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ドラマ満載、地域の人々に愛される独立リーグ
編集委員 篠山正幸

2020/11/10 3:00
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野球好きで知られた作家、井上ひさしさんの夢の一つはプロ野球のファームに、1シーズン密着して取材することだったという。上を目指す人、先が見えてきた選手、さまざまな人生が交錯する舞台にはドラマのにおいがある。そんな物語の宝庫になりそうなチームに出会った。

参入1年目で優勝した神奈川フューチャードリームス(前列左から4人目が鈴木監督、前列右端が山下ゼネラルマネジャー)

参入1年目で優勝した神奈川フューチャードリームス(前列左から4人目が鈴木監督、前列右端が山下ゼネラルマネジャー)

それは日本プロ野球=NPB傘下のファームではなく、今年、独立リーグのルートインBCリーグに新規参入し、初優勝を飾った神奈川フューチャードリームス。

信濃グランセローズとのチャンピオンシップ決勝が行われたのはプロ野球のドラフト会議翌日の10月27日だった。

リーグ加盟12チームの王座を争うにふさわしい一戦となった。神奈川の先発左腕、乾真大(日本ハム―巨人)が、二回1死三塁のピンチを切り抜けると、信濃の剛腕、クリスチャン・クインティンも150キロを超える球威を武器に粘る。

■失意を乗り越えての決勝打

試合が動いたのは五回。無死一塁で神奈川の3番牧田龍輝が右中間を破る二塁打。この虎の子の1点を、乾が守り抜いた。

殊勲の牧田は前日、失意のどん底にあった。NPBのスカウトにも注目され、ドラフト指名に備えて待機していた。だが、名前は呼ばれなかった。それでも「来年、支配下で指名される目標がある」と切り替えて臨んだ試合だった。

完封勝利の乾はコーチ兼任で、新しいチームを支えてきたが、やはりNPBへの復帰という目標がある。この日、149キロが計測された。

完封で神奈川に優勝をもたらした乾はNPB復帰の目標がある=神奈川フューチャードリームス提供

完封で神奈川に優勝をもたらした乾はNPB復帰の目標がある=神奈川フューチャードリームス提供

「後半は頭を使わなくてはいけない場面が多くてきつかった」というものの被安打2、8奪三振、136球のほぼ完璧な内容だった。

九回、相手3番の松井聖から三振を奪うなど2死をとった。そこから4番を歩かせた。大きな当たりを打たれていたために用心したもので、制球を乱したのではない。最後は5番赤羽由紘を空振り三振に仕留めた。

疲れの極限のなか、あえて球数を費やした。これは肉体的にも精神的にもスタミナがないと、できない芸当だ。ちなみに赤羽、松井はともにヤクルトから、今ドラフトで育成選手として指名を受けている。

こうした選手らを抑え切った乾。31歳という年齢がネックかもしれないが、もう一度NPBへという希望をつなげる力投だった。

井上さんはプロ野球は親会社から離れ、もっと地域密着の方向に進んだらいいのでは、との意見も持ち、親交のあった野球評論家、豊田泰光さん(西鉄=現西武など)との対談で「巨人の2軍が『世田谷ジャイアンツ』などと名乗って活動し、若い選手を地元のみんなで応援して育てたら面白い」との思いを明かしていた。

プロ野球もその方向に進んでいるが「野球を通じて、地域と共(とも)に、地域を豊かに」を旗印としてきたBCリーグは井上さんの考えに、より近いかもしれない。

■地域の人々の琴線に触れる

コロナ禍による制約がありながらも、決勝の舞台、平塚球場には信濃のファンを含め、1017人の観客が訪れた。新チームを率いて優勝に導いた鈴木尚典監督は「(神奈川は)野球の盛んな県。(本来なら)もっとお客さんが入ってくれるはずと思う」と話した。

鈴木監督はいうまでもなく、横浜(現DeNA)が1998年に優勝した時のメンバーだ。

球場の前には「厚木B級グルメ 炭火焼きとろホルモン」の出店。地域密着が独立リーグの味だ

球場の前には「厚木B級グルメ 炭火焼きとろホルモン」の出店。地域密着が独立リーグの味だ

神奈川も強打が売りで、人呼んで「ネオマシンガン打線」。鈴木監督らが暴れまくったマシンガン打線が、ここによみがえった、というわけ。大都市横浜と神奈川県全般では必ずしもファン層が重なるわけではないだろうが、地域の人々の琴線に触れそうな材料がそろっている。

もちろん、参入1年目の神奈川がこれだけの支持を得ているのだから、草創期から頑張っている他県のチームにはさらに強い支持層ができているとみていい。

ネット裏の放送席には神奈川のゼネラルマネジャーを務める山下大輔さんがいた。横浜(当時大洋)のスターで元監督。ネットの中継で山下さんの解説が聞けるのだから、ファンにはうれしい。

山下さんに聞いた。独立リーグの魅力は?

「NPBを目指す人、ここでやり切ったといってきっぱり野球をやめる人、いろんな選手が一つになっているところかな」

井上さんが取材したいと言っていた「ファーム」はこういうチームのことではなかったのか、もしその夢がかなっていたら、どんな物語がつむがれたのだろう。優勝の歓喜の輪を眺めながら、そんな思いを抱いた。

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