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毎年赤字でもIPO、米で「空箱」通じた上場に脚光

CBINSIGHTS
米国の新規株式公開(IPO)市場で、特別買収目的会社(SPAC)を通じて上場する手法が脚光を浴びている。SPACとは自らは事業を営まず、非上場会社を買収することのみを目的に株式公開する「空箱」企業を指す。空箱が株式公開後に有望な新興企業を買収。買収された企業が事業主体となり、上場企業となる。新興企業は投資家の厳しい目を避けて「上場」できる。この手法での上場計画を発表した米不動産テック企業を例に、同社にとっての意味や業界への影響を分析した。
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

米不動産テックのオープンドア(Opendoor)は9月、SPACを通じて上場する計画を発表した。企業価値48億ドルの同社は投資家のチャマス・パリハピティヤ氏が設立したSPAC「ソーシャル・キャピタル・ヘドソフィア・ホールディングス2」との統合を通じて上場する。

オープンドアはこれにより、ソーシャル・キャピタルの信託勘定から4億1400万ドル、既存株主と新規投資家による私募増資の引き受け(パイプス)で6億ドルの計10億ドル以上の資金を得る。同社は黒字化を果たすのはかなり先だとしているが、SPACを活用しての上場は事業拡大計画を達成するカギとなる。

今回のリポートでは、この統合がオープンドアにとってどんな意味があるのか、これがなぜ不動産業界全体にとって重要なのかについて分析する。

主なポイント

・SPACは新たな「直接上場(上場時に新株を発行せず、既存の株式だけを上場する方法)」だ。2020年に入ってからのSPACによる資金調達件数は164件、調達額は計540億ドルと既に19年通年の2倍以上に上り、過去最高に達している。英実業家のリチャード・ブランソン氏や米著名投資家のリード・ホフマン氏、ソフトバンクグループ、米投資ファンドのアポロ・グローバル・マネジメントやAEAインベスターズなどによるSPACの新設も相次いでいる。

・SPACは、物件をオンラインで買い取って再販する不動産テック企業を指す「アイバイヤー(iBuyer)」を、一般投資家の厳しい視線から守ってくれる。SPACは厳しい目でみられやすい資本集約型ビジネスモデルのアイバイヤー企業に、事業拡大と公開市場へのデビューを無事果たせる適度な資金と保護を提供してくれる。

・オープンドアは野心的な事業拡大計画を進めている。同社はアイバイヤー企業で初めてユニコーン(企業価値が10億ドルを超える未上場企業)になった。現在は米21都市で事業を展開しており、20年1~3月期時点での市場シェアは2%、売上高は年率換算で50億ドルだ。新たな戦略によると、将来100都市に事業を拡大する計画を掲げており、その場合にはシェアは4%、年間売上高は500億ドルになる。

なぜこれが重要なのか

オープンドアによるSPACを活用した上場の発表は、驚きを持って受け止められた。米サンフランシスコに拠点を置く同社は15年以降、毎年最終赤字を計上しているからだ。同社が米証券取引委員会(SEC)に提出した最新の資料では19~20年にかけて最終赤字額がやや減少したことが示されているが、近い将来の黒字化は保証できないと明言している。

年間売上高500億ドルも、19年の実績が47億ドルだった同社にとっては大胆な目標だ。同社の最大の市場はフェニックスとアトランタで、年間売上高はそれぞれ10億ドル、6億6400万ドルにすぎない。目標の500億ドルを達成するには、フェニックスのような市場50カ所か、アトランタのような市場100カ所でシェア4%以上を確保する必要がある。つまり同社はもっと多くの市場で物件を買い取らなくてはならず、当面は多額の赤字を計上し続ける可能性が高い。

それでもオープンドアの今回の上場は有望な作戦といえる。同社は現在、米アイバイイング(オンラインでの買い取り再販)市場で最大のシェアを握っており、不動産移転登記やエスクロー(第三者寄託)、融資などのサービスに着手したばかりだ。SPACを通じた上場で得た資金でこうした新事業を支え、住宅の改修や維持管理、保証サービスなどにも乗り出す可能性がある。仲介手数料が下がり、物件の在庫が増えていることを踏まえると、SPACを通じた上場はオープンドアにとって成長の大きな原資となる。

