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JAL、公募増資はANA出し抜く「攻め」の一手

日本航空は大規模な公募増資の実施に踏み切った
日経ビジネス電子版

日本航空(JAL)は公募増資などで最大約1680億円を調達する。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で航空需要は激減しており、2021年3月期の最終損益は2400億~2700億円の赤字となる見通しだが、10年の経営破綻を経たことで財務体質はANAホールディングス(HD)や海外大手と比べても突出して良好だ。その中で現在の発行済み株式数の3割に相当する大規模な増資を実施するのは、コロナ後の「制空権」を握るための攻めの一手と言えよう。

「意図がいまひとつ読めない」。こう口をそろえたのは複数の航空業界関係者だ。JALは11月6日、公募増資の実施を発表した。現在の発行済み株式3億3714万株に対して、最大1億株を新たに発行する。

意図が読めない理由は、JALの財務体質が相対的に良好だからだ。手元資金は9月末時点で3466億円あり、加えて3000億円のコミットメントラインを残している。7~9月の現金流出額は月150億~200億円程度に収まっており、当面の資金繰りに問題はない。10年の経営破綻時に大幅な債権放棄を受けたこともあり、9月末時点の有利子負債額は5011億円とANAHDの半分以下だ。自己資本比率はANAHDの32.3%に対し、JALは43.6%。増資なしで、21年3月期の最終赤字が2700億円に上っても、期末時点で30%台半ばを保つ。世界的に見てもこれだけ財務状況が良好な航空会社はごくわずかだ。

公募増資は株式の希薄化を招き、既存株主に負担を負わせることにもなる。1億株を全て発行できれば、希薄化率は22.9%となる計算だ。公募増資の発表を受け、9日のJALの株価は6日に比べ終値で約11%下落した。木藤祐一郎財務部長は「既存株主にご迷惑をおかけする可能性はある」と認める。それでも「生き残るだけでなく、さらなる成長軌道に乗せていく」(木藤氏)ための公募増資、というのがJALの考えだ。調達額のうち150億円の使い道に、その一端が垣間見られる。

JALは早期の需要回復、またコロナ禍の収束後の成長が見込めるレジャー需要を取り込むため、格安航空会社(LCC)事業を強化する方針を示してきた。そこで150億円はLCC事業に割く方針だ。50億円は完全子会社のジップエア・トーキョー(千葉県成田市)が使う航空機の改修費用に充当する。残りの100億円は50%出資するジェットスター・ジャパン(千葉県成田市)、少額を出資している春秋航空日本(千葉県成田市)への投融資に使う。木藤氏は「相手があることなので今、追加出資するかどうかなどは申し上げにくい」としながらも「今よりもより一緒に経営していくということだ。我々のLCC戦略の一翼を担ってほしい」と話す。

北米路線など国際線の中長距離路線に注力するジップエア、国内線で一定のシェアを誇るジェットスター、そして中国路線に強みを持つ春秋航空日本が組み、成田空港を拠点に相互送客しながら独自のLCCネットワークを構築していく方針だ。ジェットスターの連結子会社化なども視野に入れながら、現状はほぼゼロに近い連結売上高に占めるLCC事業の割合を引き上げていく。

何より、現時点でも相対的に強固な財務基盤をより盤石にできれば、アフターコロナで競争を優位に進められるだろう。

財務基盤を固め、アフターコロナで反転攻勢

調達資金のうち800億円は従来の主力機、米ボーイング「777」から燃費効率の高い欧州エアバス「A350」への更新費用に充てる。A350は13年に31機を発注して既に6機を導入済み。羽田-福岡間など国内幹線に投入している。全席にモニター画面やUSB電源を備える快適性を追求した機体で「日本の空を変える旅客機だ」(JALの赤坂祐二社長)。今後は国際線にも投入していく。本来は自己資金や借り入れで更新費用を賄うはずだったが、コロナ禍を受けて一部を増資で用立てすることにした。

また700億円弱は有利子負債の返済に充てる。増資によって自己資本を厚くし、調達した資金の大部分は借金を減らすか、増やさないために使うということだ。JALの木藤氏は「コロナが収まった後も財務を改善するために投資を諦めたり、削減したりすることによって、負債の削減に注力せざるを得なくなれば、ポストコロナでの成長曲線が描きにくくなり、企業価値を高めることが難しくなる。短期的には影響があるかもしれないが、ポストコロナにおける企業価値を高めて既存株主にも報いていく」と話す。コロナ禍の収束後、反転攻勢に打って出るために必要となる投資費用を借り入れや社債の発行でまかなうにも、財務状況は良いに越したことはない。「ポストコロナの航空業界をけん引するため、財務的に余裕があるうちに打てる手は打っておきたい」(木藤氏)

海外の航空大手では、独ルフトハンザが政府による出資を受け入れるなど、大規模な公的支援策の実施が相次いだ。ただこれは足かせになり得るということをJALは身をもって認識している。10年の経営破綻時、3500億円の公的資金の投入など国の支援を受けて再生したJAL。政府はその後公平な競争環境を保つべく、全日本空輸(ANA)に羽田空港の発着枠を多く割き、さらに国土交通省によるいわゆる「8.10ペーパー」でJALの投資や路線の開設を抑制した。

増資などを通じて、公的支援を受けずにコロナ禍を乗り切れれば、世界の航空市場の中でいち早く攻めに転じられる。そして破綻後、売上高で大きな差をつけられたANAHDとの競争でも優位に立ちたい――。既存株主に一時的には痛みを負ってもらうが、長期的に見れば必ず株主利益にかなうという「攻め」の姿勢がうかがえるJALの決断。市場はどういう判定を下すのか。

(日経ビジネス 高尾泰朗)

[日経ビジネス電子版 2020年11月10日の記事を再構成]

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