/

株式投資の強い味方 「レシオ」を学ぼう

レシオは過熱感や投資家心理を測るのに重宝する

投資の世界にはさまざまなレシオ(割合)が存在する。上手に使えば市場や景気の「体温」を把握しやすくなり、投資判断の有力なツールになる。主なレシオの特徴や使い方をまとめた。

騰落レシオ=市場全体の過熱感を判断

10月末に2万2977円だった日経平均株価は11月に入って騰勢を強め、2週間後の13日に2万5385円まで約2400円上昇した。急ピッチの上昇で、市場では「短期的な過熱感が出ている」といった声が聞かれるようになった。

この「短期的な過熱感」が市場全体に広がっているかどうかを測る指標が騰落レシオだ。騰落レシオは市場の値上がり銘柄数を値下がり銘柄数で割って算出し、100をかけてパーセントで示す。値上がりと値下がりの数が同じなら、同レシオは100%になる。値上がり・値下がり銘柄数は日々の変動が大きいので、5日や25日の平均値を使うことが多い。

一般に120%以上だと「買われすぎ」、80%を下回ると「売られすぎ」とされる。実際、日経平均がおおむね2万3000~2万3500円のボックス圏で推移してきた今年8月以降は、東証1部の騰落レシオ(25日移動平均)も80~120%近辺で推移してきた。

直近の騰落レシオはどうなっているか。日経平均が29年ぶりの高値を上回った5日時点の同レシオは91%。前日に比べ9ポイント高くなったが、買われすぎの水準である120%には程遠かった。終値ベースで2万5000円台に乗せた11日時点でも同レシオは96%と、過熱サインは点灯しなかった。

もっとも、相場が急騰・急落しているときには、割高・割安サインが点灯してもしばらく上昇・下落を続けることがある。例えばコロナショックの起こった3月には、騰落レシオは40%まで下がる場面があった。株価指数が一部の銘柄の急伸・急落によって大きく動いた場合なども、騰落レシオが効かないことがある。

プット・コール・レシオ=強気・弱気の心理表す

市場心理が強気か弱気かを測る指標もある。プット・コール・レシオ(PCR)だ。

オプション市場で取引されるコールオプション(買う権利)やプットオプション(売る権利)の建玉(未決済残高)から算出する。具体的にはプットの建玉残高をコールの建玉残で割って求める。強気な投資家が多いとコールの建玉が増えるため、PCRは低下する。逆に、弱気派が増えるとプットの建玉が増え、PCRは上昇する。日本では日経平均を対象としたオプションを基に算出した値がよく使われる。

経験則では、PCRがそれまでとは反対に動き始めると相場の転換点が近いとされる。

例えば、PCRが今年最も高かったのは2月13日の2.09で、この日を境に低下し始めた。この日の日経平均は2万3827円だったが程なくして下げ基調に転じ、3月9日には2万円を割り込んだ。その後も日経平均はほぼ一本調子で下落し、3月19日には1万6552円と今年の安値を付けている。PCRの低下は弱気派の減少を示すが、株価は逆に下げ基調になった。

一方、PCRが今年最も低かったのは4月8日と9日の1.70。PCRはここから6月中旬に頭打ちになるまで上がり続けたが、日経平均もこの間に1万9000円台から2万3000円台まで戻している。

今年は新型コロナの影響で3月に株価が急落し、その後に急回復した。PCRに注目していれば、その兆候を嗅ぎ取ることができた可能性が高い。

直近では10月14日を底として上昇傾向だったPCRが、11月10日の1.90をピークに下落した。地合い転換のサインなのか、注目すべきかもしれない。

CAPEレシオ=景気循環の影響を調整

基本的な投資尺度は? と聞かれたら、PER(株価収益率)と答える人が多いのではないだろうか。株価を1株あたり利益で割って算出するPERは、割高・割安を測る指標として最も代表的だ。だが、企業の利益は振れ幅が大きいため、単年という短い期間の業績を基に算出するPERも異常値が出やすい。

CAPEレシオはPERのこの欠点を補うことのできる指標だ。過去10年間の平均利益に物価変動を加味した値を使って計算するため、長期的な視点で割高か割安かを判断するのに適している。ノーベル経済学賞を受賞した米国の経済学者、ロバート・シラー氏が考案した。Cyclically Adjusted Price Earnings Ratioの名が示すとおり、景気循環の影響を調整したPERと見なすこともできる。

CAPEレシオは一般に、25倍を超えると割高、15倍を下回ると割安だとされる。例えば、リーマン・ショックが起こった前年の2007年には、同レシオは25倍を上回る状態が続いていた。

ただ、25倍を超えたらすぐに相場が崩れるわけではない。1999~2000年にかけてのIT(情報技術)バブル時に同レシオは44倍台まで上昇したが、25倍を恒常的に上回るようになったのは1996年あたりから。割高とされるサインを発してからバブルが崩壊するまで約4年の歳月を要したことになる。

逆に、リーマン・ショック後の09年3月には同レシオが13倍台まで低下した。S&P500指数もほぼ同時期に安値を付け、切り返している。

CAPEレシオの直近の動向はどうだろうか。月次ベースで同レシオが最も低くなったのは、株式市場がコロナショックに見舞われた今年3月の24.8倍。16年3月から一貫して25倍を上回っていたが、4年ぶりに割高とされる水準を下回った。直近では30倍程度まで再び上昇している。

