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「鬼滅の刃」仕掛け人 ソニーのアニメは三方よし戦略

グロービス経営大学院教授が「ビジネスモデル」で解説

アニメ映画「鬼滅の刃」が大ヒットしています。原作は少年誌に連載されていたマンガで、映画はソニー傘下のアニプレックスが制作しました。この映画がヒットした要因には、原作の魅力に加えて、ソニーの秀逸なアニメ戦略があります。グロービス経営大学院の金子浩明教授が「ビジネスモデル」の観点から、ソニーのアニメ事業の戦略と、鬼滅の刃のヒットとの関係を読み解きます。

【解説ポイント】
・社外の制作、配信会社と組むことでヒット作の連打目指す
・音楽、ゲーム、映画も合わせて知的財産権(IP)を活用

【関連記事】劇場版「鬼滅の刃」、ヒットの陰にソニーのアニメ戦略

世界のアニメ業界の巨人といえば、米ディズニーです。また、動画配信大手の米ネットフリックスも日本のアニメコンテンツに力を入れています。こうしたプレーヤーと、ソニーのアニメ事業の「ビジネスモデル」はどのように違うのでしょうか。

自前主義のディズニー、組み合わせのソニー

ディズニーとソニーの大きな違いは、自前主義かそうでないかの違いです。ディズニーが作るアニメと登場人物のキャラクターは、基本的に自社オリジナルです。キャラクターが有名になり、どこかの広告などで使われたら、ディズニーの収益になります。また、傘下にアニメ制作会社のピクサーを擁しています。ピクサーはトイ・ストーリーなど、世界的に有名なCGアニメーション作品を数多く生み出してきました。このように、ディズニーはほぼ自前で作品を作り上げています。その中でも、特に重要なのは原作のキャラクターを自社で作っていることです。

アニメのビジネスは実写のドラマなどと違い、人気のキャラクターを生み出すことに成功すれば、キャラクターの知的財産権(IP)で長期間収益を上げることができます。ミッキーマウスやドラえもん、ドラゴンボールをイメージすると分かりやすいと思います。ミッキーマウスの新作映画はしばらく制作されていませんが、キャラクターは収益を上げ続けています。ちなみに、アメリカでは1998年に著作権法延長法が制定され、ミッキーマウスのIPは2023年まで保護されることになりました。ミッキーマウスは90年以上も稼ぎ続けているのです。

一方のソニー(アニプレックス)は、社内外から優れた作品とクリエイターを集めて、魅力的なコンテンツを作ることを志向しています。例えば、劇場版「鬼滅の刃」無限列車編の著作権は、(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable、となっています。吾峠呼世晴は原作者、集英社は原作マンガの出版社、アニプレックスはソニーの子会社、ufotable(ユーフォーテーブル)はアニメ制作会社です。ソニーの関連企業がIPを独り占めすることなく、社外のクリエーターと組み、IPを分け合っています。

両社を比較すると、ディズニー方式の方が、1回のヒットで多く、長く稼けることが分かります。にもかかわらず、なぜソニーは自前主義を取らないのでしょうか。

日本にはマンガ・アニメの生態系

こうした戦略の背景には、日本とアメリカの「アニメ文化の広さと深さ」の違いがあります。日本のマンガ・コミック市場規模は4500億~5000億円で、北米はその1/3以下です。世界のアニメ市場規模は約2兆200億円、日本国内は約1兆1000億円と、日本は世界の半分を占めています。ただし、アニメのキャラクターグッズ販売なども含みます。日本のアニメは海外市場(2018年)において過去5年で3.5倍に拡大するなど、アニメの輸出国でもあります。

日本には、世界に類を見ないほどの多様なジャンルの漫画雑誌があります。こうした雑誌は新人を発掘し、世の中に送り出す機能を担っています。そして、日本にはオタクと言われるコアなファンもいます。業界を支えるクリエイターの層も厚いです。日本にはこうした土壌があるので、優れたマンガ作品が次々と生み出されています。そのため、日本のアニメに絞ってアニメ映画を作るならば、自前主義にこだわる必要がないのです。

