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日本株の評価高める3つの「安」 本格上昇はこれからか

エミン・ユルマズの未来観測

混迷を深める世界経済や国際秩序。時代の先を読み解くヒントを、トルコ出身のエコノミスト、エミン・ユルマズ氏が独自の視点から解説します。

米大統領通過も拭えぬ先行き不透明感

市場関係者が警戒していた米大統領選挙がひとまず終わりました。民主党のバイデン氏の勝利宣言を好感し世界同時株高となっていますが、トランプ米大統領が不正投票を訴え法廷闘争に走る中、政局が混乱する可能性はまだ残っています。

政治的な不透明要因は米国以外にも山積しています。米中対立はどちらが大統領になったとしても続くでしょうし、英国の欧州連合(EU)離脱に伴う通商交渉は依然予断を許さない状況です。欧米やインドなど新興国での新型コロナウイルスの感染拡大は止まらず、アルメニアとアゼルバイジャンの紛争に代表されるように、周辺国の政情も不安定さを増してきました。大統領選後に日米の株式相場は上昇しましたが、急落する懸念が消えたわけではありません。

そうした中、日本株の存在感はさらに高まるとみています。菅義偉政権による構造改革への期待はもちろんありますが、日本の政治・社会が主要国で際立った安定性を持っているという点も見過ごせません。世界が不安定化する中、海外投資家が日本に注目する素地は整ってきました。

世界秩序が揺らぐ中で際立つ「日本の強み」

本題に入る前に、あるドラマを紹介しましょう。米ネットフリックスが配信する人気ドラマシリーズ「コブラ会」です。これは空手をテーマとした1980年代前半の映画、「ベスト・キッド」の正統な続編で、人間ドラマの深さが評判になっています。

80年代前半というと、日本がバブル景気直前で急成長の兆しが見え始めていた時期です。再び空手をテーマにしたドラマが米国でヒットしているという現象は、私には決して偶然とは思えません。日本に対する注目が米国社会で高まりつつある表れ、というと言い過ぎでしょうか。

米国政治は米大統領選を通過しても依然不安定で、かつ暴力を伴うデモの発生や治安の悪化で安全でもなくなっています。新型コロナの感染収束もまだ見えておらず、安心でもありません。

エコノミストのエミン・ユルマズ氏

日本は逆です。政権支持率は高く安定しており、治安は世界最高水準を保っています。新型コロナへの対応も先進国では最も成功した部類で、安心して生活ができる国と言えます。欧米各国が失いつつある、この「安定」「安全」「安心」という「3安」こそ、日本の最大の強みであり魅力なのです。

米著名投資家のウォーレン・バフェット氏が日本の商社株を買ったというのは象徴的です。コロナ禍で世界が不安定化する中、安心して投資できる市場はどんどん限定されてきています。リスク要因が比較的少ない投資先として、日本株が選好されるのは自然な流れと言えるでしょう。バフェット氏の日本株買いは、その先駆けでもあるのです。

ESG投資の活発化は日本株の追い風に

日本株の上昇局面が来るのはこれからです。「日本株以外に買うものがない」という消極的な動機以外にも、海外勢が日本株に注目する2つの理由があるためです。

まず米中対立の存在です。政権交代に伴い対中制裁関税を取り下げるなどの動きはあるかもしれませんが、米中の覇権を巡る争いは確実に続くでしょう。こうしたリスクが残る中で、ここ10年の世界をけん引した中国企業の成長は鈍化せざるを得ません。

これは取りも直さず、中国主導の経済発展の終わりを意味します。環境や人権を犠牲にすることで中国は短期間に急激な発展を遂げましたが、米中対立の中でそれはもはや不可能となります。

中国の成長を前提とした成長(グロース)株の伸びも止まるでしょう。そうなった時に起きるのは、グロースから割安(バリュー)株に資金をシフトする動きです。この中で、海外投資家は割安なまま放置されている日本市場に目を向けやすくなるでしょう。

環境や社会問題、企業統治に対する取り組みを重視する「ESG投資」の活発化も一つの理由です。中国が軽視してきた環境や人権を重視する流れは、米中対立の中ではもはや不可逆的です。バイデン氏が大統領となるなら、新政権は大規模な環境投資を行う方針のため、ESG投資に追い風が吹くでしょう。その場合、環境問題への対応など、もともとESGに親和的な企業文化を持つ日本に注目が集まっても不思議ではありません。

海外勢の買いはまだ本格的には入っていないようです。日本の新興市場は活況ですが、時価総額が小さい企業が多い新興市場には海外の大手機関投資家は手が出せません。ただ、新興市場の活況はコロナ禍からの業績回復を反映したものでもあります。遅れて大型の主力株の業績改善が確認されれば、前述の理由もあり、海外投資家が満を持して日本株を買いにくる可能性は十分あります。

その点で、2020年4~9月期決算発表後の相場には注目です。市場のコンセンサスでは、大企業の業績回復が本格化するのは21年3月期とみられています。ただ、4~9月期決算でV字回復の兆しが見えるようなら、海外投資家は割安でESGへの親和性が強い日本株をいち早く買うでしょう。年末に日本株が一段高となるシナリオは描きやすくなっています。

ポイントは、この場合の株高は一時的なものではないという点です。米中対立やESGへの流れ、そして日本が持つ「3安」という強みは当面続く公算が大きいものです。1980年代のような「日本の時代」が再び到来する、と私はみています。

エミン・ユルマズ
トルコ出身。16歳で国際生物学オリンピックで優勝した後、奨学金で日本に留学。留学後わずか1年で、日本語で東京大学を受験し合格。卒業後は野村証券でM&A関連業務などに従事。2016年から複眼経済塾の取締役。ポーカープレーヤーとしての顔も持つ。

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