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割安株挽回、相場の分水嶺迫る(苦瓜達郎)

三井住友DSアセットマネジメント シニア・ファンド・マネージャー

前回の本欄で、いわゆる成長株だけが上昇する「高の日」と割安株が相対的に堅調な「低の日」の差が拡大していると指摘しましたが、その後の1カ月半で事態はますます極端な状況になりました。10月6日から12日まで5営業日連続で高の日が続いたかと思えば、22日から26日、30日から11月2日までは低の日、4日、5日、9日とふたたび高の日に転じるという展開で、株式市場全体の物色動向の振れが個別銘柄の株価を振り回す状況が続きました。そして、11月9日の日本時間夜にファイザー社が開発中の新型コロナウイルスワクチンが良好な試験結果を収めたという発表が行われると、世界的に株式市場は強烈な「低の日」に転じました。

世界的に景気敏感株やウイルス流行により打撃を受けた企業が大きく買われる一方、情報・通信関連を中心に、ウイルスと共存する「新しい世界」で高成長を続けると目されていた銘柄群の株価は逆に下落しました。その結果、日次での割安株と成長株の株価変動の格差は歴史的な水準となりました。2020年11月10日と同程度の大きな格差が記録されたのは、リーマン・ショック後の2009年、ITバブルピーク前後の1999年末~2000年、アジア危機後の1998年と、いずれも大きな相場の転換点となった局面ばかりです。

前回も書いたように、私は割安株投資に徹しています。「高の日」が続きがちだった今年度は他の小型株投資家に大きく後れを取っていましたが、この日は多少差を詰めることができました。しかし、一個のニュースに対する反応という面だけで考えると、この日の株価変動はやり過ぎという感が否めません。

ワクチンが良好な試験結果を収めたというニュース自体は喜ぶべきことですが、あくまでも短期の試験結果に過ぎず、今後結論が覆るリスクは否定できません。そのほか、世界中の人に効果を発現するのか、今後重大な副反応が現れるのではないか、超低温が要求される供給体制をきちんと築けるのか、ウイルスの変異に対応し切れるのか、注射にどれくらい苦痛が伴うのか……など、素人目にも不安材料は数多く残っています。

この日の株価変動に関しては、むしろ、前回に指摘したように、3年間近く続いている成長株相場の行き過ぎに対する反動と捉えるべきだと思います。2018年以降、成長株と見なされた銘柄群に市場の物色が偏り続けた結果、割安株との株価格差は歴史的な幅にまで拡がっており、修正に転じるタイミングを探る状況にあったと考えています。ワクチンの試験結果自体は、むしろ単なるきっかけに過ぎないのかもしれません。

前回も触れたように7月以降たびたび大幅な「低の日」がありましたが、結果的にはその翌日や翌週が「高の日」となり、月次で見れば成長株優位が続いていました。しかし、今回は11月10日の成長株と割安株の株価変動格差は歴史的な水準であり、これを埋めるのは簡単なことではありません。2009年や2000年に生じた割安株巻き返しの後はいずれも相場の転換点となっており、今回もそうなる可能性は十分にあると考えています。

景気敏感銘柄に関しては、総じて業績も予想ほど悪くありません。3月決算銘柄の第2四半期決算発表に関しては、上方修正の件数が下方修正を大きく上回る状況となっており、7~9月期の段階ですでに平常時の利益水準にまで回復している企業も少なくありません。日本を含む東アジア地域で深刻な感染再拡大が防げていること、欧米に関しても感染状況は深刻ながら製造業に関しては回復基調が続いていることが要因で、特に自動車部品関連の小型株に関しては業績回復の割に株が評価不足なケースが多いと感じます。

一方、11月10日に急落した「新しい世界」関連銘柄の中でも、感染拡大期の業績改善幅が大きかった割に株価の上昇が限定的だったものに関しては投資妙味が出てきていると思います。具体的には、ホームセンターや電子コミック関連の各社が挙げられます。仮に、有効なワクチンの接種体制が完備され自由に人との交流ができる社会に戻るとしても、自宅に手間をかけ、スマホでマンガを読む楽しさを多くの人が手放すとは思えません。これらの業種が流行以前の業績に逆戻りするリスクは低いと考えています。

プロのポートフォリオは運用に精通したプロが独自の視点で個人投資家に語りかけるコラムです。

苦瓜達郎(にがうり・たつろう)

1968年生まれ。東京大学経済学部卒業後、91年大和総研入社。アナリストとして窯業やサービス業の担当を経て中小型株を担当。2002年に当時の大和住銀投信投資顧問入社。中小型株ファンドの運用に携わる。

[日経ヴェリタス2020年11月22日付]

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