さらに、外部の人気マンガを映画化した場合、キャラクターのIPは自社に残りませんが、失敗するリスクは減ります。

閉じたネットフリックスとオープンなソニー

ネットフリックスは外部の制作会社からコンテンツを導入している点で、ソニーと同じです。同社は2018~19年にかけて、日本のアニメ制作会社5社と包括提携をしました。製作資金はネットフリックスが出し、製作会社は視聴数に関係なく一定の収益を得るという形です。

しかし、この2社には大きな違いがあります。ネットフリックスが自社で独占配信するのに対し、ソニーはそうではない点です。ソニーは傘下にアニメ専門チャネルのアニマックス・ブロードキャスト・ジャパンと、米国最大の日本アニメ配信会社のファニメーションを抱えています。最近では、世界で7000万人の顧客を抱える米アニメ配信大手のクランチロールを買収する方向で最終交渉に入ったと報じられました。それにもかかわらず、なぜソニーは自社の配信プラットフォーム以外にも作品を提供するのでしょうか。

こうした違いは、ビジネスモデルの違いに起因しています。ネットフリックスの収益は、有料会員の数で決まります。良いアニメ作品をネットフリックスで独占的に供給すれば、有料会員からの離脱者は減りますし、新たにネットフリックスに加入したい人も増えます。同社はアニメのIPで稼ぐよりも、自社配信プラットフォームの有料会員を増やすことを優先していると考えられます。

仮にソニーが自社作品の供給先を自社の配信プラットフォームだけに限定してしまうと、作品を広く世界に普及させるのが難しくなります。ネットフィリックスの会員は世界で1.9億人おり、ソニー傘下のファニメーションの会員数とは比較になりません。ゆえにソニーにとって、自社が保有する配信プラットフォーム以外にもコンテンツを提供することは得策なのです。

勝ちパターンは「クリエーター・ファースト」

ソニーのアニメ事業のビジネスモデルは、国内にある優れたマンガ作品をアニメ化、映画化し、音楽を含めたコンテンツの販売で稼ぎ、それをさらにゲーム化して稼ぐというモデルです。一粒で何度もおいしい戦略、と言えるでしょう。

このビジネスモデルでは、常に良い作品・原作マンガの雑誌社と契約することが重要になります。そのためには、優れたクリエーターにソニーと契約したいと思ってもらう必要があります。ソニーがドリームチームを集めて、最高の作品を広く提供することで、原作のIPの価値が高まります。もちろん、ソニーもアニメや映画のIPでもうかります。アニメや映画が広く普及すれば、音楽もヒットしますし、ゲームがヒットする可能性が高まります。

そうなると、ますます原作のIPの価値も高まります。ヒット漫画の原作者や雑誌社にソニーと組みたいと思ってもらえば、ソニーは常に良いコンテンツと独占的に契約できることになります。そうなれば、人気マンガのパイプラインが途切れることはありません。ディズニーのように、原作のIPで長期間稼ぐビジネスモデルではないので、常に新作品でヒットを打ち続ける必要があります。それにはアニメ化候補作のパイプライン拡充がカギとなります。

ソニーが「クリエーター・ファースト」をうたっているのは、おそらくこれが理由です。ビジネス・ファーストではなく、クリエーター・ファーストというのは、日本的な「三方よし」の戦略にも見えます。消費者も、原作者などの制作側も、配信サービス企業もメリットが大きいコンテンツに仕上げるのです。ソニーの非自前主義、非クローズの戦略は、一見すると非合理に思えても、実に合理的な戦略なのです。

かねこ・ひろあき
グロービス経営大学院教授。東京理科大学院修了。リンクアンドモチベーションを経て05年グロービスに入社。コンサルティング部門を経て、カリキュラム開発、教員の採用・育成を担当。現在、科学技術振興機構(JST)プログラムマネジャー育成・活躍推進プログラム事業推進委員、信州大学学術研究・産学官連携推進機構信州OPERAアドバイザー。

「ビジネスモデル」についてもっと知りたい方はこちら

https://hodai.globis.co.jp/courses/339c5167(「グロービス学び放題」のサイトに飛びます)

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