G20「不均衡」放置のツケ 再協調、バイデン氏に期待

【ワシントン=河浪武史】21~22日に開いた20カ国・地域(G20)首脳会談は、新型コロナウイルス禍での国際協調の力不足を浮き彫りにした。米国はトランプ大統領が国際連携への関心をさらに失い、中国、ロシアも独自の「ワクチン外交」に突き進む。G20は貿易やマネーなどの「国際不均衡」を放置し続け、不協和音が強まる一方だ。

「世界はパンデミック(世界的大流行)に連携できていない。特に経済力のない国が感染拡大と戦わなければならない状況だ」。(トルコのエルドアン大統領)。初めてオンライン形式で開いたG20首脳会議は、その画面越しに新興国から不満が噴出した。
「負債は避けなければならない。将来世代を犠牲にすべきではない」。(メキシコのロペスオブラドール大統領)。国際通貨基金(IMF)はG20に「各国が国内総生産(GDP)比で最大1%のインフラ投資をすれば、世界GDPは5年で2%押し上げられる」と一段の財政出動を促した。ただ、通貨安を恐れる一部の新興国はあっさり拒否。G20は経済再建やワクチン供給で実効策を打ち出せず「できうる限りの努力」を表明して終了した。
G20は財政余力やワクチンなど「持てる国」と「持たざる国」の格差が開き、亀裂が深まる。
3兆ドルの財政出動で株価も最高値圏にある米国。IMFは20年の成長率をマイナス4.3%と予測し、6月時点の見込み(同8.0%)から大幅に引き上げた。同国は新型コロナのワクチン供給も近く始まりそうだ。世界の主導役を期待されるが、選挙で敗北が確実になったトランプ大統領は、G20会議で「米経済は歴史的な回復局面にある」と誇っただけで2日続けて途中退席。そのままゴルフ場に直行した。
新型コロナによる死者が16万人超と世界2位のブラジルは、通貨レアルが対ドルで年初から3割も下落。デフォルト(債務不履行)に陥ったアルゼンチンも通貨安が進む。ブラジルは英アストラゼネカから1億回分のワクチン調達を確約したと主張するが、新興各国は通貨安と財政難が深まれば、ワクチン調達に支障が出る。
中ロは、米国の空白を突いて、独自の「ワクチン外交」で新興・途上国の囲い込みに動く。世界保健機関(WHO)は途上国にもワクチンを平等に供給する国際枠組み「COVAX(コバックス)」をつくったが、米ロは拒否。自国製ワクチンの供給を目指す中国は、習近平(シー・ジンピン)国家主席が「途上国を支援し、ワクチンが各国で使えるようにする」と主張。プーチン・ロシア大統領も自国製ワクチンの準備が整ったと各国にアピールし続けた。
G20会議は08年の金融危機時、首脳級に格上げされた。協調的な財政出動で危機脱却につなげ、その危機を招いた貿易・マネーなど「国際不均衡」の解消を次の照準に据えた。ただ、オバマ米前政権は10年、不均衡解消へ為替レートや経常収支に数値目標を設ける案を提唱すると、人民元相場への圧力を警戒した中国は「わが国の発展阻止を狙った政治手段だ」と強く反発。米中対立でG20は一気に形骸化した。
G20がそのまま放置した国際不均衡は、協調体制のヒビを一段と深めた。米国自身も不均衡が巨額の貿易赤字となって跳ね返り、グローバル経済を否定する保護主義が台頭。制裁関税を公約するトランプ政権が誕生した。一部新興国の経常赤字も解消されず、通貨不安がコロナ危機下の景気を一段と下押しした。
「米次期政権の『アメリカ・イズ・バック』を期待するしかない」。日本の外務省高官は、米大統領選で当選を確実にしたバイデン前副大統領(民主)に国際協調の立て直しを託す。菅義偉首相も日本時間12日にバイデン氏と電話会談して「コロナ危機や国際経済の立て直しに向けて、連携を強めていく」(バイデン陣営)と確認した。
米国内でも国際協調の再構築を求める声が強まる。サマーズ元財務長官は「米国は21年早々に臨時のG20首脳会議を招集し、国際協調を立て直すべきだ」とバイデン氏に促している。バイデン陣営は21年中に民主主義国家による「人権サミット」の開催を検討するが、コロナ対策に向けた臨時のG20会議に格上げする案も浮上しつつある。
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