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ワーケーション需要を取る 尾道で見たJR西日本の模索

アドレスの高本昌宏事業部長(左)と、JR西日本イノベーションズの奥野誠シニアディレクター(右)がタッグを組んで、広島県尾道市にコワーキングスペース付き宿泊施設を開いた
日経ビジネス電子版

コロナ禍を機に広がったテレワークで、大都市圏の通勤需要は大きく減った。だが、働くための移動需要がすべて消えたわけではない。旅行と仕事を兼ねたワーケーションによって、働く場が会社でなく地方へシフトしたケースもある。JR西日本はここに着目し、スタートアップ企業と協業を始めた。

「坂の町」として知られる広島県尾道市。JR山陽本線の尾道駅からほど近い場所にある、コワーキングスペースを備えた宿泊施設を最近訪れた。地方の空き家などを生かして自宅以外でも生活する「2拠点居住」のサブスクリプションサービスを提供するアドレス(東京・千代田)と、JR西が仕掛けた施設だ。瀬戸内海を望む景色は、ワ―ケーションにぴったりだ。

アドレスのサービスは、月額4万円(税別)で全国80カ所の「家」を自由に利用できる。高本昌宏・新規拠点開発事業部長は「観光目的で利用するというよりも、日常生活の一部を自宅以外で過ごす2拠点居住という新たなライフスタイルを提案している」と話す。

空き家や古民家を改装した施設は、キッチンやWi-Fiを完備し、自宅のように滞在でき、テレワークでの仕事も可能だ。2019年10月から正式サービスを始めたとき、会員の多くはフリーランスだった。それがコロナ禍で大きく変わった。

「テレワークで出社する必要がなくなったので自宅以外のセカンドハウスとして使いたい、とアドレスに入会する会社員が急増している。会員数は公表していないが、20年2月と比べると3倍以上になり、4割が会社員になっている」(高本氏)

JR西は働き方の変化で生まれる新たな需要を取り込もうと、コロナ禍まっただ中の3月末にアドレスへの出資を決めた。グループのベンチャーキャピタル「JR西日本イノベーションズ」(大阪市)を通じ、第三者割当増資を引き受けた。

9月、JR西はコロナ禍で利用が急減している新幹線を活用してアドレスと連携を始めた。「住まいサブスク」と銘打ち、アドレスの会員に、大阪と地方を行き来する格安の切符を提供する。例えば「岡山2往復プラン」は、山陽新幹線の新大阪~岡山間を月4回(2往復分)利用できて1万2000円(税込み)。1回当たり3000円だ。新大阪~岡山間は通常、片道6350円なので半額以下となる。

JR西はアドレスとの協業が、西日本エリアに入ってくる「関係人口」を増やすことにつながると考えている。関係人口は、移住する「定住人口」でも、観光する「交流人口」でもなく、普段住んでいるところとは別の地域の人と、地域貢献などの目的で関わる人々を指す。ワーケーションという形で関係人口が生まれれば、その分、移動の需要も出てくるという見立てだ。

尾道の施設の場合、観光目的で週末に2~3日滞在する人と、平日に4~5日滞在して昼間はテレワークを行っている人が半々だ。「アドレス全体では月2回、合計で9~13日ほど利用する会員が多い」(高本氏)

「北陸地方にもニーズ」

アドレスのサービスそのものは月4万円で何泊でも利用できて割安と評価されてきたが、会員の7割が飛行機や鉄道を利用して移動しており、コストがかさむという不満の声があるという。JR西は、移動の費用も定額にしたり、割安にしたりすることで今後も協力できる。

アドレスはJR西と組んだことでサービス提供範囲を従来の関東から関西へと広げ始めている。これまでは首都圏に住む人をターゲットに据え、東京から1時間~1時間半圏内の千葉県や神奈川県を中心に施設をオープンさせてきた。20年は大阪から1時間~1時間半で行ける地域の開拓に乗り出している。尾道はその1つ。岡山県の岡山、倉敷両市にも施設を開いている。アドレスの高本氏は「北陸地方にもニーズがありそうだ」と見ている。

JR西は経営の1つの方向性として、鉄道を軸としつつ「様々なサービスをセットで提供する必要がある」(長谷川一明社長)と考えている。トライアルとして中国地方で、新幹線やホテル、観光施設などをまとめて予約し、支払いもできる、観光型の次世代移動サービス「MaaS(マース)」である「setowa(せとわ)」を実施している。将来、このサービスの一環としてアドレスのような居住サービスを組み込んでいく可能性がある。

ワーケーションは仕事と暮らしを充実させる新しい在り方として一定の需要がありそうだが、ニッチな市場だ。それでも、人口減少によって緩やかに利用客が減っていくと想定されてきた鉄道市場の縮小はコロナ禍で加速しており、手を打たないわけにはいかない。マスを狙う大量輸送機関から、ニッチを積み重ねる大量輸送機関へ。コロナ禍は鉄道会社にそんな発想の転換も迫っている。

(日経ビジネス 佐藤嘉彦)

[日経ビジネス電子版 2020年11月6日の記事を再構成]

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