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ストライカー養成は勝利の道に通ず 10年後へ「投資」

横浜M・仲川(左)は昨季、日本人選手9人目のJ1得点王に輝いた=共同

日本サッカー協会(JFA)はストライカーの養成に本腰を入れる。その手始めとして、12月初旬に静岡で「ストライカー・プロジェクト」を実施する。ワールドカップ(W杯)のような世界大会でベスト8、ベスト4の壁を越えていくには優秀なストライカーが絶対的に必要。そう考えて、10年後、20年後を見据えた"投資"に取り組むわけである。

今回のプロジェクトの対象となるのは、全国のトレセン活動から選ばれた中学2年生が主体となる。サッカーのポジションが固定されるのは、だいたい14歳ぐらいから。それまではいろんなポジションで適性を試されるから、ストライカーの専門教育を施すにはこれくらいのタイミングが妥当ということだろう。

世界で勝つためのプロジェクト

旗振り役はJFAの育成部会で、トレーニングと座学を交えて原石たちに磨きをかける。選手たちもこの機会に自分たちに足りないものを真摯に見詰め、世界にチャレンジする意識を明確に持ってもらいたいと思う。

ポジション別のJFAのプロジェクトはGKに先例がある。GKもW杯の度に「世界との距離」がうんぬんされるけれど、ストライカーはGKよりもっと開きがあるかもしれない。高原直泰(現沖縄SV)や岡崎慎司(現ウエスカ)のようにドイツ・ブンデスリーガで1シーズンに2桁のゴールを記録した選手はいるにはいるが……。

ストライカー不足は世界中の代表チーム、クラブチームに共通の悩み。プロジェクトを立ち上げたからといって、そう簡単に成果は出ないだろう。かといって手をこまぬいているだけでは何も起こせない。GKプロジェクトが世界で負けないための施策なら、ストライカー・プロジェクトは世界で勝つための施策だ。

くじけることも焦ることもなく、トレーニングの中身を緻密に組み立て、選手に実践させ、精査とフィードバックを重ねながら、地道にプロジェクトの中身をバージョンアップさせていくことが大事だと個人的には受け止めている。

メッシ(手前)のゴールは左足がほとんど=共同

ストライカーをシンプルに「たくさんのゴールを決める選手」と定義したら、タイプはいろいろだ。バルセロナのメッシ(アルゼンチン)、ユベントスのロナウド(ポルトガル)、バイエルン・ミュンヘンのレバンドフスキ(ポーランド)、アトレチコ・マドリードのスアレス(ウルグアイ)ではゴール攻略ルートはかなり違う。

ロナウドやレバンドフスキは右足、左足、頭、なんでもOKの万能型だが、ロナウドにはFKを直接決める力もある。メッシのゴールは左足がほとんどで、ドリブルで切り裂く力は飛び抜けている。スアレスは「そこでそれを打つか」という奇想で驚かしてくれる。クロスに対する体の持っていき方のうまさ、ラストパスを少ないタッチ数でシュートに変換する技術力、引き出しの多さは全員に共通する。

世界の育成、圧倒的なスピード感

新世代ではドルトムントの20歳のストライカー、ハーランド(ノルウェー)の存在感が群を抜く。194センチの長身をまったく持て余すことなく、スピードもあってシュートもうまい。いずれ、より大きなクラブに羽ばたいていくのだろう。

新世代のストライカーで群を抜く存在感のハーランド(手前)=AP

ハーランドは昨年ポーランドで開かれた20歳以下(U-20)W杯の得点王だ。ホンジュラス戦では1人で9得点も挙げてセンセーションを巻き起こした。日本もU-17やU-20のW杯で、まずは得点王を生み出したいものである。アンダーエージの世界チャンピオンになることがフル代表のW杯の好成績につながるのだとしたら、それくらいのスケールのストライカーが必要になる。その選手にとっても世界への扉を大きく開くことにつながるはずである。

日本人の感覚からすると、ハーランドのような階段の駆け上がり方は尋常ではないように映るかもしれない。世界基準からするとそうでもない。

私が監督として97年のU-20W杯を宮本恒靖、戸田和幸、明神智和、柳沢敦、中村俊輔らとマレーシアで戦った時、フランス代表にはアンリ、トレゼゲ、アネルカという後に名を成すFWがそろっていた。

翌98年の大人のW杯でフランス代表は地元優勝を飾るのだが、そのメンバーにアンリとトレゼゲがいた。「あいつら、もうここにいるのか」と私が受けた衝撃。2018年のW杯ロシア大会でフランス代表のエムバペは19歳で世界王者になったけれど、世界の育成は昔からそういうスピード感で動いている。

エムバペは19歳で出場したW杯でゴールを決め、世界王者になった=ロイター

日本にも優れたストライカーはいる。歴代のJ1得点王の中に日本人選手は9人いる。福田正博(95年浦和)に始まり、三浦知良(96年V川崎)、中山雅史(98、2000年磐田)、高原直泰(02年磐田)、前田遼一(09、10年磐田)、佐藤寿人(12年広島)、大久保嘉人(13、14、15年川崎)、小林悠(17年川崎)、仲川輝人(19年横浜M)である(所属先は当時)。

外国人FWに伍(ご)して歴史に名を刻んだのは立派だが、高原を除くと、開花までに時間がかかり過ぎているうらみがどうしても残る。

いきなりエムバペやハーランドのレベルを求めるのはむちゃとしても、国内レベルなら、98年のプロ1年目からゴールを挙げ、02年に23歳で得点王とMVPをダブル受賞した高原くらいのスピード感で成長するストライカーが次々に出てきてほしいところだ。

W杯得点王のDNAがJ1得点王へ

成長速度を上げる一つの方策として、身近に素晴らしい手本があるのは重要なことだろう。磐田はこれまで日本人のJ1得点王を一番多く出しているクラブだが、中山、高原、前田という系譜を見れば、この3人はお互いに刺激し合い、吸収し合いながら成長していったことは明らかだろう(川崎の大久保と小林悠もそういう関係があったことだろう)。

さらに言えば、一番の先輩格の中山に影響を与えた人物として、スキラッチ(イタリア)を忘れてはいけないと思う。94年から97年まで磐田に在籍した90年W杯の得点王は自分の前にシュートを打つ空間をつくるのが抜群にうまく、振り抜きも異様に速かった。一瞬、GKのタイミングを外して決めるシュートも絶品だった。

そういうスキラッチから中山もいたく刺激を受けながら、自分は何で勝負すべきかを突き詰めていった。そんなことを思うと磐田が生んだJ1得点王は、W杯得点王のDNAでつながれていた気もするのである。

それはともかく、J1の日本人得点王も本当に多士済々だ。せっかくいい手本があるのだから、そういういろんなタイプのストライカーが途切れることなく次々に現れ、代表監督にうれしい悲鳴を上げさせてほしいものである。戦う相手に応じて違うタイプのストライカーを遜色なく使えるようになったら、戦術的な幅も広がる。

10月のオランダ、11月のオーストリアでの日本代表戦を見ていても、今の日本の選手たちのボールを動かす力は相当なものだ。勤勉さを武器に攻守にハードワークして、素早くボールを動かして屈強な相手に的を絞らせずに攻め込むのも日本サッカー不変のベースだろう。

このベースに、欧州のトップリーグで得点王を争えるようなストライカーが加われば、W杯のビクトリーロードだって、もっと見えやすくなるはずだ。

(サッカー解説者)

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