建設テックへの投資拡大 日本勢にも注目集まる - 日本経済新聞
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建設テックへの投資拡大 日本勢にも注目集まる

CBインサイツのデータによれば2020年7~9月期の大企業などによる建設テック関連のスタートアップ投資件数は過去5年間で最高水準となった。新型コロナウイルスの感染拡大で建設関連の作業が一時休止したものの、各社は建設現場を管理し、効率化する技術に資金を投じている。建設プロジェクト管理アプリのアンドパッド(東京・千代田)など日本勢も注目されている。世界大手の投資動向を分析した。

大企業による建設テックスタートアップへの投資が過去最高の水準に達している。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で景気の先行きは不透明だが、大企業による建設テックスタートアップへの投資件数は減っていない。7~9月期は四半期ベースで過去最高に達し、協業・プロジェクト管理ツールを手掛けるスタートアップに投資が集まった。こうした大企業の多くが、企画や建設のプロセスで技術的優位に立とうとしている不動産開発会社だ。

今回のリポートでは、大企業による投資活動に注目し、最も多くの関心を引き付けているスタートアップや分野について取り上げる。

20年7~9月期の投資件数、コロナ下でも高水準に

新型コロナの影響で、20年1~3月期の投資活動は過去5年で最低の水準にとどまった。商業用や住居用の建設プロジェクトが遅れて作業員が一時帰休となり、大企業が事態の正常化を待ったことが響いた。

投資件数は4~6月期には回復し、自動化ツールは長期的には明るいとの見方から7~9月期には過去5年間で最高の水準に達した。7~9月期の調達額も前四半期比294%増と急増した。ドローン(小型無人機)配送や3D印刷、プロジェクト管理を手掛けるスタートアップによる資金調達がけん引した。

投資はここ5年、プロジェクト管理ツールに集中している。ロボットやドローン、建設機器の売買や請負業者の仲介などを担うサイト、3D印刷、コンピューター上に建物を構築するBIM(ビルディングインフォメーションモデリング)への投資も目立っている。

最も投資が活発な大企業はオートデスク、2位はセールスフォースとセメックス

15年以降の建設テックスタートアップへのエクイティ投資(株式取得・引き受けを伴う投資)件数が最も多かったのは、建築、エンジニア、建設用の3D設計・モデリングソフトを手掛ける米オートデスクだった(同社のコーポレートベンチャーキャピタル、オートデスク・フォージ・ファンドとオートデスク・ベンチャーズによる投資も含む)。オートデスクは15年以降の建設テックスタートアップの買収件数でも、米ベントレー・システムズと並んで最も多かった。

オートデスクは建設業界全般に資金を投じている。投資先にはモジュール住宅メーカーの米ファクトリーOS(Factory OS)、現場データ管理プラットフォームの米ランビックス(Rhumbix)、建設現場の動画を解析する米スマートビッド(Smartvid.io)、3Dデータモデリングを手掛ける米アセンブルシステムズ(Assemble Systems)などが含まれる。オートデスクは後にアセンブルシステムズを買収した。

15年以降の投資建設テックスタートアップへの投資件数が2番目に多いのは、米セールスフォース・ドットコムのセールスフォース・ベンチャーズとメキシコのセメント大手セメックスのセメックス・ベンチャーズだ。

セールスフォースは主に協業・プロジェクト管理ツールに投資している。同社は日本のプロジェクト管理アプリ、アンドパッド(ANDPAD)の3度の資金調達ラウンドのほか、建設業向け人材管理ソフトを開発したカナダのブリジット(Bridgit)の2度のラウンドに参加。プロジェクトの進行状況の追跡ソフトを手掛けるフランスのファイナルキャド(FINALCAD)、ドローンを使って上空からの情報を提供する米ケスプリー(Kespry)にも出資した。

セメックスはプロジェクト管理スタートアップの米ストラクションサイト(StructionSite)とチリの同イプサム(Ipsum)に出資した。建設資材を現場に配送するカナダのゴーフォーインダストリーズ(GoFor Industries)や、コンクリートのインフラに埋め込んだセンサーで構造健全性をリアルタイムで監視する米コンクリートセンサーズ(Concrete Sensors)など、サプライチェーン(供給網)や原材料の分野にも投資している。プラスチックの廃棄物から低炭素の「スマートグラベル(砂利)」を生産する米アークライト(Arqlite)にも資金を投じた。

協業・プロジェクト管理に投資集中

20年に大企業の投資家が最も注目している分野は依然として協業・プロジェクト管理ソフトだ。今年この分野で資金調達を果たした注目のスタートアップはアンドパッドだ。同社は7月のシリーズCで3730万ドル、10月のシリーズC追加ラウンドで1880万ドルを調達した。

施工管理者が建物の欠陥など現場のデータをデジタルで記録し、請負業者にリアルタイムで修理を命じるアプリを運営するオーストリアのプランレーダー(PlanRadar)は3月のシリーズAで3340万ドルを調達した。

7月のシリーズBで1590万ドルを調達した米オープンスペース(Open Space)は作業員のヘルメットに装着された小型カメラと人工知能(AI)ソフトを活用し、進行状況の報告や現場についての分析データを生成する。同社には米商業不動産開発大手のティッシュマン・スパイヤー・プロパティーズ、不動産テックの投資ファンド米JLLスパーク、米シェアオフィス大手ウィーワーク、米建設会社サフォーク・コンストラクションが出資している。

戦略的提携を見据えて建設テックスタートアップに積極投資

不動産開発会社は建設テックへの出資に積極的だ。出資を経て提携することにより、企画や建設のプロセスを改善するテクノロジーへのアクセスが可能になるからだ。

過去5年で最も多くの大企業から出資を受けているのは米オネストビルディングス(Honest Buildings)だ。建設コストや請負業者の入札など、建築情報を管理する商業用不動産の開発業者向けプラットフォームを運営する。同社は19年、プロジェクト管理ソフトの米プロコアに買収された。

オネストビルディングスに投資する大企業には米ディブコウエスト、カナダのクアッドリアル、米ダースト・オーガニゼーションなど総合不動産会社が名を連ねている。

同様に、セメントを使って3Dプリンターで平屋の戸建て住宅を施工する米アイコン3D(ICON 3D)に出資している大企業も、住宅建設大手の米DRホートン、建築設計事務所の米ビャルケ・インゲルス・グループ、不動産開発の米シエロ・プロパティー・グループ、アラブ首長国連邦(UAE)ドバイ政府系の不動産開発会社エマール・プロパティーズなどだ。

中古建設機械の販売サイトを運営する日本のソラビト(東京・中央)と、建設業の人材マッチングアプリを手掛ける助太刀(東京・渋谷)も不動産や建設に従事する大企業を引き付けている。もっとも、両社は商社やCVCからの出資が多い。

ソラビトは直近では19年5月、住友商事と伊藤忠建機(現・伊藤忠TC建機)から出資を受けた。助太刀は19年7月、シリーズBの追加ラウンドで未来創生2号ファンドから資金を調達した。

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