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野球選手の辞め時 引き際は潔くか、気が済むまでか

ウエスタン・リーグ最終戦を終え、セレモニーで退団のあいさつをするソフトバンク・内川=共同

プロ野球シーズンが終わりに近づくと、引退、退団、自由契約といったニュースを連日耳にするようになる。少し寂しい季節の風物詩である。内川聖一選手は層の厚いソフトバンクの来季構想から外れ、新天地で現役を続けるという。余力があるように見えても引退を選ぶ阪神・藤川球児投手のような選手もいる。何度もピンチがありながら、50歳まで現役を続けた私としては、どちらの思いも理解できる。

若い頃は毎年、戦力外通告におびえていた。入団1年目に投げ過ぎて左肘を痛め、3年目には疲労骨折でまともに投げられなかった。当時の中日には高卒選手は3、5、7年目が危ないという言い伝えがあった。プロであればチーム内での自分の立ち位置は大体分かる。オフになると戦々恐々で、同年代のチームメートと「クビになったら何をしよう?」と話していた。

寮に電話「スーツで球団に来て」

寮に電話がかかってきて、スーツで球団に来るよう呼び出されるのがクビの通告だった。当時はドラフト会議が11月下旬に開かれていて、その結果を踏まえて秋季キャンプが終わってから自由契約になることも珍しくなかった。キャンプで会ったのが最後になってしまう人もいた。1986年のオフ、シーズン34試合に登板した平沼定晴さんが事務所に呼ばれた。1軍で投げていてもクビになるのかと驚いていたら、ロッテの落合博満さんとのトレードだった。

5年目に5勝を挙げ、クビの恐怖からは解放されたが、43歳を過ぎた頃からは毎年、今年が最後になるかもと覚悟していた。私は6月に調子を落とすことが多く、「あと100回ぐらいしかユニホームを着られないかもしれないな」と思いながら過ごした。しかし暑くなると調子が上がり、7~8月に勝って生き延びるというのが毎年のパターン。心のどこかには「夏がくれば調子が上がる」という根拠のない自信があった。

引退セレモニーであいさつする阪神の藤川=共同

32年間も現役を続けられたのは、分かれ道で幸運に恵まれたとしかいいようがない。30歳になった頃、膝に水がたまってパフォーマンスが落ちた。小松辰雄さんや鈴木孝政さんといった先輩投手たちは30代になると故障に見舞われ、そのまま力が衰えて数年で辞めていった。自分もそうなってしまうのかと思っていたとき、「初動負荷理論」で知られるトレーナーの小山裕史先生に出会う。

私は「一緒にフォームをつくってください」と頼み込んだ。前年まで2年連続で最多勝を取っていた投手が、野球をしたこともない部外者に助言を求める。普通の選手ならそんなことはしないけれど、このプライドのなさが良かった。その後もずっと小山先生の指導を仰いだおかげで、大きなケガとは無縁でいられた。

普通にボール投げ突き指、限界悟る

2011年にもピンチがあった。春季キャンプ中の守備練習で右足首を亜脱臼し、保存療法では一向に回復しない。治すには手術しかないと分かった。46歳になる年で、これはもう辞めなきゃいけないと諦めかけたが、球団に相談すると「手術を受ければいい」と許可してくれた。

当時の私は杉下茂さんの持つ勝利数の球団記録更新が目前に迫っていて、ここまできたのだから更新すればいいというのだ。これは恐らく、新監督の高木守道さんの心遣いだったと思う。違う監督であれば、そうはいかなかったかもしれない。

手術を受けて持ち直したが、4年後、ついに限界がきた。オープン戦で膝をひねり、完治に4カ月を要した。さらに復帰初戦、普通にボールを投げただけで突き指をした。こんなことはあり得ない。もう全力では投げられないのだと悟り、決心がついた。

肉体の限界まで全うできた幸せな現役生活に後悔はないが、こと野球に関してはやり残したことばかりだった。投球術は退化しない。体さえついてくれば、まだまだやりたいことがあるのにと未練たらたら。50歳でもそうなのだ。

2年前には1勝もできなかった中日・大野雄だが、今は別人のよう=共同

多くの選手は結果が出ていなくても、自らの可能性を信じている。歯車さえかみ合えば、自分はもっとできるはずだと。それはあながち、勘違いとは限らない。例えば数年前の中日・大野雄大投手は調子が上がらず、2年前には1勝もできずに終わった。ところが自分の中で何かが嵌まり、自信を取り戻した今は別人のようだ。6完封で沢村賞の有力候補になっている今年の活躍はご存じの通り。

こうしたことは年齢を問わず、誰にでも起こりうる。しかし40歳前後の投手が未勝利に終われば、ほとんどの球団は待ってくれない。同じ力量なら若い選手を使うのは当然のことだ。

野球以外で自分にできることがあるのだろうか。野球選手は辞めるのが怖い。50歳までしがみついた私に「引き際は潔く」などという資格はない。自分の可能性を信じられ、契約してくれる球団があるのなら、気が済むまで続ければいいと思う。大好きなことをしてお金がもらえ、多くの人が憧れるスペシャルな場所などそうそうないのだから。

(野球評論家)

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