球場が呼んでいる(田尾安志)

フォローする

ロッテ・藤原が得た新人王より尊いもの

2020/11/15 3:00
保存
共有
印刷
その他

7日のオリックス戦で右越えに逆転3ランを放つ藤原=共同

7日のオリックス戦で右越えに逆転3ランを放つ藤原=共同

プロ野球のレギュラーシーズン終盤の定番に、タイトルを意識した選手起用がある。今季も、打率がリーグトップの選手の成績が落ちないよう打席に立たせなかったり、逆に本塁打王を争う選手には打席が多く回るよう1番に据えたりと、首脳陣の心憎いばかりの配慮が見られた。タイトルが懸かる一投一打に注目が集まるのはいいとして、チームの勝利を度外視したようなやり方はどうしても緊迫感に欠ける。その点、温情なしに、ただ勝利だけを追い求めたロッテ・井口資仁監督の用兵には胸がすく思いだった。

多くの選手が新型コロナウイルスに感染し、チームが窮地に陥った10月上旬。感染者や濃厚接触者が相次ぎ登録抹消された中、急きょ2軍から1軍に呼ばれた一人に2年目の藤原恭大がいた。期待のホープをどう使うか注目された中、井口監督は7日にいきなり「1番・左翼」でスタメン起用。早速安打を放った藤原は次にソフトバンクと戦った9日、3安打の固め打ちで期待に応えた。

ソフトバンクに勝利し、藤原(左)とタッチを交わす井口監督(10月9日)=共同

ソフトバンクに勝利し、藤原(左)とタッチを交わす井口監督(10月9日)=共同

その勢いでしばらくリードオフマンの役割を果たし、2番に座った11月7日のオリックス戦では四回に逆転3ラン。この一打が効いて西武をかわして単独2位になると、翌8日は西武との直接対決を制してクライマックスシリーズ(CS)進出にこぎ着けた。藤原は26試合に出て打率2割6分、3本塁打。抜てき後、長く3割前後を打って苦境のチームを支えた働きには、最終成績だけでは測れない価値があった。

■新人王よりレギュラー取りが目標

若さが特権となるタイトルに最優秀新人、いわゆる新人王がある。有資格者はルーキーに限らず、初めて支配下登録された年から5年以内の選手で、前年までの成績が投手は30イニング以下、打者は60打席以下なら資格を満たす。かつてプロ1年目の投手がシーズン終盤、完投勝利を目前にしながら8回で降板したことがあった。この時点でシーズンの投球回数は29回2/3。新人王の権利を翌シーズンに持ち越すため、あえてプロ初完投のチャンスを手放した。「完投は来年でも狙える」と言ったこの投手は次の年、新人王獲得も完投も果たせなかった。

藤原の1年目の打席数は19。シーズン終盤に1軍に上がった今季は打席数を41までに抑え、3年目の2021年も新人王の資格を保持しておく手もあったが、井口監督はそうしなかった。最終的に今季の打席数は105。西武と激しくCS出場権を争う中で主力の大量離脱に見舞われ、最後まで藤原の力に頼ることになったわけだが、これで良かったのではないか。

ロッテは8日の西武戦に勝ち、クライマックスシリーズ進出を決めた=共同

ロッテは8日の西武戦に勝ち、クライマックスシリーズ進出を決めた=共同

私は中日に入った1976年に新人王を取ったが、望外の受賞だった。代打での出場が続いたシーズン当初、外野守備と走塁を体にたたき込むため志願して2軍に行き、1軍に戻ったのは夏場。最終的に打率2割7分7厘をマークしたものの、出場が67試合にとどまったことから新人王は縁のないものと思っていた。

そもそもこのタイトルへのこだわりもなかった。当時の目標はただ一つ、レギュラーになること。新人王を取ったところで2年目以降がさっぱりなら意味はなく、どうしたら試合に出続けられるかばかり考えていた。

