「がぶり」武器に相撲追求 元大関・琴奨菊引退へ
元大関で西十両3枚目の琴奨菊(36)=本名菊次一弘、福岡県出身、佐渡ケ嶽部屋=が現役引退を決めたことが14日、わかった。今場所は左ふくらはぎの肉離れの影響もあって15年ぶりに十両へ陥落し、6日目まで1勝5敗と苦戦が続いていた。

華麗な投げや俊敏性があるわけではないが、筋肉がはちきれんばかりの下半身が生み出す馬力を武器に19年間、土俵に上がり続けた。左四つに相手を組み止め、あんこ型の体を上下に揺すって一直線に前へ運んでいく。代名詞のがぶり寄りの迫力と、土俵の外での福々しい笑顔で多くの人に愛された力士人生だった。
そのいちずな相撲が大輪の花を咲かせたのが2016年初場所だ。鶴竜、白鵬、日馬富士の3横綱や稀勢の里を次々と打ち破り、日本出身力士として10年ぶりの幕内優勝を成し遂げた。
ただ、栄光よりも苦難の日々が長かった。大胸筋断裂や左膝靱帯損傷など故障が続き、大関在位32場所で2桁白星は9度だけで、かど番は7度。優勝のわずか1年後には大関から陥落した。

平幕で現役を続けることへの葛藤を抱えながらも「開き直ったというより、今の方が考えてやっているから『気づき』が多い」と新たな境地に。関取最年長の36歳となった今年も立ち合いの前傾の角度を変えるなど「白星に視点を置かずに自分を追求していきたい」という姿勢を貫いた。次代を担う大器といわれる琴勝峰ら弟弟子の模範となりつつ、若手の稽古からヒントを得ようという貪欲さもあった。
先場所で十両陥落が決まった後も、師匠の佐渡ケ嶽親方(元関脇琴ノ若)に「けがに負けて引退するのは嫌。まだやりたいことがいっぱいある」と告げていた。無念の引退には違いないが、史上6位の幕内通算718勝という記録以上に残した足跡は大きい。
(本池英人)