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近代京都経済支えた花街 1920~30年代、年200万人集客

時を刻む

黒田清輝「舞妓」(1893年、東京国立博物館蔵、17日から展示)Image:TNM Image Archives

振り袖をまとい帯の端をだらりと下げ、日本髪にきらびやかな簪(かんざし)。舞妓(まいこ)は「古都京都」の象徴とされる。実はその存在が注目されるようになったのは新しく明治時代という。画題としてもてはやされ始めたのは大正期。この時期、花街は京都経済の基軸でもあった。舞妓画の歩みをたどる展覧会や京都の花街を経済史の視点で分析した研究が今、注目を集めている。

巨匠が画題に

芸妓(げいこ)を目指して見習い中の少女を舞妓と呼ぶ。芸妓よりも華やかないでたちを多くの作家や画家が描いてきた。京都文化博物館で11月29日まで開く特別展「舞妓モダン」は、京都を代表するイメージとなるまでの過程を絵画で紹介する。

幕末の政変や維新後の遷都で疲弊した京都は明治5年(1872年)、京都博覧会を開いてテコ入れを図る。この時に始まったのが祇園新地の芸妓による「都をどり」だ。「これが行政と花街の新しい関係を構築する契機となった」と植田彩芳子学芸員は指摘する。

竹内栖鳳「アレ夕立に」(1909年、高島屋史料館蔵)

植田さんによると「江戸期まで芸妓や遊女の絵は多くあったが、舞妓画は意外にも少ない」という。最初に本格的に画題としたのは黒田清輝「舞妓」(1893年)。京都画壇の大家、竹内栖鳳「アレ夕立に」(1909年)を嚆矢(こうし)に、舞妓画は画壇のブームとなっていった。

ただこの時期、筆を執ったのは男性画家ばかり。植田さんは作品群を「人形のようにめでるだけの理想像か、妖艶で時に醜い姿か。聖母か娼婦かという古典的な女性像の二分法が当てはまる」と分析する。

今回の展示ではモデルとなった当時の舞妓の写真も紹介している。12、13歳の幼顔の少女が着飾ってポーズをとる姿を、栖鳳は「何となく不自然に見える」と語った。その言葉は当時の花街のもう一つの貌を表しているようにも思える。

舞妓画が盛んに描かれた1920~30年代、花街は京都にとってどんな存在だったのか。京都大学大学院経済学研究科博士課程の瀧本哲哉さんは京都府や警察の統計を分析し、京都大学人文科学研究所の紀要「人文学報」で発表した。

近代日本の公娼(こうしょう)制度のもと、京都では市内8カ所、市外8カ所が営業エリアに指定されていた。芸妓が活動する花街と娼妓(しょうぎ)が商売をする遊郭が地理的に分離していた東京などと異なり、京都では花街という同じ空間で両者が稼業を営んだ。

当時の芸妓・娼妓は全国で12万~13万人。京都府は6千~7千人で3分の1が芸妓、残りは娼妓だった。数としては東京、大阪、愛知に次ぐが「人口千人当たりの数では全国トップ。特に娼妓数が突出していた」と瀧本さんは説明する。

府内の花街は一時、年間約200万人以上を集客し、当時娯楽の王様だった劇場の観客数を大きく上回った。瀧本さんは「他府県から押し寄せる観光客に加え、地場産業だった繊維産業の盛行が花街の振興につながった」と推察する。

府、重い税課す

京都府は芸妓と娼妓に1人当たり定額で税金や賦金を課し、他業種より重い負担を強いた。花街関連からの税金・賦金は商工業者からの府税収入の3割弱に相当する。花街が京都経済を支える基幹産業の一つだった状況が分かる。

1920~30年代は京都の花街が、芸妓の街と娼妓の街へとそれぞれ急速に分化した時期でもあった。戦後、公娼が廃止され売春防止法が施行されて遊郭は消滅。他方、花街は観光地として発展し、古都の伝統や文化を担う存在となった。

植田さんは「女性画家は複雑な思いを寄せていたようで、表立って舞妓画を描くようになるのは戦後になってから」と話す。その一人、広田多津はかつては舞妓を痛々しく哀れに思っていたが、一度スケッチしたのを機に「必死になって自分を守り生きようとする」女性の姿を捉えたという。

(編集委員 竹内義治)

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