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本物のウイルスでマスクの効果試した 結果はやはり…

マスクの主な効果は、感染した人がつけることで「周囲にうつさない」こととされてきましたが、非感染者がつけることで「うつされない」効果も期待できることが分かりました。(C)Dmitry Kalinovsky-123RF
日経Gooday(グッデイ)

新型コロナウイルス感染症の拡大防止において、マスクの効果はやはり大きいことが、本物の新型コロナウイルスを使った実験で初めて実証されました。

これは、東京大学医科学研究所の研究グループが先ごろ行った実験[注1]で、密閉された空間に感染者と非感染者が向かい合っている状態を再現し、新型コロナウイルスを含む飛沫/エアロゾル(空気中に浮遊する微小な液体または固体の粒子)を放出させて、マスクがどの程度ウイルスの放出や吸入を減らすかを調べたものです。

本物の新型コロナウイルスを使ったシミュレーションを実施

米疾病予防管理センター(CDC)や世界保健機関(WHO)は、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、一般市民に対してマスクの着用を推奨しています。しかし、これまでに、マスクの着用が新型コロナウイルスの飛沫感染やエアロゾル感染を防ぐことを示唆した研究結果は、疫学研究によるものがほとんどでした。

たとえば、家庭内感染の発生状況を比較したところ、家の中でも家族がマスクをしていた世帯では、そうでない世帯に比べ、感染リスクが低かった、といった研究結果が報告されています[注2]

今回、植木紘史氏をはじめとする、東京大学医科学研究所の河岡義裕氏の研究グループは、新型コロナウイルスの飛沫とエアロゾルの伝播に対する各種マスクの防御効果を調べるために、以下のような実験システムを構築しました。

実験に用いたシミュレーター

 口の部分に穴をあけたマネキンの頭部2つを、対面させた状態で、密閉可能なケースに設置し、一方をウイルス排出側(感染者)、もう一方を吸入側(非感染者)としました。

 排出側にネブライザー[注3]を接続して、口元からウイルスを含む飛沫/エアロゾルが放出されるようにしました。もう一方の、吸入側のマネキン頭部の口元の穴には、アルミニウムのパイプを接続し、続いて、ゼラチン膜フィルターを組み入れたウイルス回収ユニットをつなぎ、そこから、シリコンチューブを介して人工呼吸器と接続しました。

 ウイルス排出側からは、軽いせきと同じくらいの速度(2m/秒)で、霧状にしたウイルス懸濁液を20分間放出させました。含まれていた粒子の内訳は、3μm未満が20%、3μm以上5μm以下が40%、5μm超~8μm以下が40%でした。しかし、20分がたつうちに、それらの一部から水分が蒸発し、エアロゾル化すると予想されるため、チャンバー内には、飛沫とエアロゾルの両方が漂っていたと考えられました。

 吸入側に接続した人工呼吸器は、成人の通常の肺呼吸と同様になるように設定しました。ゼラチン膜フィルターに捕集されたウイルスRNAの量は、PCR検査を行って測定しました。また、捕集されたウイルスの感染能の評価にはプラークアッセイ[注4]を用いました。

[注3]液体を細かい霧状にする装置。霧化した薬液を吸入させる治療は、ぜんそくや副鼻腔炎の患者などに広く適用されている
[注4]培養細胞に感染することができるウイルスが、標本中にどのくらい存在するか(ウイルス力価)を調べる実験

このシステムを用いて、以下(次ページ)のような実験をいずれも3回ずつ行い、平均値を求めた結果、以下(次ページ)のような結果が得られました。

[注1]Ueki H, et al. mSphere. 2020 Oct 21;5(5):e00637-20.

[注2]Wang Y, et al. BMJ Global Health 2020;5:e002794.

1)「両者マスクなし」で25cm、50cm、100cmの距離に設置した場合

結果:距離が離れるにつれて吸入ウイルス量は減少しましたが、100cm離れていても感染性を持つウイルスの吸入は起こっていました。

以下の実験はすべて頭部間の距離を50cmに固定して、「両者マスクなし」だった場合に吸入側が吸入したウイルスの量(つまり、感染者と非感染者がマスクなしで向き合い、感染者が軽くせきをした場合に、非感染者が吸い込むウイルスの量)と比較しました。

2)「ウイルス吸入側のみマスク着用」の場合

結果:吸入側(非感染者)がマスクをすれば、吸入するウイルスの量は減少する傾向が見られました。つまり、非感染者の日常的なマスクの着用が、ある程度有効であることが示唆されました。N95というのは、医療現場で用いられる、フィルター性能の高いマスクのことです。

3)「ウイルス排出側のみマスク着用」の場合

結果:排出側(感染者)がマスクを着用すると、綿マスクであってもウイルスの吸入を有意に減らせることが明らかになりました。

4)「排出側がマスク(布マスク、またはサージカルマスク)を着用」し、「吸入側はマスクなしまたは各種マスクを着用」した場合

結果:両者がマスクをすれば、吸入されるウイルスの量が安定して減少することを示しました。

ウイルス量を増やしても吸入側のマスクの効果を確認

著者らはさらに、排出されるウイルス量を200倍または5分の1に変更して、「排出側はマスクなし、吸入側は各種マスクを着用した状態」で実験を行いました。その結果、ウイルス量が増えても吸入側のマスクの効果は引き続き認められました。

