バー文化醸す 奈良の互助 金子道人さん
関西のミカタ ランプバーオーナー

■奈良市中心部で「ランプバー」を経営するオーナーの金子道人さん(39)は、酒類世界大手のディアジオが主催し、世界2万人が予選に参加し54カ国から代表が集まったバーテンダーの世界大会「ワールドクラス2015」で優勝した経歴を持つ。古都・奈良の歴史や魅力をカクテル作りや審査員への接客を通じて発信することを意識したという。
2015年の南アフリカ大会、最終選考に残った6人に与えられた課題は、白いバーカウンターがあるだけのブースに24時間後にオリジナルのバーをオープンして審査員にカクテルを提供するというものだった。
南アの都市ケープタウンは好天の日が多く、映画撮影に適した場所。撮影に使われるテーブルや椅子をコンペのために街で借りてきたり、日本から持参した古いトランクを装飾に使ったりしたが、審査員にはどんなカクテルを出そうか。私が提供したのは、奈良産のヒノキを小さなボールにしてウイスキーに落とし、カクテルに使うというものだった。ヒノキの上質な香りがお酒にほんのりと移り、好評を得ることができた。
自分が日本で最も古い都市の一つである奈良から来たこと、奈良は宗教や日本酒ともゆかりのある地域であることを審査で伝えた。世界に出て分かったのは、バーテンダーにとって重要なのはお酒を作る技術だけでなく、接客を通じてお客様を楽しませること。優勝は、カクテル作りや接客を通じて自分の思いを伝えることができた結果だと思う。日本で常識だと思っていたことが世界では全く違った、ということが数多くあった。

■09年に始まったワールドクラスに、奈良から金子さんを含め3人が出場している。厳しい国内審査を勝ち抜くバーテンダーが多いのは、互いに技術を教え合い、切磋琢磨(せっさたくま)する文化が根付いているからだという。
奈良はバー文化が盛んな地域。私が20歳前後だったころはそれほどではなかったが、10年に奈良から初めて「ワールドクラス」に進出したザ・セイリングバー(桜井市)の渡辺匠さん、13年大会に出たバーピピン(奈良市)の宮崎剛志さんなど先輩方が道を切り開いた。
奈良は小さな地域ゆえにバーテンダー同士の横のつながりが強く、わからないことがあれば教え合う。開店前や閉店後など先輩たちと練習を積み重ねてきた。実績ができ、今では奈良の外からバーに足を運んでくださるお客様も増えている。
■奈良は日本酒発祥の地とされる。酒に関して古い歴史を持つ地から世界に通用するものを届けたい、という強い思いがある。
奈良発のお酒として、地元の倉本酒造(奈良市)と組み、日本酒をベースにした「ベルモット」を開発した。もともと16年にシンガポールで働く仲間の日本人バーテンダーとイベントのためにベルモットを120本限定で造ったことがきっかけだった。ベルモットは通常白ワインがベースだが、私たちのベルモット「一水氷室」は日本酒を使う。果汁から造るワインと異なり、日本酒は水を一つの原料とすることから名付けた。
奈良のヒノキやゴボウ、このほかユズやオレンジの皮などを配合し、ふくよかな土の香りや奥行きのある味が出るよう仕上げている。いま海外では日本のお酒が高く評価されている。ジャパニーズウイスキーもそうだが、クラフトジンなど様々な種類のお酒が売り出されている。まずは国内向けだが、来年には海外にも出荷したい。日本のお酒を使ってカクテルを作るときに世界中のバーテンダーに使ってもらえたらと考えている。(聞き手は杜師康佑)
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