現在の不動産市場では他のアイバイヤー企業も成長する余地が大きい。米国の住宅用不動産の市場規模は1兆6000億ドルで、年間500万軒の住宅が売却されている。技術革新によるディスラプション(創造的破壊)の影響をまだ受けていない米最大の市場であり、オンライン取引は購入物件全体の1%にとどまる。

不動産のデジタルトランスフォーメーション(DX)はまだ初期段階 (出所:オープンドア)

あらゆる住宅売買の頼りになるアイバイヤー企業になる大きな市場機会はあるが、この分野はなお混戦状態で、成熟にはほど遠い。上場申請はおろか、事業拡大を推進する十分な資金さえ調達できないアイバイヤー企業が大部分だ。

SPACは多額の資金を注入し、投資家の厳しい視線や株式市場の激しい値動きから守ってくれるため、理論上はアイバイヤー企業に成長と上場を果たせる便利で迅速な手段をもたらす。オープンドアの未来についてはなお予測できないが、明らかな点が一つある。SPACを活用した上場が成功すれば、SPACブームに乗じて上場や急成長を果たそうと続くアイバイヤー企業が増えるだろう。

競合他社の動向

オープンドアの2大ライバルは米ジロー(Zillow)と米レッドフィン(Redfin)だ。ともにもともとは不動産販売・仲介プラットフォームで、ネット買い取り再販への参入は競争力を維持するための戦略的な動きだった。背景にはアイバイヤー企業の勢いが増し、従来の販売・仲介プラットフォームの存続を脅かすようになったことがある。

・ジロー(Zillow)

ジローは18年に「ジロー・オファーズ」を設立し、アイバイイング市場に参入した。オープンドアと同様に、ジローの売上高もこの分野に参入して以降増え、19年には27億ドルと2倍以上に達した。コストが毎月数百万ドルかかるため、赤字も膨らんでいる。

ジローはこの事業に引き続き力を入れている。8月にはさらに4都市にサービスを拡大し、3Dの物件内見や査定に対応した仮想現実(VR)ツールを導入すると発表した。9月にはフロリダ州ジャクソンビルでもサービスを開始し、米国でのネットワークは計25都市になった。

・レッドフィン(Redfin)

80以上の都市で展開しているレッドフィンは17年、アイバイイング部門「レッドフィン・ナウ」を設立した。レッドフィン・ナウは現在10都市でサービスを提供しており、オープンドアやジローよりも市場シェアは低い。19年10~12月期の売上高は9900万ドルで、レッドフィン本体の売上高2億2300万ドルの42%を占めた。

レッドフィンは19年までは、アイバイイングに対してはジローやオープンドアよりも慎重な姿勢をとり、事業の性急な拡大には二の足を踏んでいた。だが、レッドフィンのグレン・ケルマン最高経営責任者(CEO)は今年2月の決算発表で、この分野は需要が高く、在庫水準も低いため、もっと積極的に打って出る方針を示した。

スタートアップの動向

・オファーパッド(Offerpad)

▽累積調達額(公表ベース):9億7500万ドル
▽主な投資家:米LLファンズ、米シティグループ
 オファーパッドは売り手にすぐに買い取り金額を提示し、現金で買い取るサービスを提供している。買い取り金額は24時間以内に提示され、売り手は売買契約などの手続き完了日を自分で選び、近隣地域への引っ越し代を負担してもらえる。同社は確実に売却し、売り手が取引の主導権を握れるようにすることで、住宅売却プロセスをもっと楽にしようとしている。

・ノック(Knock)

▽累積調達額:4億3250万ドル
▽主な投資家:米RREベンチャーズ、米FJラブズ、米コラゾン・キャピタル、米WTI、米ファウンドリー・グループ、米コレレーション・ベンチャーズ、米グレート・オークス・ベンチャー・キャピタル、米グレイクロフト、米レッドポイント・ベンチャーズ
 ノックは住宅買い替え方法を柔軟にすることで、アイバイイングに新風を吹き込んでいる。同社は住宅の売却を考えている顧客に6カ月以内の売却を保証するか、市場価格で物件を買い取る。顧客は最終的には同社の「ホームスワップ」制度を使い、今の家を売る前に新しい家を購入できる。

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