Apple、Intelとの協業に幕 新型Macに独自半導体

【シリコンバレー=白石武志】米アップルは10日、自社設計した半導体を初搭載したパソコン「Mac」3機種を発表した。今後2年かけて全機種の半導体を米インテル製から自社設計品に切り替える。人工知能(AI)を使った画像・音声認識サービスの普及や、半導体業界で進む水平分業の動きが、約15年続いた両社の協業に終止符を打った。
「大きな前進は大胆な変更で」
「大きな前進は、大胆な変更を行うことでしか達成できない」。アップルが10日にオンラインで開いた2020年最後となる新製品発表会。ティム・クック最高経営責任者(CEO)は自社で設計したMac用半導体「M1」に全面移行する意気込みをこう表現した。
アップルはスマートフォン「iPhone」やタブレット端末「iPad」の半導体については約10年前から英アームから設計図などのライセンスを受けて自社で設計してきた。Mac向けの半導体もインテルからアームの仕様に切り替えることで、約200万種類あるとされるiPhoneのアプリがMac上でも動作するようになる。
ただ、半導体の設計仕様を変更すれば、従来のアプリは使えなくなる。このためアップルは12日(米国時間)に配信を始めるMac向けの最新基本ソフト(OS)「Big Sur」に従来のアプリも動作させる機能を組み込み、既存の利用者がスムーズに最新機種に買い替えられるよう配慮した。
構造変化が続く半導体
アップルがリスクをとって06年から続くインテルとの関係を打ち切った背景には、半導体業界で進む構造的な変化も大きく影響した。機械学習などAIの処理に適した半導体の普及と、「ファウンドリー」と呼ばれる受託製造会社の台頭だ。
インテルは高性能のCPU(中央演算処理装置)を武器にパソコン市場で一時代を築いたが、CPUは膨大な計算が求められる機械学習は苦手とされる。代わって重視されるようになったのが、大量のデータの並列処理を得意とする「GPU」などのAI半導体だ。
CPUが汎用的な技術であるのに対し、AI半導体は各社のサービスにあわせたカスタマイズを求められるケースが多い。アップルがMac向けに設計したM1でも、自社の音声認識技術「Siri(シリ)」などに最適化した「ニューラルエンジン」と呼ぶAI半導体を搭載している。
アップルは自社で設計したM1の生産については、台湾積体電路製造(TSMC)に委託したとみられている。設計から生産まで手掛けるインテルが近年、半導体の性能を左右する微細化競争でライバルに遅れる一方、生産受託専業のTSMCは強固な財務基盤を生かして投資競争の先頭を走るようになっていたためだ。
コロナ下、販売は過去最高ペース
新型コロナウイルスに伴う在宅勤務や遠隔学習の広がりに伴い、Macの販売は20年に入って過去最高のペースとなっている。「購入者の50%以上は初めてMacを買う人々だ」(クックCEO)といい、20年7~9月期のMacの売上高は90億3200万ドルと前年同期に比べ29%増えた。
それでもパソコン市場全体におけるMacのシェアは8%台にとどまり、14%前後のiPhoneに比べると見劣りする。中国のレノボ・グループと米HP、米デルのパソコン3強の平均単価が600ドル~800ドル台であるのに対し、高級感を強みとするMacは1400ドル台と突出して高いためだ。
iPhone向け半導体で培ったノウハウをMacでも活用し開発費を抑えることによって、米JPモルガンはこれまで1台当たり150ドルしていたMacの半導体の平均コストが75ドルに半減すると予想する。アップルにとっては収益性が高まると同時に、値下げの余地が広がる。実際、10日に発表したデスクトップ型の「Mac mini」については価格を従来よりも100ドル下げて699ドルからとした。
IT大手の存在感高まる
スマホなどモバイル機器向けの半導体で普及したアームの設計図がパソコン向けなどにも幅広く使われ始め、半導体設計の参入障壁は下がっている。アップルに続き、米グーグルもスマホ「ピクセル」やノートパソコン「クロームブック」について、半導体の自社設計に乗り出していると報じられている。
一方、インテルは19年には高速通信規格「5G」に対応するスマートフォン向け通信半導体の開発に行き詰まった。同社から約10億ドルで同部門を買収したアップルは米クアルコム依存からの脱却を目指し、今も次世代通信半導体の設計開発を続けている。専業大手の優位が長く続いた半導体分野でも、10億人規模のユーザーと豊富な資金力を持つIT(情報技術)大手が存在感を高めつつある。
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