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がんの光免疫療法、年内にも開始 顔・首回り症例から

「光免疫療法」と呼ぶがんの新しい治療が年内にも、世界に先駆けて日本で始まる。手術や放射線、抗がん剤では十分な効果が得られず、再発したがんなどへの効果が期待されている。顔や首の周りにできるがんから適用が始まり、その他のがんにも広がる可能性がある。ただ最終段階の臨床試験(治験)が終わっていないなど、有効性や安全性の検証にはまだ課題もある。

光免疫療法はがん細胞に結合する抗体医薬とレーザー光を組み合わせ、がん細胞をピンポイントで破壊する治療法だ。米国立衛生研究所(NIH)の小林久隆主任研究員らが開発し、楽天などが出資する楽天メディカル(米カリフォルニア州)が事業化を進めている。日本では、同社の申請から半年で条件付き早期承認の制度を活用した形で承認された。所定の要件を満たす医療機関で12月から公的保険で治療できる。早ければ年内にも一般の患者の治療が始まる見通しだ。

対象となる病気は、顔や首の周りなど頭頸(とうけい)部にできるがんのうち、局所で進行したり再発したりして手術で切除できない症例だ。日本での治験を主導する国立がん研究センター東病院の田原信頭頸部内科長は「他に手段がなかった患者がこの治療を受けて長期生存している例もある」と話す。全身に広がったがんは難しいが、局所的に増大したがんがほぼ消失するなどの効果を示すことがあるという。

頭頸部がんは、喫煙や飲酒が原因となりやすく、国内の新規患者数は年2万人を超える。容姿や発声に影響する部位のため、手術で除去できても他の治療を選ぶ患者もいるという。進行した症例には放射線と抗がん剤を組み合わせる治療や体の免疫機能を生かすがん免疫薬などの選択肢がある。ただ進行した状態では「治療しても約半数は再発する」(田原氏)とされる。

光免疫療法は局所的に進行したり再発したりした頭頸部がんへの新たな選択肢になると期待されている。米国や日本で最終段階の治験が進められているが、日本ではそれ以前の治験の結果をもとに今年9月に承認された。申請から約半年でのスピード承認となった。

この治療ではまず、がん細胞の表面の特定のたんぱく質にくっつく抗体医薬と、光に反応する分子を結合させた点滴薬を患者に投与する。24時間ほどかけてがん細胞に薬を集めた後、体の外からレーザーで患部に熱を伴わない赤色光を当てる。光と反応した薬の分子が変化し、がん細胞を破壊する。免疫療法といっても体の免疫機構を使った治療ではない。

がんが深い場所にあったりサイズが大きかったりする場合は全身麻酔をして治療する。がんに何本か針を刺し、光ファイバーを挿入して光を当てる。1回の照射時間は5分、治療全体が2時間以内に終わる。入院での治療が前提となる。

光免疫療法に使う点滴薬「セツキシマブ サロタロカンナトリウム」(製品名はアキャルックス)

これまでの治験では、再発した頭頸部がん約30例中4割で、がんが縮小したり消えたりする効果が確認された。再発頭頸部がんですでに標準治療となったキイトルーダなどのがん免疫薬が効く割合は2~3割以下とされるため、より多くの患者に効く可能性がある。同じ患者を繰り返し治療できることも強みだ。

光免疫療法に使う薬はがん細胞だけにくっつくため、周囲の正常な細胞は傷つけにくいとされる。治験では患部の痛みなどの副作用が見られたが重症化する割合は10%前後にとどまる。「(がん免疫薬で起こりやすい)全身性の副作用が出にくいと考えられることは大きな利点だ」(田原氏)。がんが血管に入り込んでいる症例などは出血を起こすリスクがあるため、対象から外す必要がある。

1回の治療にかかる医療費は約600万円。高額療養費制度を使うことで、患者の負担額は数十万円以下で済む見通しだ。

ただ光免疫療法がまだ「仮免許」の段階であることには注意が必要だ。迅速に承認された代わりに、楽天メディカルは市販後に最終段階の治験などで得られた必要な有効性や安全性に関する詳しいデータを報告する必要がある。条件を満たせなければ承認が取り消される可能性もある。

治療を受けられる医療機関も当面限られる。がんに針を刺したりレーザーで光を当てたりする手技には一定の経験が必要になる。保険適用となったものの、実施できる施設や医師について一定のトレーニングを受けることなどの条件が設けられた。患者もこの治療の長所や課題について理解が必要のため、主治医などとよく相談し、納得した上で受けるのがよい。

光免疫療法ががんの標準的な治療の一つとして浸透するまでには、時間がかかりそうだ。保険適用に当たって試算された対象患者数は、ピークと見積もられる10年後に年416人。年2万人を超える頭頸部がん患者のうち、実際にこの治療を受ける患者はそれほど多くないと見込まれる。
 比較的多くのケースで全身麻酔が必要になるなど、体への負担や副作用に対しても慎重な管理が求められる。国立がん研究センター東病院の田原信頭頸部内科長は「がん治療の体制が整った施設でないとできない治療だ」と話す。体の奥深くや針を刺すのが危険な箇所の治療は難しいといった技術的な障壁もある。
 すでに進行がんの標準治療の一つとなったがん免疫薬と名前は似ているが、治療のメカニズムは異なる。ただ、光免疫療法には、がんに対する体の免疫機能を活性化する効果がある可能性があるという。がん免疫薬との併用療法の検討などが進められている。

(大下淳一)

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