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牛肉輸入、米国産に勢い 関税率低下で産地変更も

豪州産は供給減 シェア逆転も視野

新型コロナウイルス禍で牛肉の輸入量が低調に推移するなか、米国からの調達が増えている。今年1月の日米貿易協定発効に伴い、輸入関税率が先行していた環太平洋経済連携協定(TPP)水準まで下がった。関税差で生じていた他国の割安感が薄まり、競争の土台が整った。約20年ぶりとなるシェア首位奪還へ今後も米国産の巻き返しが続きそうだ。

「国内外食でオーストラリア産牛肉の契約数が落ち込む半面、堅調な米国産の扱いを増やしている」。商社の担当者は牛肉の調達先を徐々に切り替えていると明かす。

財務省の貿易統計によると、2020年4~9月の牛肉の総輸入量は31万4000トンと前年同期より4.8%少ない。特に輸入量首位のオーストラリアが12.9%減、3位のカナダが22.6%減と主要国のマイナスが目立つ。一方、輸入量2位の米国は4.4%増と輸入量を増やしている。

4~9月の輸入シェアも大きく変動した。20年は米国が42.7%と19年より3.8ポイント上昇。シェア首位の豪州の43.4%に肉薄する。03年のBSE(牛海綿状脳症)の発生などもあって豪州に首位を奪われていたが、「この調子でいけば再び米国が豪州を追い抜きそうだ」(商社)。

米国産の輸入拡大の追い風となっているのが1月に発効した日米貿易協定だ。発効で米国産牛肉の関税率は38.5%から26.6%に低下。現在25.8%まで下がり、TPP参加国と同水準となった。19年にシェアを拡大していたカナダなどTPP参加国は足元では失速気味だ。

米国への調達シフトは食肉供給の安定感も一因だ。19年の牛肉生産量は米国が1238万1千トン。カナダ(134万トン)の9倍も多い。食肉工場の数も米国の方が多い。新型コロナに伴う工場の一時閉鎖に伴う一時的な混乱はあったが、トランプ米大統領が生産継続を求める大統領令を出しており、市場では相対的に供給不安が起こりにくいと判断されたようだ。

豪州産牛肉の価格高止まりも米国産の拡大を後押ししている。豪州では近年の干ばつでエサとなる牧草の育ちが悪く、生産者は出荷を早めた。この結果、足元の牛肉生産が減っている。供給が絞られて需給が逼迫し、現地価格は高値で推移してきた。

農畜産業振興機構によると、牛丼などに使われる豪州産牛バラ肉(冷凍品)の卸値は10月中旬時点で1キロ670円前後。コロナ禍に伴う主力の外食需要の不振などで前年同月より7%ほど安いが、なお高値圏にある。一方、米国産牛バラ肉(冷凍品)は1キロ625円前後と豪州産より7%ほど安く、米国産の割安感は強い。

TPP離脱が響き、19年の輸入実績では「一人負け」だった米国。業界では「新型コロナによる米国の食肉工場の稼働停止がなければ、今年の輸入はもっと増えていただろう」(双日食料の小穴裕ビーフ部長)との見方も多い。米国の存在感は今後も高まりそうだ。(嶋田航斗)

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