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大谷のフォーシーム 質向上の鍵は回転効率アップ

スポーツライター 丹羽政善

今季、通算本塁打数を662本まで伸ばし、メジャー歴代5位に躍り出たアルバート・プホルス(エンゼルス)。40歳を超え、さすがに衰えが見られるが、「ザ・マシン」という異名とともに、メジャー屈指のパワーヒッターとして君臨していた全盛期の2004年2月、その年と08年の五輪でそれぞれ金、銀メダルを獲得した米女子ソフトボール代表チームのエース、ジェニー・フィンチとチャリティーイベントで対戦すると、あえなく空振り三振に倒れた。

キャンプ前のことだったとはいえ、完敗を喫したプホルスは帽子をとってフィンチに敬意を表している。もっとも、かすりもしなかったのは彼だけではない。通算打率2割9分1厘で、オールスターにも2度選ばれたブライアン・ジャイルズ(パドレス)、後に野球殿堂入りするマイク・ピアザ(メッツ)のバットも、豪快に空を切った。

そのとき、3人が「やっかいだ」と口をそろえたのは、最速が68マイル(約109キロ)に達するフィンチの球速ではなく、その軌道である。彼らはボールを見て打つというより、ある程度その軌道を予測してそこにバットを出す。しかし、下から浮き上がってくる球は初めて。1打席ではその軌道を見極める術がなかった。

さて今年9月下旬、当コラムで大谷翔平(エンゼルス)のフォーシーム(直球)の軌道について触れた。縦横の変化量がメジャー平均と近く、打者には見慣れた軌道であるがゆえ、被打率も高く、球速の割に空振りが取れないということを、他の投手のデータと比較しながら掘り下げた。

改善の余地がある、という意味ではポジティブな面もあるが、今回、その大谷のフォーシームの軌道と、その動きに影響を及ぼす回転軸をデータから再現してみた。

違いが分かるよう、20年の大リーグの平均値(右投手のみ)、ダルビッシュ有(カブス)、トレバー・バウアー(レッズからフリーエージェント)、ジャスティン・バーランダー(アストロズ)の軌道と回転軸も作成し、重ね合わせた。

※大谷は20年のデータが少ないので18年のデータを利用。バーランダーは今季、トミー・ジョン手術(肘内側副靱帯再建術)によって長期離脱したので19年のデータを利用。
CGの中のSPIN DIRECTIONは回転方向。SPIN EFFICIENCYは回転効率。
球種はすべてフォーシームだが、分かりやすくするため球種を変えて色分けした。左から順に20年の大リーグ平均、大谷、ダルビッシュ、バウアー、バーランダーの順。
CGはシアトル郊外にある「ドライブライン・ベースボール」が提供している「EDGE」というオープンソースのソフトを使用し、作成にあたっては事前に使用許可を取った。球速、変化量、回転数に関しては、大リーグが提供しているStatcastのデータをbaseballsavant.comから抽出し、回転効率に関しては米イリノイ大のアラン・ネイサン教授が、「Determining the 3D Spin Axis from Statcast Data」という論文で公開している計算式を利用した。

結果だが、今年の大リーグ平均の軌道が真ん中にいくように設定し、それぞれの軌道を再現してみると、大谷のフォーシームは想定通り、ほぼ今年の平均値と重なる位置に到達した。

ダルビッシュの場合、平均より6.1センチほど縦の変化量が大きい。打者にはおそらくホップして映るのではないか。今季、相手が振って空振りした率が上がったことと無縁ではない。

そのダルビッシュに競り勝ち、ナ・リーグのサイ・ヤング賞(最優秀投手賞)を獲得したバウアーのフォーシームは横に約4.9センチ、縦に9.8センチ、平均からずれていた。後で説明するが、彼は意図的に平均値から外れるよう軌道修正を重ね、ここへたどり着いた。そしてかつて、大谷が「品がある」と表現したバーランダーのフォーシームは横に7.3センチ、縦に11.9センチも平均と比べて変化量が多かった。

冒頭のエピソードからも分かるように、打者があまり目にしたことのないような軌道の球を投げられるかどうかが、被打率や相手が振って空振りする率と連動すると考えられており、バウアー、バーランダーらが好結果を残しているのは、さもありなん、という現象である。

では、バーランダーらの球質と比べ、大谷のフォーシームは何が違うのか。

回転方向のデータを見る限り、極端な差はない。しかしながら、バウアーやバーランダーと比べて決定的に違うのは回転効率。それは変化量に影響を及ぼし、高ければ高いほど回転のロスが少なく、変化量が大きくなる。逆に回転効率が低ければ低いほど回転をロスし、変化量が小さくなる。

回転効率の良しあしを決定付けるのは、進行方向への回転軸の傾きを示すジャイロ成分で、真上から見た場合、回転軸が真横、つまりきれいなバックスピンがかかっていれば回転効率は100%。回転軸が真っすぐホームベースに向かっていれば回転効率は0%となる。実際にはいずれのケースもまれだが、解釈としては、回転軸を真上から見たときの角度(ドライブライン・ベースボールでは「ジャイロ角度」と呼ぶ)が小さければ小さいほど、回転効率が上がる(イラスト参照)。

大谷が軌道を変えるとしたら、回転方向を変えるか、回転効率を変えるか、ということになるが、そうした作業を「ピッチデザイン」という言葉で定義し、理想の軌道を追求してきたバウアーは、「経験上、回転効率を上げるよりも、回転方向を変えることの方が難しい」と話し、続けた。

「通常、回転方向を変えるには、腕の角度や腕を通す位置を変えなければならない。それは決して簡単ではない」

大谷のデータを見て、そもそも回転方向は「悪くない」と言う。しかし、「明らかに、回転効率が悪い。これが、せっかくの球速を台無しにしてしまっている」と指摘した。

バウアーは「ピッチデザイン」により理想の軌道を追求してきた=AP

では、回転効率を上げるにはどうするかだが、「握りを変えたり、リリース時に前腕の回転角度を調整したりすることでそれは可能」とバウアー。実際彼は、その微調整を繰り返してきた。

回転効率を上げることは、ジャイロ角度、すなわち回転軸を変化させることと同義だが、大谷の場合、回転効率が67%なのでジャイロ角度は48度。これを例えば、ジャイロ角度を35度まで小さくすると、回転効率は82%まで上がる。

その場合の回転軸の変化を分かりやすく再現したのが2つ目のCGである。

最初の3秒が18年の平均値からはじき出した回転軸。ジャイロ角度を13度小さくし、回転効率が15%上がった場合の回転軸が後半の3秒。こうしてみると回転軸が進行方向に対してやや横になったことがわかる。

では、改良したことによって、軌道がどう変わるのか。それを示したのが3つ目のCGであり、到達地点から縦横の変化量が増えていることがわかる。おそらくこの程度でも打者に与える印象は大きく異なる。この軌道は大谷の軌道として、相手に認知されていない。

さて、大谷はこのオフ、リハビリを通して軌道にどう修正を加えていくのか。ポイントはある程度、はっきりしているといえそうだ。

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