大韓航空のアシアナ買収、政府が主導 独禁法リスクも

【ソウル=細川幸太郎】韓国航空首位の大韓航空は16日、同2位のアシアナ航空を1兆8千億ウォン(約1700億円)で買収すると発表した。政府系の韓国産業銀行が買収の枠組みを決めたうえで、資金の一部を供出する。新型コロナウイルスの行方が見通せないなか、航空会社の命運を政府が握る構図が当面続きそうだ。
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大韓航空がアシアナ航空の第三者割当増資を引き受ける形で出資して子会社化する。買収資金として産業銀行が大韓航空の持ち株会社の韓進KALに8千億ウォンを出資する。韓国をはじめ就航する国の独占禁止法当局の審査を経て2021年中に買収を完了する計画だ。
国際航空運送協会(IATA)によると、19年の旅客キロ(旅客数と飛行距離のかけ算)で大韓航空は世界28位、アシアナは42位。単純合算で15位に浮上し、22位の全日本空輸(ANA)や33位の日本航空(JAL)を上回る。
韓国航空産業は格安航空会社(LCC)を含めて国際線を運航する航空会社が8社もある。過当競争に加え、新型コロナで苦境が鮮明となった。

アシアナ航空は19年12月期に大幅な最終赤字を計上し、債権団をまとめる韓国産業銀行のもとで売却先を探してきた。19年12月には国内建設大手に売却することで基本合意を結んだが、20年9月に破談になった。産業銀行は他に選択肢はなく、大韓航空への売却を進めた。
ただ国内1位と2位への事実上の救済措置に他国の独禁法当局の視線は厳しく、自国の審査を通っても海外当局が問題視するリスクがある。両社の労働組合は人員削減などの今後のリストラを念頭に、買収に反発しているという。
今回の買収は日本への影響も小さくない。大韓航空はジンエアーを、アシアナ航空はエアプサンとエアソウルというLCCをそれぞれ傘下に持ち、これら5社の日韓を結ぶ定期路線数は合わせて40を超える。買収を機に日本路線の減便や統廃合が進めば、観光需要の回復に水を差しかねない。
世界の航空、官頼み
新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからないなか、世界の航空会社は業績回復の兆しに乏しい。各社はリストラを進めるが、自助努力には限界もみえる。今回の大韓航空によるアシアナ航空買収は韓国政府が主導しており、今後は官が資金支援にとどまらず、より踏み込んだ対策に乗り出す可能性もある。
世界で国境をまたぐ人の移動が大幅に制限されており、国際航空運送協会(IATA)によると、20年の世界の航空需要は前年に比べて66%減少する見通し。このため、独ルフトハンザは2020年7~9月期決算で19億6700万ユーロ(約2500億円)の最終赤字を計上。仏蘭エールフランスKLM、米デルタ航空なども巨額の赤字となるなど航空業界は総崩れとなっている。
欧米では気温が下がるにつれ、新型コロナの感染者が再び増える傾向にある。当面は航空需要が回復するきっかけすら見通せない。

ただ、こうした大規模なコスト削減策ですら、未曽有の危機の前では無力感すら漂う。IATAによると、21年も世界の航空業界では大半の企業が赤字となる見込み。アレクサンドル・ド・ジュニアック事務総長は「政府による緩和措置や国境の開放がなければ数十万人の職が失われる」と危機を訴える。
自力による再建が難しいなか、各社の存続するカギを握るのは政府だ。各社が公的資金を得て当座をしのぐなか、韓国は一足飛びに航空業界の再編にまで踏み込んだ。業績回復がもたつけば、こうした再編劇が他国にも広がる可能性もある。
日本でもANAホールディングス(HD)の20年7~9月期の最終損益が796億円の赤字、日本航空(JAL)も同675億円の赤字だった。ただ欧米の航空大手に対し赤字額は相対的に低い水準にある。財務の健全性も欧米に比べ高く、2社は民間金融機関を主体とした借り入れで運転資金の確保にメドを付けた。政府の公的資金に頼らず危機を乗り切れるのか。新型コロナの収束とのにらみ合いに終わりは見えない。(井沢真志)
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