米国の安保、政権移行で隙も アフガンなどで兵力削減

【ワシントン=中村亮】米政府は17日、イラクとアフガニスタンの駐留米軍削減を発表した。トランプ大統領の任期は2021年1月で切れるが、公約実現を急ぐ形だ。バイデン前副大統領は当選を確実にしたものの、安全保障の機密が現政権から共有されていない。政権移行の混乱で安保政策に隙が生じる懸念が高まっている。
「世代にまたがる戦争を終える」。ミラー国防長官代行は17日に読み上げた声明で、01年に始まったアフガン戦争を念頭にこう強調した。オバマ前政権ではアフガン駐留米軍は10万人規模に膨らんだが、トランプ政権は段階的に兵力を削減している。
今回の削減で駐留する兵士は2500人と現在の水準から4割減らす。イラクでも駐留規模を2500人と同2割減らす。ともにトランプ氏の1期目の任期切れ直前となる2021年1月15日までに削減を完了する。
ランド研究所のジェイソン・キャンベル政策研究員は「戦略的観点からこのタイミングでの米軍削減を正当化するのは困難だ」と指摘する。特に問題視するのはアフガンだ。米政府の内部監察官がまとめた報告書では7~9月にアフガン政府軍や市民に対する攻撃は4~6月に比べて5割増えた。
トランプ政権は2月にアフガンの反政府武装勢力タリバンと和平合意を結んだが、タリバン側が合意を順守していないとの見方が多い。過激派組織「イスラム国」(IS)も攻撃を仕掛けているとされる。

北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は17日の声明で「あまりにも急であったり協調性を欠いたりする撤収の代償は非常に大きくなりかねない」と米国を批判した。
シリアやイラクで劣勢のISがアフガンに拠点を移すとの懸念も示した。共和党上院トップのマコネル院内総務も同日、記者団に「アフガンでもイラクでも突然の削減は誤りだ」とトランプ氏をけん制した。
トランプ氏は大統領再選の道筋が見えず、安保よりも公約実現を優先している可能性がある。トランプ氏は政権移行への協力を拒んでおり、バイデン氏と機密を共有しておらず、当確が出ているバイデン氏は中東情勢の詳細を把握しきれていない。
通常は政権移行期に政府当局者が機密情報を共有し、政権交代による安保政策の断絶が起きないようにする。バイデン氏は17日に世界の安保情勢に関する説明を受けたが、ブリーフィングを行ったのは外部有識者だ。
バイデン氏の政権移行チームは17日の声明で「安保や外交政策で差し迫った問題について政権当局者と面会したり、聞き取りをしたりできない」と不満をあらわにした。
バイデン氏はテロ対策で当面はアフガン駐留が必要との立場だ。イラクの駐留米軍は隣国の武装勢力を支援しているとされるイランをけん制する役割も担う。
だが、新政権の発足後に再増派を決めれば、身内の民主党から反発を浴びるリスクがある。キャンベル氏はトランプ氏の駐留米軍削減の決定は「バイデン氏の政策の裁量を縛る恐れがある」との見方を示す。
米メディアによると、トランプ氏はイランの核関連施設への攻撃を側近と協議した。ペンス副大統領やポンペオ国務長官は反対したとされるが、仮に攻撃を実行に移せばイスラエルを巻き込んで中東で大規模な軍事衝突に発展しかねず、バイデン氏の中東政策を揺るがすのは確実だ。