長田育恵が能「隅田川」を現代劇に「喪失感癒やす」

能狂言の謡曲をもとにした現代演劇シリーズ「現代能楽集」の第10弾が上演されている。「幸福論」をテーマに、現代に生きる人々の悲劇や葛藤を描く。「道成寺」と「隅田川」の2本立てで、「隅田川」の脚本を手掛けた長田育恵は「いろいろな世代の人々の喪失感を癒やす作品になれば」と語る。
謡曲「隅田川」は人買いにさらわれた我が子を探して辺境まで旅をする母の悲しさを描いている。隅田川を渡る舟に乗るため、舟頭から求められて舞を踊る場面が印象的だったという。「旅で疲れ果てているはずなのに見事に舞ってみせる。理不尽な要求のさらに奥に踏み込む、しなやかな強さが心に残った」
長田版の「隅田川」は窃盗で捕まった少女、家庭裁判所で働く女性、介護を受ける老女の3世代の女性が登場する。「コロナによる自粛で、救いを求める声すら届かない人たちがいることを感じた」
瀬戸山美咲作の「道成寺」は、幸せを求めるがあまり狂っていく家族の悲劇を描く。一方「隅田川はつきものを落とすような作品。また日常が始まる夜明けを体感してほしい」と長田は話す。
今年はPARCO劇場などで上演した舞台「ゲルニカ」や劇団四季のミュージカル「ロボット・イン・ザ・ガーデン」の脚本を手掛けた。「コロナ禍で書き続けたことで、どの作品もリアルさが増した。ストーリーは違うが、どの作品もアウトプットしたものは共通していた」と振り返った。
12月20日まで、東京の世田谷パブリックシアターシアタートラムで上演。演出は2本とも瀬戸山美咲。監修は野村萬斎。瀬奈じゅん、相葉裕樹らが出演する。
(北村光)