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梅田のビルに高速道が「貫通」 開発競合、窮余の共存

とことん調査隊

先日車を運転していたところ、大阪には物珍しい建物があることに気がついた。阪神高速道路の梅田出口の近くにある円形の建物は、なんと高速道路が貫通している。「笑いの街、大阪」といえどやりすぎではないか。建設に至った経緯を調べてみた。

舞台はJR大阪駅から西に歩いて10分ほどの「TKPゲートタワービル」(大阪市)。貸会議室大手ティーケーピー(TKP)が管理する16階建てビルで34の会議室がある。

近くから見上げると信じられない光景が飛び込む。ビルの中腹を白いガードレールで覆われた道路が突き抜ける。下から数えてみると、5~7階部分のようだ。エレベーターホールの案内板には「阪神高速道路」とあった。エレベーターで上がろうとしたが、5~7階のボタンはなく、とまることができなかった。

TKP関西支店の男性社員は「揺れや騒音は感じない。会議室の利用者からの苦情もない」と話す。高速道路はビルの外側にある橋脚で支えられ、構造的に完全に分離している。建設当時、最も厚い窓ガラスを使うなどして揺れや騒音を抑えている。

この道路の正体は阪神高速11号池田線。大阪府北部と大阪市内を結び、大阪国際(伊丹)空港との往来などに欠かせない路線だ。

どうしてこのような奇妙な建設にいたったのだろうか。阪神高速道路に聞いてみた。梅田周辺の交通渋滞を緩和するために新たな出口を設置する必要があり、1984年に道路の整備計画を作成した。ただ「計画したルート上にはビル建て替えを計画する地権者がいた。代替地もなく、協力する必要があった」という。86年から用地の取得交渉を始めた。

地権者でLPガス販売、末澤産業(大阪市)の末澤市子社長によると、交渉に当たったのは先代社長の父親だ。「詳しい経緯は亡き父のみぞ知る」としつつ、「もともとは2階建ての小さなオフィスだった。好景気に合わせてビル計画ができたが、道路計画と重なってしまった」という。

好景気に沸いた80年代は、都市部で地権者の開発計画と道路計画が重なる事態が多発した。用地の収用費用が多額に上った。当時は道路の上下に建物を建設することが認められず、工事が進まなかった。

転機は89年。制度改正が待望され国は道路法などを改正し、「立体道路制度」をつくった。道路空間での建設や賃借権の設定が可能になった。阪神高速道路は地権者と法改正後の89年末に合意。ビルは92年に竣工し、道路とビルが共存する立体道路制度の第1号となった。

特殊な構造で建設コストもかさみそうだが、実は割安だ。ビルの敷地全体を買収する必要がないためだ。地権者も移転せずにすむ。

ただ、工事には苦労したという。阪神高速道路の当時の設計担当者は「ビルとの調和を重視し、エントランス近くの橋脚にはビルの壁面タイルと似た色の化粧板を施した。通常の道路用の塗料では色が合わず、自動車の塗料を取り寄せてやっと見つけられた」と話す。橋桁の化粧板も丸みを帯びた形状にしたという。保守作業も協力が不可欠だ。建物に潜り込む区間の点検は作業員がビルを通ってたどり着けるようになっている。

国土交通省によると、立体道路制度を使った建造物は、虎ノ門ヒルズ(東京・港)など全国的に増えつつある。「ビルを道路が貫通する形は珍しい」という。

最後に地権者の末澤社長にビルの今後について尋ねてみた。「完成イメージ図を父が持ち帰ってきたときは驚いたが、今や大阪のランドマーク。強い耐震性を備えた設計にしているので、できるかぎり長く残していきたい」とほほ笑んだ。

(安田龍也)

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