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「インチキ」覆した魚群探知機 古野電気、世界初の心意気

時を刻む

古野電気が開発した世界初の魚群探知機(兵庫県西宮市)

戦前の1936年に433万トンあった漁獲量は終戦の45年に182万トンまで激減した。戦時中に多くの漁船が徴用され、戦後はGHQ(連合国軍総司令部)の出漁規制と燃料不足に直撃されたからだ。だが国民は動物性タンパク質を渇望していた。「漁業は成長産業になる」と見抜いた古野電気の創業者・古野清孝氏は45年、世界初の「魚群探知機」開発に着手した。

島原半島の口之津(長崎県南島原市)で漁船の電気工事を請け負っていた清孝氏は、旧海軍が放出した超音波式音響測深機を使い海中の魚を探そうと思い立つ。「水分の多い魚は超音波を反射しない」というのが当時の定説だった。だが43年ごろにベテラン漁師から「泡が出ている箇所の下に魚は必ずいる」と聞き出していた清孝氏は「気泡なら超音波を反射する」と考えた。

47年4月、初の実地試験が始まった。魚探は魚群を捉えたがエンジンやスクリューの雑音が邪魔し、漁獲には至らなかった。48年5月、雑音除去機能を高めた改良型魚探と清孝氏の実弟、清賢氏を乗せた漁船「長生丸」が出港した。清賢氏は魚探が記録紙に描くモヤモヤとした影に気付く。「こんな所に魚などいない」と渋る漁師を説き伏せ、集魚灯をともすとイワシの大群が海面を突き上げるように現れた。

輸出にらみ兵庫に本社移転

だが後が続かない。魚探を見た清賢氏が「イワシだ」と言い、網を入れるとクラゲの群れが揚がった。怒った漁師は清賢氏を海に放り込んだ。「タンチキはインチキ」と言われ、返品の山を築いた。

古野清賢氏には月給100万円でスカウトの声がかかった

岩瀬浦(同新上五島町)の船主・桝田富一郎氏だけが理解を示し、魚探の感度を上げるため船底に穴を開けて取り付ける作業も許した。桝田氏の漁船「桝富丸」は岩瀬浦で漁獲高が最低の「どん尻船」。桝田氏は古野兄弟と組み、背水の陣で臨んだ。49年5月、清賢氏の指示で桝富丸が網を打った。記録的大漁に船がアジやイワシであふれた。

連日、大漁旗をはためかせて帰港する桝富丸は岩瀬浦のトップに躍り出た。ひと晩で600万円稼いだこともある。1台60万円の魚探を求め、船主たちが長崎市の古野電気工業所(古野電気の前身)前に行列した。清賢氏を「月給100万円で船頭に迎えたい」という申し出まであった。

清孝氏は55年3月に「世界のフルノを目指す」と宣言、同年8月に古野電気を設立した。60年に欧米11カ国を視察すると「大したことはない」と述べた。娘婿の古野幸男社長は「義父は自信を深めて帰国した」と語る。64年には本社を長崎市から兵庫県西宮市に移した。神戸港に近く、輸出に向いていたからだ。

古野電気の小型レーダーを搭載したレジャーボート

52年に漁業用の小型無線機を製品化した。複数の無線局が発する電波の到着時間から位置を特定する軍用の「ロラン受信機」も小型化した。57年に英国製レーダーの保守点検を請け負った古野電気は翌58年、漁船向け小型レーダーの開発に取り組む。重さ60~70キロのアンテナを18キロに軽量化した1号機が62年に完成した。最初はOEM(相手先ブランドによる生産)で輸出していたが、代理店を買収、自社ブランド「FURUNO」に切り替えた。

舶用電子機器で世界シェア15%

漁船の上でくるくる回るアンテナを見たクルーザー船主が「あれは何だ」と尋ねた。漁師が「夜でも霧でも安全に航海できる小型レーダーだ」と教えると、瞬く間に普及した。「イタリア製の機械と勘違いしたクルーザー船主たちはFURUNOを『ファルーノ』と発音した」と小池宗之専務は笑う。

カツオ漁では船員が双眼鏡で海面近くを舞うカツオドリを探す。その下に小魚が、さらにその下にカツオがいるからだ。レーダーの応用で海鳥を探す「海鳥探知機」を86年に発売すると大ヒットした。

魚探から潮流計、全地球測位システム(GPS)などに領域を広げた古野電気は世界80カ国以上に販売拠点を構え、舶用電子機器市場で世界シェア15%を占める。清孝氏が育んだ探知機は"インチキ"ではなかった。(編集委員 竹田忍)

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