コロナ禍の中、映画祭改革へ布石 - 日本経済新聞
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コロナ禍の中、映画祭改革へ布石

東京国際映画祭2020リポート(下)

東京国際映画祭の安藤裕康チェアマン(前国際交流基金理事長)は就任2年目の今年、改革に踏み出した。狙いは「世界の中での存在感」。コロナ禍で海外からの来場がほとんどないという逆風の中、布石は打たれた。

まず是枝裕和監督が発案したアジア交流ラウンジ。監督をはじめ映画人たちが集うスペースを日比谷の一角に確保した。感染対策のためリアルな交流はできなかったが、海外と日本の映画人をリモートで結ぶトークを連日実施。生配信した。

タイのアピチャッポン・ウィーラセタクンと富田克也・相澤虎之助による旅の話、カンボジアのリティ・パンと吉田喜重の虐殺と戦争の記憶を巡る対話は刺激的だった。

是枝は東京映画祭のあり方を以前から批判してきた。「映画作家を発見し、継続して追うのが映画祭の役割。誰を発見したかで映画祭の価値は決まる。そんな映画祭と作家の幸福な関係を、東京は三十数年たっても築けていない」。コンペ廃止などを含む提言書を5年前から歴代トップに渡してきた。受けた安藤は是枝に協力を要請した。

交流ラウンジは山形、サンセバスチャン、釜山などの国際映画祭の交流場所を念頭に置いた。成果は来年以降問われるが、改革への第一歩だ。

2つ目は東京フィルメックスの同時開催。カンヌ映画祭と並行開催の監督週間のように「独自性を確保して多様性を達成する」と安藤。フィルメックスの市山尚三ディレクターもこれに応じた。

フィルメックスのコンペは今年の主要映画祭に出たアジアの新鋭監督の作品が中心。市山の選択眼は鋭く、現代映画の最先端を示す質の高い作品が並んだ。一方、東京映画祭「プレミア2020」のアジア映画はすべて世界初上映。作風は幅広く、意外な発見がある。すみ分けはできそうだ。

同時開催の利点はゲストの相互乗り入れ。今年はリモートだったが、交流ラウンジに参加した海外の監督の多くはフィルメックスと縁が深かった。作家との関係を重視し、人材育成プログラムも手がけるフィルメックスの人脈は頼りになる。

3つ目はコンペについての問題提起。今年は国際審査員団を組めず、コンペ、アジアの未来、日本映画スプラッシュを統合し、非コンペ部門としたが、来年は未定。「今回の結果を見て、皆さんの評価を聞き、判断したい」と安藤は語る。

世界の新作を集めるがコンペはなく、観客賞だけを選ぶのは、近年オスカーの前哨戦として重みを増すトロント国際映画祭と同じ。是枝もこのトロント方式を提言する。

東京はカンヌ、ベルリンなどと並ぶ国際映画製作者連盟公認の長編コンペ映画祭。ただ同カテゴリーのベネチア、サンセバスチャンの直後の10月開催とあって、巨匠の新作など有力作はほとんど残っていない。結果的に世界で軽視されている。

21世紀に台頭したトロントと釜山は同じ秋開催だが総合コンペがなく、作品選択の幅は広い。トロントは北米プレミア、釜山はアジア特化型として独自色を出し、観客との距離が近い。商談や企画マーケットも盛んだ。「東アジア初の公認国際映画祭」が長く東京のプライドだったが、それが埋没の一因ともなった。

是枝は「格などどうでもいい。もしコンペを残すなら、何のためのコンペかという哲学をチェアマンが示すべきだ」と語る。石坂健治シニア・プログラマーは「若手にコンペは必要。コンペ作品を20本くらいに増やした上で、アジアの新鋭に重心を置くのも一つの方法ではないか」と語った。

(編集委員 古賀重樹)

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