「貯蓄」と「保障」は別々に 保険で資産形成の是非
Dr.マネーお悩み外来 Vol.15

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Iさん 運用経験がないと言ったら「長期・分散・積立が大切だと金融庁もいっているので、それにならって円建ての変額保険と外貨建て保険で毎月積み立てていきましょう。預金ではお金は増えないし、保険は万が一の場合は死亡保険金が支払われるので安心だ」といわれました。日本は経済や財政に多くの課題を抱えていて、今後は円安方向に向かうだろうから海外資産を持つことが大切だと力説されたのですが、どういう意味でしょう。
白鳥 変額保険は保険料の一部を「特別勘定」として株式投資信託などで運用し、その運用実績によって将来の受取額が変動する商品です。満期保険金額が保障されているわけではなく、そのとき積み上がった金額、つまり運用実績に応じた満期保険金を一括または年金方式で受け取ります。万一の場合の死亡保障は基本保険金額相当で、途中で解約する場合の最低保障はありません。
一方、外貨建て保険は主に外国の債券で運用します。このコロナ禍でじりじりと円高が進んで円換算の価値が下がったり、海外の長期金利が低下して積立利率も下がったりしている影響で、各社保険内容を変更しています。
高金利を売りにしてきた外貨建て保険の魅力も薄れているので、それを補完するために株式等で運用する変額保険と合わせて持ちましょうということなのでしょう。
Iさんが心配しているように、日本円の信用力が下がって円安になれば、輸入品を中心にモノの値段は上がるということも長い期間の中では考えられるかもしれません。「日本は少子高齢化で経済成長率も下がり、政府債務残高も多いので国力は低下し円安になる。しかし米国はまだまだ人口が増える。人口が増える国は成長する。成長力の高い国の通貨を持つべきだ」というようなセールストークがさかんに使われてきました。
しかし為替は短期的には様々な要因で変動しますが、長期的には両国の物価の差によって決まります。いわゆる「相対的購買力平価」という考え方です。「国力」と為替に明確な関係はありません。過去に長く円高・ドル安傾向が続いていたのは、米国のインフレ率が日本より高い状態が続いたからです。つまりドルの商品を買う力が落ちてきたということです。今後も日本のインフレ率が米国より低いなら、相対的に米ドルに対して円の価値は上がります。
しかし資産の一部を外貨建て資産でもつ「資産の分散」は大切です。老後まではとても長い時間がありますので、円安になって円の価値が下がっても大丈夫なようにしたいものです。
でもあえて保険で外貨建て資産を持つ必要はないように思います。長期的に高金利通貨はインフレ(物価上昇)率が高いので、インフレ率の低い低金利通貨に対して物価格差分だけ下がっていき、金利差が失われがちと考えられています。
またIさんが勧められている変額保険は死亡保障(約900万円)と運用商品がパッケージになっているもので、保障と運用の両方に手数料がかかります。
子供の大学進学時期に解約したとしましょう。毎月2万円ずつ積み立てていき20年間3%で運用できたとすると解約返戻金は512万円です。一般的な金融商品に積み立てたとして同じ条件で試算すると約657万円になりますので、差額の145万円がコストということになります。
実質リターンは約0.6%。運用コストが約0.77%ですので、保険関係費用は1.62%で、合計約2.4%です。満期まで30年持って3%の運用実績が続けば、コストは1.5%くらいに圧縮されるようです。
資産形成が目的ならもっと低いコストで合理的に「長期・分散・積立」が行える簡単な方法があります。つみたてNISA(少額投資非課税制度)や個人型確定拠出年金(イデコ)を使うことです。
Iさんは子供の大学進学の費用をためたいということですので「つみたてNISA+掛け捨ての保険」にした場合のコストの差が運用結果にどう影響するか比較してみましょう。
日本を除く主要先進国の株式に分散投資するインデックファンドで運用した場合で比較してみます。
つみたてNISAはMSCIコクサイのインデックスファンド(信託報酬は0.10%)で運用。掛け捨ての死亡保険は変額保険と同じ金額約900万円とし、20年間持つとすると総保険料は43万1520円です。
Iさんの設計書に記されている変額年金の保険料が月額約2万7000円でしたので、この金額を積立投資していくとして試算してみます。元本は648万円です。
20年間年率5%で運用したとした場合、変額年金は約849万円に、つみたてNISAは1097万円になります。運用成果の差は約248万円です。この金額が変額保険でかかったコストということになります。もちろん将来の運用結果はわかりませんが、コストは確実なマイナスになります。
定期保険の保険料をつみたてNISAの運用成果からマイナスしても、投資元本を100とすると変額年金は約131%に対し、つみたてNISAは約163%となりコストは約32%です。手数料の影響について正しく知るだけで合理的な資産形成ができそうです。お金の置き場所は大切ですね。
さらにつみたてNISAは運用益が非課税ですが、変額年金は一時金で受け取った場合は「解約時の受取額-払込保険料-50万円×50%」で計算し、このケースの課税対象額は75万3663円になります。
つみたてNISAにはイデコのように掛け金が所得控除の対象になる仕組みはありません。保険には保険料控除があり、一般生命保険料の適用限度額は所得税4万円、住民税2万8000円です。それでも変額保険を選びたいなら、なるべくコストの安いものを選ぶとよいでしょう。
変額保険の販売はじわじわ増えています。変額保険を取り扱っている会社は2018年と比べて8割増、2019年より約5割増だそうです。世界的低金利を受けて、外貨建てから円建て変額保険へと再びシフトしているのでしょうか。
資産形成をするには、リスク資産は税制優遇の大きい制度を優先的に使い、なるべくコストの低い運用商品で広く分散投資をするのが合理的です。保障と貯蓄は別々にというのもポイントです。
◇ ◇ ◇
本日の処方箋は、
・保障と貯蓄は別に考えることでコストを低くし、合理的な資産形成をすることができます。
・リスク資産は税制優遇の大きいイデコやつみたてNISAを優先的に使い、なるべく低コストの商品で広く世界の株式に分散投資をしましょう。
では2週間後に。

本日もお金の悩みを抱えた若者が「白鳥FP事務所」のドアをたたく……。ファイナンシャルプランナーの岩城みずほ氏がマネーリテラシーの向上のために様々なお金の問題を取り上げ、対話形式でわかりやすく解説します。隔週火曜日に掲載します。