)などの技術を使った「超人スポーツ」を仕掛けた理由は何ですか。
「15年に超人スポーツ協会を設立したのは東京五輪がきっかけだ。『何か五輪に関われないのか』と大学の仲間で議論したとき、テクノロジー系の大学教員は運動が苦手な自分でも勝てるスポーツに憧れていたといい、超人スポーツをつくろうという話になった。テックとポップカルチャーの融合という発想で、鉄腕アトムや孫悟空のような超人のイメージは描きやすかった。今は(ARでアニメの主人公ような必殺技によって相手を倒す)『HADO(ハドー)』など約50の競技が誕生している」

――東京大会は延期になりましたが、eスポーツや超人スポーツは存在感を強めています。
「コロナ禍で巣ごもりになって、家の中で自転車をこいだり、走ったりしてタイムを競う試みが生まれている。しっかりと体を動かしつつ、(参加者が)デジタルで対戦しているから、これは超人スポーツにつながる。eスポーツは指先だけの動きだから、スポーツではないという人もいるが、今後は(体を動かす)超人スポーツとeスポーツは融合していくだろう」
――国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は今年4月、eスポーツの可能性を模索するとの書簡を公開しています。
「コロナ禍で活躍できなくなった運動選手がeスポーツの大会に参加するなど、実際のスポーツとeスポーツの境目はなくなってきた。IOCの動きは読めない部分もあるが、どこかの段階でeスポーツは五輪の競技に入っていくと思う。今回のコロナ禍が、それを後押しした側面もあるだろう」
――eスポーツなどのコンテンツを産業として、どう竹芝で育成していきますか。
「(オフィス棟の)ホールを使ってeスポーツのイベントを開催できるし、5G通信網で竹芝をベースにして遠隔地との対戦も可能だが、竹芝はビジネスをつくる拠点にしたい。コンテンツビジネスの『工場』になるために、クリエーティブな仲間を集める。例えば、(自ら学長を務める)情報経営イノベーション専門職大学は250社の企業と連携しているし、慶応義塾大学の研究者も来るので、そうした人たちが交ざり合う場所にしたい」
東急不動産などが東京都港区に整備したスマートシティー「東京ポートシティ竹芝」を拠点にして、「デジタル×コンテンツ」をテーマに活動する一般社団法人。CiPは「コンテンツ・イノベーション・プログラム」の略称。吉本興業など約50の企業・団体が参加。竹芝をデジタルコンテンツ産業の集積地にするために、研究開発や人材育成などの各種プロジェクトを推進する。
1961年生まれ。京大卒業後、郵政省入省。98年退官し渡米、MITメディアラボ客員教授、スタンフォード日本センター研究所長を経て、2006年から慶大教授。CiP協議会理事長、超人スポーツ協会共同代表、情報経営イノベーション専門職大学(iU)学長なども務める。
(聞き手は山根昭)
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