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競馬の迫力を伝える 場内映像カメラマンの矜持

東京競馬場で撮影する松本さん。手前は実況中の米田元気アナウンサー

中央競馬は事前に指定席券を購入するという条件付きながら、10月10日からファンの入場を再開。11月7日からは、1日当たりの発売席数を東京競馬場の場合、1047席から4384席と大幅に増やして開催します。少しずつでも、レースを観戦するファンが増えていくのは喜ばしいことです。しかし、多くの人は自宅でネットを利用して馬券を購入していて、こうした人々はテレビで「レース観戦」しているはずです。レース映像を競馬場から届けているカメラマンに話を聞きました。

現在、中央競馬の全10競馬場の場内映像放映業務を請け負い、競馬ファンに映像を届けているのは、株式会社山口シネマです。映像を通じてレースの運営を支えている同社業務部ITV業務課のカメラマン、松本夏実さんと金井隆宏さんに伺いました。

――ラジオNIKKEIの放送席のすぐ横で撮影されていますね。

松本「あれはメインカメラです。本馬場入場からレース後の馬場引き揚げまで撮影しています。競馬場ごとにカメラの台数は異なりますが、最低限メインカメラ、ゴール前カメラ、馬場内カメラの3台のカメラでレースを撮影し、レースによってはもっと多くのカメラを使います。日本ダービーでは合計19カ所から撮影しています」

「レースの人気馬の脚質を知っていないといけない」と松本さん

――松本さんと金井さんはともに入社するまで映像に関する知識は全くなく、カメラに触れたこともなかったということですね。入社してどれぐらいでカメラマンとしての仕事を担当するのでしょうか?

松本「初めはパドックの馬を映すカメラなどを担当しますが、メインカメラを担当する人はおおむね5年くらいの経験を積んでいます」

メインですからね。メインレースの実況を担当するのに私も5年くらいかかったかなぁ。そして新潟競馬場の翌週は東京競馬場へ行き、次は福島競馬場などと仕事場が変わるとのことで、この点はラジオNIKKEIのアナウンサーと同じです。また平日は開催場変更に伴う開催準備の業務や各種保守点検業務、公営競技の業務などを行っているそうです。

――ずっとゴンドラ席のカメラの前にいますが、これから寒くなっていくと辛いですね。

松本「冬場はカイロを身に着けて、足元に小さなヒーターを置いています。左手でズーム操作するのですが、寒くて指がかじかんでしまうとできなくなるので気を付けています」

金井「冬の寒い日は指がかじかみますし、夏場は日差しがきつくても、虫が飛んできてしまっても、極力集中しなければならないのは大変ですね」

「ファンが見たいところはどこかを常に考えて撮影している」と金井さん
カメラマンにとっては風も大敵で、強風の日はどうしてもカメラが揺れてしまうので、見ているファンに申し訳なく思って心が折れそうになるということ。また晴れたら晴れたで、騎手の帽子や勝負服が光って色の判別がつかずに困るということを話してくれました。この点は双眼鏡で見て仕事をするアナウンサーと共通しています。

――秋のGI真っ盛りですが、初めてGIレースを担当したときはどうでしたか?

松本「緊張しました。ゴール前のカメラは指定席の中にカメラマン席があり、レースの合間にお客さんに声を掛けられたりするのでよけいに緊張しました。カメラを持つ手が震えました」

――それは分かります。私も初めてGIレースを担当したときは手だけでなく足まで震えたものです。

松本「私はメインカメラの担当になって先月のスプリンターズステークスで初めてGIレースのメインカメラを担当しました。あのレースでは1番人気のグランアレグリアが後ろにいて、最後の直線に入っても後ろから2頭目の位置でした。普通なら前の馬に寄っていくところですが、この馬はきっと追い込んでくるとみて引いて撮りました」

「結果、グランアレグリアが一気に追い込んで勝ちましたが、あの馬を切らずに映していて良かったと思いました。グランアレグリアの後ろにいて3着になったアウィルアウェイも画像に入っていましたし、前の馬に絞っていたら、勝ち馬が画面の外から『飛んできた』ことになります。やはりレースの人気馬が逃げ馬なのか追い込み馬なのか、その脚質を知っていないといけないと思っています」

レース実況も同じです。前の馬にこだわりすぎて、外から追い込んでくる馬に気づかず、ゴール寸前で勝ち馬の名前を1回しか言わないと「馬が飛んできちゃったね」と言われてしまいます。馬の脚質を忘れず、馬の勢いである「脚色(あしいろ)」を見る。カメラマンも同じなのですね。

――レースで位置取りが決まったら先頭の馬から映していくという一定のカメラワークがあり、それに合わせてラジオNIKKEIの実況も先頭の馬から馬名を挙げていきます。

金井「一定の形はありますが、その中でのカメラワークを任されるようになるには、上司・先輩からの信頼も得なければなりません。向こう正面で人気馬が後ろから上がって行ったら、その馬をずっと映してもいいと思います。ファンが見たいところはどこかを常に考えて撮影しています」

「通り一遍のカメラワークでいいのか、競馬を初めて見る人がいて、その人に引いた画像を見せるだけで、何が面白いのかが伝わるのか? もちろんオフィシャル映像ですから、あまり偏ることなく、わかりやすくて臨場感ある映像を自分のカメラワークで伝えられるようにしたいと思っています」

大歓声が沸き起こる中で仕事を

お話を伺っていて、カメラマンのプロ意識、矜持(きょうじ)といったものを感じました。ワーワーと馬名だけを言うワンパターンの実況をしている私は恥ずかしくなりました。最後にお二人とも「ファンで競馬場がいっぱいになり、大歓声が沸き起こる中で仕事ができるように早くなってほしい」と話されました。私も全く同じで、一日も早く、放送席の下から沸き起こる大歓声を聴きながら実況したいと思っています。今は徐々に入場者が増えていく段階で、「その日」は必ずやってきます。そう信じています。

(ラジオNIKKEIアナウンサー 小林雅巳)

各アナウンサーが出演、ラジオNIKKEIの競馬番組はこちらでチェック! http://www.radionikkei.jp/keibaradio2/

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