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バイデン氏を待つ「双子」の難題(The Economist)

The Economist

米国の有権者が大統領選で民主党候補のバイデン前副大統領を選んだのは、米国経済を託せる最高の人物と見込んだからではない。それでも、同氏の大統領としての成果は、経済運営の手腕によって決まるだろう。バイデン政権は来年1月、新型コロナウイルス感染拡大の猛威が収まらないなかで発足する。ワクチンが広く出回るまで、米国経済の損失はさらに著しく膨らむおそれがある。

バイデン氏には、新型コロナウイルス感染の拡大と急速なデジタル化への対応という経済課題が待ち受けている=ロイター

さらに同氏は、1世代に1度の技術革新に伴う非常に困難な事業環境も引き継ぐことになる。テクノロジーが日常生活や産業界に浸透していく流れは、新型コロナの感染拡大によって加速しているもののさほど注目されてはいない。バイデン氏が成功を収めるか否かは、新型コロナと技術革新という「双子」が同時にもたらす変化にどう対処するかによるだろう。

幸い米国の7~9月期の国内総生産(GDP)は、新型コロナ禍でマイナス成長に陥った前の期から急回復した。4月に14.7%に達していた失業率は大方の予測より急速に改善し、10月には6.9%まで持ち直した。民間部門の雇用者数が9月と10月のペースで増え続ければ、1年以内に新型コロナ前の水準まで回復するだろう。

ほとんどの経済予測では、米国経済の2020年のマイナス成長率は、他のどの主要国経済よりも小さいとみられている。たとえばユーロ圏経済の落ち込みは米国の倍近くに達する。新型コロナの感染が拡大し始めた当時は、収束しても米国経済に長期的な影響が残ると懸念されたが、今のところその兆しはほとんどみられない。

冬の感染拡大が経済の回復基調に影

残念なのは、冬の感染拡大が経済の回復基調に影を落としていることだ。ワクチンが実用化されたとしても配布には大変な困難が伴ううえ、接種開始当初は対象者が緊急対応要員や重症化しやすい人に限定される。そのためワクチンが広く投与されるようになるまでは感染拡大はさらに進むだろう。

現在は新型コロナによる死亡者はかなり減っているが(編集注、もっとも現在は米国での死者数は8月の「第2波」の水準を上回り増加傾向にある)、入院患者数は感染拡大が始まった今春のピークをすでに上回っている。近いうちに一部地域が行動制限の強化やロックダウン(都市封鎖)に踏み切る可能性がある(編集注、すでに複数の州や市では行動制限を強化するところが増えている)。その一方で、対策強化に踏み込もうとしない地域もあるだろうが、住民が感染を防ぐために外出を自粛すれば、消費が大きく落ち込むことに変わりはない。

新型コロナが再び米国経済に牙をむいたとしても、手厚い失業給付金や中小企業向けの緊急融資など、3月に成立した経済対策には頼れない可能性がある。共和党の上院議員は第2次財政刺激策に対して限定的な支持はしても、巨額の追加支出には応じそうにない。活発に議論されているのは、米連邦準備理事会(FRB)による融資プログラムを21年まで延長すべきかどうかだ。

州・地方政府は新型コロナ禍で予算が減らされて人員削減に動き、すでに雇用市場を圧迫している。共和党が認めようとしない支援策が求められている。バイデン氏が最初に実行すべきは、ワクチンが広く出回って経済活動が完全に再開するまで、議会を説得して財政のひもを緩めておくことだ。

コロナ危機でデジタル化に拍車

同時にワクチン普及後の経済のかじ取りも必要だが、パンデミック(世界的な大流行)が起きる前とは経済情勢が異なる。20年代のビジネスや投資のあり方を変える勢いで進んでいたデジタル化は、コロナ危機でいっそう拍車がかかった。パンデミックが収束した後も、この流れが完全に反転することはない。重視される資産が有形資産から無形資産に移り、既存企業がネットワーク効果を通じていっそう優位に立ち、永続的に利益を上げる傾向が強まるなか、投資家は今も経済の実態をつかみ切れていない。

テクノロジーがビジネスに浸透するにつれて、投資のあり方も変わりつつある。07~09年の世界的な金融危機の後、知的財産に向かう資金のうち住宅投資を除く民間投資が占める割合は30%に達し、近く40%の大台を突破しそうだ。こうした世界では、米ウォルマートが巨大電子商取引(EC)企業への転換を迫られる。フォード・モーターは電気自動車でテスラとしのぎを削り、人工知能(AI)を使って投資資金の配分を決める。マクドナルドですら、デジタル戦略を推進している。

1990年代にグローバル化の波がクリントン大統領の時代を決定付けたように、テクノロジー革命が現代の経済を形づくるようになる。ブルーカラーやホワイトカラーを問わず、雇用市場の再構築が進むだけでなく、製造工程のオートメーション化の際に起きたように、社会構造に分断をもたらしそうだ。

コロナ感染症は米国では、21年末までに収束している可能性がある。一方でハイテク化のうねりは、バイデン氏の大統領任期終了後も続く。だが、バイデン氏はコロナ対策でもテクノロジーでも、政府は経済的変化に抵抗するのではなく、国民が変化に適応できるように手を貸すべきだという同じ理念を指針としなければならない。

米国経済の回復力が欧州経済よりも優れている一因は、米国の景気刺激策が余剰雇用を維持するよりも家計所得を押し上げたからだ。同様に政府は、時代遅れの資本主義や政府のモデルを維持するよりも、新しい時代に向けてセーフティーネットを作り直し、社会契約を書き換えて技術変化に対応するほうが成果を上げられるだろう。

保護主義色がにじむバイデン氏の政策綱領

それゆえ、バイデン氏の政策綱領には気がかりな点がある。保護主義色がにじみ、製造業の雇用維持への郷愁や崇高な社会的目標を企業に押し付けようとする動機が垣間見えるのだ。同氏が掲げる新しい経済政策の中には、すでに失敗に映るものもある。ネット経由で単発の仕事を請け負う「ギグワーカー」を従業員と認めることを義務付ける規制を全国に広げようとしているのだ。この規制は、大統領選に合わせてカリフォルニア州で実施された住民投票で拒否されている。

バイデン氏が大統領として成功するには、危機管理で手腕を発揮しなければならないが、それだけではない。同時に、経済の底流で重大な変化が起きていることを認識し、その変化から国民が恩恵を受けられるように支援しなければならない。それこそが国民の生活水準の向上を図る方法であり、大統領として成功する方法でもある。

(c)2020 The Economist Newspaper Limited. November 14, 2020 All rights reserved.

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