大阪桐蔭高から鳴り物入りでプロに入った藤原も同じ思いできたのではないか。チームの順位に関係なく取れる新人王より、西武とデッドヒートを繰り広げる状況で監督に戦力と見込まれ、試合に出続けた経験こそ長いプロ生活の財産になるはず。緊迫した戦いの中で見せる表情は、並の若手にはないたくましさを漂わせていた。

■なかなか良い「1番荻野、2番藤原」

終盤戦で見られた「1番荻野貴司、2番藤原」のコンビはなかなか良かった。荻野の出塁率が藤原より高いことがこの順番の根拠になったが(最終的な出塁率は荻野が3割7分、藤原は3割1厘)、本来、左打者にとって2番は難しい打順だ。1番が出塁した場合、引っ張って一、二塁間を破り、走者一、三塁の形をつくることが理想だが、相手バッテリーは盗塁への警戒もあって外角中心の配球になりがちで、右方向に引っ張るのが難しい。その点、右打者なら外角球を流し打つのは造作もなく、長く2番を打った西武・辻発彦監督のように内角球をおっつけて右方向に運ぶこともできる。

経験の浅い藤原が無理やり外角球を引っ張ろうとすると打撃を崩しかねないので、ヒットエンドランの多用が現実的となる。走者がスタートするから、打球の方向にかかわらず転がせばまず二塁はセーフになる。「何が何でも引っ張れ」より「転がしさえすればいいよ」ならプレッシャーもそう大きくない。

荻野が藤原と組む1、2番コンビは相手チームには脅威になる=共同

荻野が藤原と組む1、2番コンビは相手チームには脅威になる=共同

藤原の出塁率が上がれば「1番藤原、2番荻野」もいい。それこそ器用な右打者の荻野が2番に入れば何でもできる。いずれにしても、俊足の2人が上位にいることで相手チームには相当な脅威になるだろう。

脅威といえば、この1、2番コンビができあがる前からソフトバンクにとってロッテは厄介なチームだった。今季の対戦成績はロッテの12勝11敗1分け、19年は17勝8敗と大きく勝ち越している。ロッテがレギュラーシーズン2位から日本一になった05年と、3位から日本一へと究極の「下克上」を果たした10年、いずれもシーズン1位のソフトバンクをポストシーズンで破ったことは記憶に新しい。

今季、ソフトバンクはロッテに14ゲーム差をつけて優勝したが、短期決戦は何が起こるか分からない。14日にソフトバンクが競り勝って幕を開けた今季のCSは、はたしてどんな結末が待っているだろうか。

(野球評論家)

球場が呼んでいる(田尾安志)をMyニュースでまとめ読み
フォローする

保存
共有
印刷
その他

プロ野球のコラム

ドラフト会議

電子版トップスポーツトップ

球場が呼んでいる(田尾安志) 一覧

フォローする
7日のオリックス戦で右越えに逆転3ランを放つ藤原=共同共同

 プロ野球のレギュラーシーズン終盤の定番に、タイトルを意識した選手起用がある。今季も、打率がリーグトップの選手の成績が落ちないよう打席に立たせなかったり、逆に本塁打王を争う選手には打席が多く回るよう1 …続き (11/15)

シャイニー薊さん(左)の指導の下、ダイエット企画に取り組んでいる(田尾安志さんの公式ユーチューブ「TAO CHANNEL」より)

 ボディービルダーで、数々の大会で優勝した経験を持つシャイニー薊(あざみ)さんの指導を受け、「あいのりダイエット」という企画に取り組んでいる。9月中旬からの2カ月間で体脂肪率を20%から15%に落とす …続き (10/11)

完封で5試合連続完投勝利を果たした中日・大野雄(1日)=共同共同


 中日の大野雄大が9月1日の広島戦で5試合連続完投勝利をマークした。先発、中継ぎ、抑えの分業制が定着し、一度も完投せずにシーズンを終える先発投手も珍しくなくなった中、これだけの試合を誰の救援も仰がず一 …続き (9/6)

ハイライト・スポーツ

[PR]