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1200人希望退職のLIXIL瀬戸氏「幹部ポストも大幅削減」

LIXILグループの瀬戸欣哉CEO(写真:的野弘路)
日経ビジネス電子版

LIXILグループが10月30日、1200人の希望退職者を募集すると発表した。瀬戸欣哉社長兼最高経営責任者(CEO)は以前、多様な人材を登用していくには世代交代が必要だと語っていた。希望退職プログラムを実施する狙いを聞く。

――以前、「おじさんたちが覚悟し、道を開くという覚悟をしないと、日本は変わらない」と指摘していました。10月30日の2021年3月期第2四半期決算の発表時に、1200人の希望退職プログラム「ニューライフ」を実施すると発表しました。条件は40歳以上で勤続10年以上の正社員が対象とのこと。背景を改めて教えてください。

「1つには、会社として生産性の改善を数字に結びつける自信が付いてきていることがあります。特に、今回の第2四半期の決算を下支えした要素で大きかったのは、やはりオンラインでの生産性改善でしょう」

「在宅勤務をすることで、デジタルでの生産性が向上しています。単純にオンライン会議ツールのZoom(ズーム)で商談するだけではなくて、オンラインショールームをツールとして活用したり、ビデオでの商品説明やオンラインでの工場見学などをできるようにしたり、みんながどんどん工夫することで生産性が上がっています」

「当初、流通やベンダーの方からは商談に来てほしいと言われることが多く、現場は『LIXILは来なくなった』とも言われたそうです。しかし、エンドユーザーの消費者の方からはリモートを望む声が多く、最終的には皆さんに理解してもらえたと思います」

「これまでLIXILという会社の難しかったところは、昔ながらの日本企業のカルチャーが変わらなかったことです。デジタルだ、グローバルだと言っても、なかなかついていけなかった。しかし、コロナで在宅勤務をするようになり、こういう働き方がきるんだということを、それぞれの従業員が知ったということが大きいですね」

――そもそも瀬戸社長は16年にLIXILのCEOに就いたときから、カルチャーを変えようと力を入れていました。しかし、創業家出身の潮田洋一郎氏と対立して18年10月末にCEOを解任されました。昨年6月の株主総会を経てCEOに復帰して以降、状況は変わりましたか。

「やはり、潮田氏がいたころは、何かとストップがかかっていました。変化に対して苦痛を感じる人がいますから。変えるべきことを変えようとしても、どこかで誰かにブレーキをかけられてしまうという感じでしょうか」

「しかし、昨年の6月以降は、何かを変えようとしても、いつの間にか元に戻ってしまうといったことがなくなりました。その変化は、絶対に大きいと思います」

――商談のデジタル化などにもブレーキがかかっていたのでしょうか。

「論外だったと思いますよ。かつて、なぜ(LIXILの前身会社である)トステムという会社が強かったかというと、流通に対して強い影響力を持っていたからです。流通を握っていることが営業の実力でした。そういう世界に生きてきた人にとっては、人間関係が全てでしょう」

「そのような人たちに、デジタルで商談をしよう、判断は全て数字を基に決めましょうと言っても、なかなか進みません。しかも、潮田氏はそうした人たちにとっては最後の『駆け込み寺』のような存在でした。駆け込み寺がなくなった去年の6月の変化は、LIXILにとって本当に大きかったと思います」

――デジタルでの商談などのほか、組織の改革も進めています。

「まず、コーポレート・オフィサー(役員に相当)の数を大幅に減らしてきました。16年当時、海外を含め150人ほどいたコーポレート・オフィサーを80人ほどに減らし、その後、徐々に減らしてきて50人ほどになっていましたが、7月から24人にしました」

「また、スパン・オブ・コントロール(上司が管理する部下の人数)も見直しました。1人の上司が見る部下の数を増やすことで組織の階層を減らしてきています」

「例えば、これまで営業では支社、支店、営業所という階層がありましたが、今年4月に支店を全てなくしました。つまり、1階層減らしたわけです」

――こうした改革でポストがなくなる管理職もかなりの数に上っているのではないでしょうか。

「ポストの数はかなり減りました。Zoomを使えば、多くの部下と効率的にコミュニケーションできるということが分かったことも、決断を後押ししました」

「コロナがなくても同じことを言い続けたと思いますが、コロナで強制的にリモート環境になったので、言い訳ができなくなりました。そもそも、こうした取り組みには、『自分が上である』こと自体が存在意義になっているような体質と決別する狙いもあります。全体的に、かなり若返ったと思います」

対象年齢を50歳以上から40歳以上に引き下げ

――今回の1200人の希望退職プログラム「ニューライフ」とは別に、1年前に特別退職金を加算して支払うなどする「キャリアオプション制度」をスタートしています。今年2月に募集して約500人が手を挙げましたが、なぜ、改めて1200人の希望退職者を募集するのですか。

