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カラータイマーな人たち 日本ハム・宮西の至芸

編集委員 篠山正幸

10月1日のロッテ戦でチームの連敗を3で止め、喜ぶ宮西(右から3人目)ら日本ハムナイン=共同

ウルトラマンはなぜ最初から必殺のスペシウム光線を使わないのか。長年の謎だったが、日本ハム・宮西尚生の追い詰められてからの投球にハッとした。待てよ、土壇場にならなければ出ない力というものがあるのかも……。

10月1日のロッテ戦。3-2とリードした九回、宮西は抑えのマウンドに立った。簡単に2死を取ったあと、波乱の一幕となった。田村龍弘に中前打を許し、福田秀平には左前打を喫す。3番のレオネス・マーティンに四球を与えて満塁に。4番安田尚憲はフルカウントとなった。

ウルトラマンでいえば、エネルギー切れを知らせるカラータイマーがピコピコ鳴り出した感じだ。ちなみに宮西が登板してからここまで、もう24分ほど経過していた。

だが、ここで粘るのが、今季、自己の持つ通算ホールド記録で350越えを達成した救援のスペシャリストだ。外角にズバッと決め、安田のバットを振らせず三振に仕留めた。これでゲームセット。

三塁まで行かせてもホームは踏ませない

主にセットアッパーの役どころだが、今季途中から抑えの秋吉亮に代わり、締めを託されるようになった。栗山英樹監督らベンチの起用の意図はこの粘り腰にあったのだろう。

今季、まるまる1イニングを任された47試合中、安打や四死球の走者を出さずに終えたのは15試合。あとは安打を喫したり、四球を出したりしている。

制球のいい宮西は四球をある程度、計算しながら与えているはずだ。マーティンの四球にしても今季のロッテの一番のポイントゲッターを警戒してのもの。もちろん満塁にはしたくなかったはずだが、もし四球になっても構わない、という二段構えで投球に幅を持たせる。球団の先輩でもある江夏豊さんと同じく、三塁までは行かせても、ホームは踏ませないという芸の持ち主だ。

今季途中から抑えを任されるようになった宮西は粘り腰の投球が光る=共同

並みの投手は窮状から脱したいと思うあまり、エイヤと勝負して打たれる。あるいはおじけづいて四球を出す。宮西はそういうところで、一層力が出る。カラータイマーが点滅し出してからが勝負なのだ。それからすると、ウルトラマンのスペシウム光線も、ピンチになり心身ともに極限状態になったときにしか、発射できないものだったのかもしれない。

一言でいえば火事場のばか力、となるが、経験や技術、そしてそれらを総合した勝負勘がなければ、統御した形でばか力を発揮することはできない。そのすごさを栗山監督がこう表現している。「本当にただただ尊敬、敬意を表するしかない。ミヤ(宮西)にしかわからない境地がある」(8月12日、350ホールドを達成したロッテ戦後)

この試合でも宮西は1四球を与えながら、併殺打を打たせて切り抜けている。危なそうな打者とは無理に勝負せず、リードを守り、同点という状態をキープする。危険を察知する「瀬踏み」の妙にますます磨きがかかっている。

「リリーフは裏方」というが今や主役

横浜(現DeNA)などで活躍した佐々木主浩投手らのように名前がコールされただけで試合は決まり、という有無をいわせない投球も、もちろんすばらしい。一方、必ずピンチを招きながら、最後は抑えるという宮西のような劇場型の投球も、それはそれで味がある、といえるのではないか。

DeNAの山崎康晃も、押し込まれても土俵は割らないという投球が持ち味だった。今年は土俵を割るようになって、抑えからはずれた。この例は球威でなく、駆け引きで勝負する宮西たちが、常に「板子一枚下は地獄」という、のるかそるかの境地にあることを意味している。そのきわどさ、危うさは脱出時のふっと体が浮いたような開放感と表裏を成している。

自身の役目について宮西は「決して目立ってはいけない立場」と語っている。目立ったときは打たれたときで、託されたイニングがどこであれ、何事もなく、現状維持でつなぐのが役割だ、と。

「リリーフは裏方に徹する。これはルーキーのときから思ってることやし、表舞台に立つのは先発とか4番(打者)」(350ホールド達成時)とも語っている。しかし、ここまでくればもう主役。

特にコロナ禍でみんなが窮地にある今、苦しくても粘っていれば何とかなる、と教えてくれる投球は等身大のヒーローとして共感を呼ぶ。

極上のエンターテインメント、といっては必死で投げている宮西らに失礼だが、それもまた至芸。カラータイマーな人たちの投球から、来季も目が離せない。

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