ウイルス量を減らした場合には、吸入されたウイルスのRNAは検出されたものの、吸入側の条件にかかわらず感染性を持つウイルスは検出できませんでした。現実の世界において実際の感染者から発せられる呼気に含まれているウイルスの濃度は明らかになっていないため、この程度の量を吸入した人がウイルスに感染するかどうか、また、発症するかどうかは不明です。

今回の研究では、個々の条件について3回しか実験を行っていないため、数値にはばらつきが見られました。加えて、「両者マスク着用なし」の場合を参照として比較しており、マスク間での比較は行われていないため、布マスク、サージカルマスク、N95マスクの間に見られた効果の差が統計学的に有意かどうかはわかりません。

それでも、綿製の布マスク、サージカルマスク、N95マスクはすべて、感染性のウイルスを含む飛沫/エアロゾルの伝播をある程度防ぐ効果を持つこと、感染者がマスクを着用すれば、周囲の人が吸い込むウイルスの量を減らすのに役立つこと、そして、周囲の人がマスクをすることでも、ウイルスの吸入を抑制できることが示されました。ただし、N95マスクを隙間なく装着したとしても、ウイルスの侵入を完全には防げておらず、マスクをしているからと安心せずに、換気などの追加の予防措置を取ることも重要だと考えられました。

サージカルマスクってどれのこと?

 実験に用いられた「サージカルマスク」ですが、厚生労働省は「日本では特に法的なサージカルマスクの呼称や性能に対する規定はない」としています[注5]。全国マスク工業会は、家庭用マスクをガーゼタイプと不織布タイプに分類し、医療用マスクはサージカルマスクと呼んでいるそうです。

 一方で、米国の医療用マスクの基準は、細菌ろ過率(BFE)や微粒子ろ過率(PFE)などが一定の基準を満たすもの、となっています。したがって、日本で一般に市販されている不織布マスクで、BFE、PFEが95%以上と表記されている製品であれば、フィルター機能においては、米国の基準に基づくサージカルマスクとほぼ同等と考えられます。

[注5]松村芳美. 日本における産業用防じんマスク、医療用マスク及び家庭用マスクの実態

スパコンのシミュレーションでもマスクの効果を確認

マスクの効果については、スーパーコンピュータ世界ランキング第一位に輝いた「富岳」を利用したシミュレーション研究[注6]も進行しています。

これは、理化学研究所チームリーダー/神戸大学教授の坪倉誠氏らによる「室内環境におけるウイルス飛沫感染の予測とその対策」と題された研究で、感染者のマスク着用によるウイルス排出抑制効果と、非感染者のマスク着用によるウイルス吸入抑制効果が検討されています。

「感染者がマスクを着用した場合」のシミュレーション結果によると、綿相当の手作り布マスクは、飛沫(エアロゾルを含む)をキャッチする能力が他より劣りますが、不織布マスクと手作り布(ポリエステル相当)マスクの比較では、どちらも8割を捕集しており(捕集した全飛沫の体積に占める割合で計算)、布マスクでも、素材を選べばウイルス放出を抑制する効果を期待できることが示されました。ただし、より細かいエアロゾル粒子は、どちらのマスクでも全体の40~50%程度は漏れてしまうことが示唆されています。

続いて、「非感染者がマスクを着用した場合」のシミュレーション結果では、呼吸6秒後に体内に取り込まれる飛沫(エアロゾルを含む)粒子の数は、不織布マスクを着用すれば、マスク着用なしの場合の3分の1程度に抑えられる、としています。

ただし、20μm以下の飛沫(エアロゾルを含む)に対するマスクの効果は限定的で、マスクをしていない場合とほぼ同数の飛沫を喉の奥まで吸い込んでしまうことが示唆されました。したがって、ウイルスの侵入を抑制するためには、マスクをしていても換気を行い、周囲に存在するウイルスを含むエアロゾルを減らすことが重要であると結論づけています。

「コロナ慣れ」で迎える冬、加湿と換気も忘れずに

マネキンを用いた実験でも、スパコンによるシミュレーションでも、一般市民のマスク着用は感染拡大の予防において有用であること、それでも換気は必要であることが示されました。

これから冬に向かって気温と湿度が下がると、新型コロナウイルスが感染性を維持する時間が延び、ウイルスを含む飛沫が空気中を漂う時間が長くなります(参考記事:新型コロナウイルス 「夏に弱い」は本当か?)。なんとなく誰もが「コロナ慣れ」しつつある今日このごろですが、パンデミック当初の緊張感を取り戻し、マスクの着用と手洗いに加湿と換気を加えて、引き続き注意していきましょう。

[注6]坪倉誠. 室内環境におけるウイルス飛沫感染の予測とその対策

[日経Gooday2020年11月6日付記事を再構成]
大西淳子
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。

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