「キャリアオプション制度は純粋にベネフィットの位置づけです。自分のキャリアを延ばしていくことは難しいと自分自身で判断した人に対して、退職金を積みまして転職支援もするという制度です。いわゆる『早期退職』で、5年間実施します。本人が会社側と面談して、退職するかどうかを決めるというものではありません」

「一方、今回は『希望退職』です。本人が会社側の上司と話し合い、その結果として本人が難しいと思った場合に辞めていただくというものです。今回は一度きりのプログラムです」

「早期退職との違いは、自分で納得して辞めることを決断しても、不本意な部分は必ず残ると思うので、それに対してしっかりと加算金を支払うという内容です。そのため、キャリアオプション制度よりも、加算金の水準は大きくなります」

――キャリアオプション制度では50歳以上が対象でしたが、今回は40歳以上へと対象年齢を引き下げています。なぜですか。

「まず、LIXILとして今後、成長していくにはどれくらいの人数がそれぞれの部門で必要かを調べました。キャリアオプション制度を実施する前には、社内には『800人、1000人が応募してきたら、事業を回すのが厳しくなる』という声もありました。しかし、先ほどお話しした生産性の改善などもあり、もっと進めても大丈夫だろうと判断しました」

「キャリアオプション制度ではどれくらいの応募があるか分かりませんでしたが、結果的に50歳以上で約500人の応募がありました。それを踏まえて、40歳まで対象年齢を引き下げて1200人の希望退職を募ることにしました」

「40歳といっても、対象となるのは勤続10年以上の社員です。ある程度長く勤めていると変化に対してつらいと思う人もいるでしょう。そのような方々にはしっかりと退職加算金を支払います。一方、40歳未満の方たちには、変化についてきてほしいと思います」

変わらなければいけないのに、先延ばしにする正当性はない

――今はコロナの影響で雇用環境が悪化しています。今期(21年3月期)は赤字になる見通しではありませんが、あえて今、希望退職の募集に踏み切るのはなぜですか。

「過去10年と同じことをやっていたらだめだ、変化する必要があるというのは、誰にでも分かるでしょう。しかし、変化するには、若い人や女性、外国人、障害がある人も含めて、多様な人材を登用していかなければいけません。今、上のポジションにいる人にはある程度は退いてもらわないと、そのような変化は実現できないのです」

「働き方も組織の構成も変われば、上のポジションにいる人は、ある程度、そのポジションから退く必要があります。では、その人たちがポジションから退いたときに、引き続きLIXILで幸せにやっていけるかというと、難しい場合もある。そのような人には退職加算金をしっかりと支払うというのは、合理的な判断だと分かってもらえるはずです」

「しかも、この判断を遅らせたら、結果的には収益性が悪い状態が続いて、追い詰められて、今払える加算金も十分に払えなくなるかもしれない。今度支払う加算金は、この業界において恥ずかしくない数字ですし、しかも再就職も支援します。仮にこの先5年間、この状態を放っておいたら、同じことはできなくなるかもしれません」

「これまで培ってきた技能が、今までほど必要なくなる、というのはとてもつらいことです。コロナで大変、という話もありますが、5年後に雇用環境が今より良くなるという保証はありません。キャリアを変えるとしたら、社内で変えるか、社外で変えるかですが、どちらにしても早く変えた方がいい」

「変化する必要があるのなら、今変化した方がいい。だから、今やるのです」

――定型的な業務を自動化するRPA(ロボット・プロセス・オートメーション)のプログラムをできる人材を約1200人養成し、うち700人ほどが資格を取ったそうですね。

「IT(情報技術)の会社にも匹敵する規模だと思います。これも生産性を上げるための1つの手段です。実際に、業務を担当している方たちにRPAを使えるようになってもらいました」

――社員一人ひとりが、こうした新しい技術にも対応していかないといけないということですか。

「もちろん、そもそも多少はセンスがある人が中心となりますが、そういうことだと思います。もう逃げ切ったと思っている人は別として、この先10年、20年、仕事をしていくという人は、いろんなスキルをどんどん取り入れていかないといけません」

「会社としても、新しいスキルや人材が必要と言っているからには、しっかりとそれらを身に付けられるよう、投資をしていく必要があると考えています」

「経営者の仕事は、長期的に見たときに会社が持続的に成長できるように、会社の仕組みを変えていくことです。変えなければいけない、と分かっているのに、先延ばしにする正当性は一切ないと思います」

(日経ビジネス 大竹剛)

[日経ビジネス電子版 2020年11月4日の記事を再構成]

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