日本株はどうか。ニッセイ基礎研究所が簡易的に算出した東証株価指数(TOPIX)ベースのCAPEレシオを見ると、総じて米国株より高めの値になっている。ITバブル期は80倍を超え、リーマン・ショックのときも15倍を下回ることはなかった。株式の持ち合いなどで株価水準がかさ上げされていたことなどが影響していたとみられる。ただ、足元の同レシオは20倍台と米国株を下回る。ニッセイ基礎研の井出真吾チーフ株式ストラテジストは「リーマン危機以降にようやくバブル経済崩壊の清算などが終わり、日本のCAPEレシオも国際比較が可能な指標になった」と分析している。

銅金レシオ=世界景気の先行きを占う

市場だけでなく、景気の体温を測るにも、レシオが役に立つ。銅と金という、代表的な商品価格を使った「銅金レシオ」はその代表例だ。銅価格を金価格で割って算出し、上昇すると景気の回復、下落は景気の縮小を表すとされている。経済協力開発機構(OECD)の景気先行指数と合わせてみると、おおむね連動する姿がみてとれる。

銅は幅広い産業で使われるため、需要動向は世界の経済状態を映し出す。その価格は「ドクターカッパー」とも呼ばれ、景気の回復局面で上昇しやすい。一方、安全資産とされる金は、景気のいいときには売られ、価格が下落しやすいとされる。景気の減速局面では逆の値動きになる。

銅価格だけでも景気の状態を推し量ることができる。だが、銅価格は鉱山のストなどの供給障害でも価格が動きやすい。金の価格を加味した銅金レシオでは、こうした「ノイズ」の影響をある程度抑えられるとされる。

実際の動きを見ると、2019年末に4近辺だった銅金レシオは中国で原因不明のウイルス性肺炎による集団感染が発生したと報じられると、20年1月末に3.5台まで低下した。世界各地で都市封鎖や外出禁止が実施され経済活動が急減速すると、レシオは3月に下げ足を速め、4月末に3近辺まで下落した。OECDに加盟する先進国と中国の景気先行指数も、銅金レシオと連動するように下落している。

足元の銅金レシオは3.5程度と若干持ち直したが、ここ数年よりも低い水準にある。中国がいち早く経済活動を正常化させたことで銅価格はコロナ禍前の水準を回復したが、金価格は引き続き高値圏で推移しているためだ。

ニッセイ基礎研究所の上野剛志上席エコノミストは「主要な中央銀行が未曽有の大規模な金融緩和をしなければならないほど、経済が悪化している。景気の先行きへの不透明感が拭えず金価格が高値圏での推移を続けることが、レシオが低水準にとどまる要因になっている」と分析する。

新規受注・在庫レシオ=中国の景況感が反映

新型コロナウイルスによる経済停滞からいち早く抜け出した中国。世界景気の先行きを判断する際、重要なのは言うまでもない。マーケット・リスク・アドバイザリーの新村直弘代表がその状況を把握するのに利用しているのが、中国の製造業購買担当者景気指数(PMI)をもとに算出する「新規受注・在庫レシオ」だ。

レシオはPMIを構成する新規受注を在庫で割って求める。数値が上がる局面では需給が引き締まる傾向にあることを示す。言い換えれば、需要が増えて生産が追いつかない、または在庫が取り崩されている状況だ。

在庫を完成品と原材料に分けると、より詳細に分析できる。

7月の上昇率をみると「新規受注・完成品在庫レシオ」が「原材料在庫レシオ」を上回った。完成品需給がタイトなことを示す。その後に生産活動が活発になって原材料在庫が減り、企業が新たに非鉄金属の購入に動くと予想できる。これは相場上昇要因だ。実際に、ロンドン金属取引所(LME)に上場する非鉄金属価格で構成するLMEインデックスは、新規受注・在庫レシオの後を追うように上昇した。

10月は完成品在庫レシオが大きく跳ね上がったのに対し、原材料在庫レシオの上げは鈍い。今後、原材料在庫が取り崩されることが予想され、非鉄の調達が増える可能性がある。

幅広い産業分野に使われる銅の相場は世界経済を映し「ドクター・カッパー」とも呼ばれる。マーケット・リスク・アドバイザリーの新村氏は「このレシオはドクター・カッパーよりも先を見ている指標」と評価する。

(本脇賢尚、飛田雅則)

[日経ヴェリタス2020年11月15日号に全文掲載]

初割ですべての記事が読み放題
今なら2カ月無料!

日経ヴェリタス

経済・マーケットの今を深く知る。資産運用ビギナーから投資のプロまで、投資にかかわるすべての方に「確かなモノサシ」となる情報を発信します。

日経ヴェリタス

経済・マーケットの今を深く知る。資産運用ビギナーから投資のプロまで、投資にかかわるすべての方に「確かなモノサシ」となる情報を発信します。

日経ヴェリタス

経済・マーケットの今を深く知る。資産運用ビギナーから投資のプロまで、投資にかかわるすべての方に「確かなモノサシ」となる情報を発信します。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン