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アマゾンとフューチャーの係争、インド投資の鬼門映す

アマゾンはインドへの積極投資を続ける。(2020年1月、ニューデリーの自社イベントに登壇するベゾスCEO)

米アマゾン・ドット・コムと、資本提携先であるフューチャー・グループとの係争が、インド国内司法に舞台を移して一層熱を帯びそうだ。同国への投資、事業展開において「契約執行」が大きなリスクである点を改めて国際社会に印象づける事例となりそうだ。

ことの経緯はこうだ。

アマゾンは昨年11月、フューチャーのオーナー家の持ち株会社の一つ、フューチャー・クーポンズの発行済み株式の49%を2億ドル(約207億円)超で買い取った。

それに伴ってオーナー家側と結んだ株主間契約には、オーナー家が持つ上場小売子会社のフューチャー・リテールの株式の同業他社15社への売却を禁じる条項や、紛争になった場合はシンガポール国際仲裁センターを仲裁の場とすると明記されていた。売却禁止先の15社にはインドの大手財閥で小売最大手、リライアンス・インダストリーズも含まれていた。

それにもかかわらず、新型コロナウイルス禍で債務危機に陥ったフューチャー・グループは今年8月、小売・卸売・物流事業をリライアンスに2471億ルピー(約3450億円)で売却することを決定した。

アマゾンは10月、この取引が株主間契約に違反するとしてシンガポール国際仲裁センターに取引を中止させる仲裁を提起。同センターはアマゾン側の主張を認め、取引を保留する暫定命令を出した。

これに対しフューチャー側は11月7日、シンガポールでの処分はインド国内での執行力がないとして、リライアンスへの事業売却に対するアマゾンの「介入」を禁じる処分を求める裁判をデリー高等裁判所に起こした。

常識に照らせば、フューチャーはアマゾンとの契約を無視して事業売却を強行しようとしているようにみえる。しかしフューチャー側の強硬姿勢の背景には、あらゆる解釈や技巧を駆使して契約の規定を迂回するインド企業家にありがちな行動様式がある。

フューチャーとリライアンスが合意したのは単純な企業のM&A(合併・買収)ではない。このディールではまず、フューチャー側が、中核のフューチャー・リテールを含む5つのグループ会社を合併させ、その結果できた合併新会社「フューチャー・エンタープライゼズ」が、物理的資産、雇用権、営業権、商標権などをまとめた「事業」をリライアンスに譲渡する、「スランプ・セール」と呼ばれるインド独特の事業譲渡制度を活用したスキームだった。

詳細は不明だが、もし、昨年の契約でアマゾンが確保していたはずの防衛権の対象がフューチャー・リテールという会社の株式や事業資産に限定されていたとすれば、先にグループを再編して対象会社を消滅させてから事業を売却すれば形式的に契約違反を避けられるという解釈もできなくはない。

インドのビジネス法務に詳しい西村あさひ法律事務所の鈴木多恵子弁護士は、「インド人はイノベーティブな発想で契約をとらえる。それを想定した契約の作り込みが必要」と指摘する。

シンガポールの仲裁センターは条文の文言よりも契約の実質的な趣旨を重視する英米で主流のコモンロー(自然法に基づく判例法)に基づいて保留命令を出したとみられる。インドの司法も旧宗主国の伝統をうけコモンローが基盤だ。デリー高裁が今後どのような判断を下すのか、世界の企業、投資家が注目する。

世界銀行のビジネスのしやすさランキングでインドは14年の142位から19年は63位と長足の進歩を遂げた。しかし、ランキング算出の評価項目のうち「契約の執行しやすさ」のランクは世界で163位と一向に改善していない。日本からもインドのスタートアップ企業の株式への投資がコロナ禍下でも活発だが、あらゆる事態を想定した株主間契約の精査が必須といえそうだ。

(編集委員 小柳建彦)

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