サッカー日本代表、中米勢との2戦で攻撃に光を
サッカージャーナリスト 大住良之

「10月の活動(対カメルーン、コートジボワール戦)で出た成果と課題を整理し、すべての面でレベルアップしたい」
パナマ(11月13日)、メキシコ(同17日)と2試合を戦うオーストリアのグラーツでのキャンプを開始するに当たって、9日、日本代表の森保一監督はこう抱負を語った。
■17日にメキシコ戦「最高の相手」
10月、オランダのユトレヒトでアフリカ勢との2試合を行い、0-0、1-0という成績だけでなく、吉田麻也(サンプドリア)と冨安健洋(ボローニャ)を中心とした堅固な守備、そしてチーム一丸で最後まで戦い抜く姿勢を見せた日本代表。今回は一転して中米勢との対戦となる。
パナマ(10月のFIFAランキング77位)、メキシコ(同11位)はともに2018年ワールドカップの出場国だ。特にメキシコはワールドカップでは1994年以来7大会連続ベスト16と、常にグループリーグを突破している強豪中の強豪。「最高の相手。個々の技術とチームとしての戦術が高く、常にクレバーに戦って勝利を目指している」と、森保監督が絶賛する相手だ。
今回の試合会場がオーストリアになったのもメキシコと対戦するためだった。本来ならユトレヒトを「第2のホーム」のようにしたほうがいろいろな面で都合が良いはずだが、オランダはメキシコからの入国にまだ制限があり、試合をするのが難しかった。そのため、会場をオーストリアに移したのだ。

「帰国後2週間の自主待機」という日本政府の検疫方針が変わらないため、今回も日本代表は「欧州組」だけの編成。しかもエースのFW大迫勇也(ブレーメン)とMF堂安律(ビーレフェルト)の2人は、所属のブンデスリーガ(ドイツ)クラブの了承が得られず、不参加となった。
一方で今回は、オランダへの入国制限の関係で前回招集できなかったMF橋本拳人とFW浅野拓磨の2人が合流した。橋本は今夏移籍したロストフ(ロシア)で見事な活躍を見せており、代表ではボランチの位置を柴崎岳(レガネス)、遠藤航(シュツットガルト)らと争う。そして浅野は、セルビアのパルチザンで攻撃の中核として活躍しており、持ち前の圧倒的なスピードと得点力は鋭さを増している。
10月には直前の体調不良で不参加となった大ベテランのDF長友佑都(マルセイユ)が参加するのも大きい。10月の2試合では左サイドバックの人選で苦労していただけに、長友の存在は攻撃面だけでなく守備面でも大きな意味をもつことになるだろう。
いったん招集が発表された堂安が不参加となった後に追加で初招集された奥川雅也(ザルツブルク=オーストリア)が、直前に所属クラブで複数人のコロナウイルス感染者が出たため参加できなくなったのは残念だった。京都サンガのユースからトップチームに昇格した直後に19歳でオーストリアのザルツブルクへ移籍、欧州での経験5年間でザルツブルクの有力なアタッカーとなった選手である。11月3日に行われた欧州チャンピオンズリーグのバイエルン・ミュンヘン戦では後半に交代出場した直後に同点ゴールを決めて大きく注目されていただけに、本人にとっても無念だろう。
■大迫と堂安が不在、攻撃面の期待は南野
カメルーンとコートジボワールを相手にした10月の2試合では、守備は良かったものの、攻撃面はいま一歩の感があった。「11カ月ぶりの日本代表活動」ということで、呼吸の合ったコンビネーションプレーが数えるほどしか出なかったのだ。「ゲームメーカー」役の柴崎が本調子でなかったことも大きい。その後、柴崎は10月25日に今季初ゴールを記録し、直近2試合を連続フル出場するなど調子を上げているようなので、今回は期待したい。

大迫と堂安を欠く今回、攻撃をけん引するのはMF南野拓実(リバプール)になる。10月の2試合では消化不良ぎみだったMF久保建英(ビリャレアル)は、新しい可能性を見せてくれるだろうか。また、10月のシリーズで破壊的なスピードで攻撃に勢いを与えた伊東純也(ゲンク)を、浅野とともに起用し、両サイドに「スピードスター」を並べるこれまでにないタイプの攻撃陣が組まれるのか――。いずれにしても、「攻撃の強化」が今回の最大のテーマとなる。
パナマもメキシコも鋭いカウンターアタックの力をもつ危険極まりないチームだが、コンビネーションを合わせるだけでなく、リスクを負って前線の人数を増やさなければ、個々のフィジカルで日本を上回る相手の守備を崩すことはできない。その意味でも、長友の参加は10月からの大きなプラス要素であると言ってよい。
■オーストリアも感染拡大「中止も覚悟」
オーストリアでは10月末に1日で5600人ものコロナウイルス感染者が出た。その結果、11月3日からは夜間の外出禁止など、「部分的なロックダウン」が始まっている。さらには、11月2日、グラーツからおよそ200キロの首都ウィーンで16人が死傷するテロが起こったばかりである。
「10月も、直前まで本当に試合ができるか不安はあった。できる限りの感染対策、準備はするが、今回も、最後まで何が起こるかわからない。最悪の場合、中止となることも覚悟している」。グラーツでのキャンプ初日、森保監督はこう語った。
こうした状況下でサッカーの国際試合ができること自体が奇跡と言っていい。選手たちはその奇跡に感謝し、それを最大限に生かしてチーム力を上げるために、再び戦い抜いてくれるだろう。そして、攻撃面で誰をもわくわくさせるような「光」を取り戻そうと、全力を尽くしてくれるに違いない。
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