愛ある「地方ディス」心つかむ 漫画家の魔夜峰央さん
多彩人財
新潟県蒲原郡。何を隠そうこの地方は、文明に取り残された未開のへき地なのである――。そんな文言で始まる漫画「2万光年翔んで新潟」が出版された。著者は「翔んで埼玉」のヒットも記憶に新しい新潟出身の魔夜峰央さん。今作も随所に散らばる「地方ディスり」に、思わずくすりと笑ってしまう。

物語は、新潟に不時着した宇宙人に新潟県人が「ここはニューヨークだ」と嘘をつくところから始まる。作品自体は1991年に発表しており、今回タイトルを変え書籍化された。作品の舞台は、新潟市西区の黒埼地区付近。魔夜さんの両親がかつて住んでいた場所だという。
「ドカベン」の水島新司さんや「うる星やつら」の高橋留美子さんなど、新潟は多くの漫画家を輩出している。「粘り強い県民性が漫画家に向いているのかも。冬は漫画を描くくらいしかすることないしね」。こう話す魔夜さん自身が漫画を書き始めたのは、高校生の頃。当時は本気で漫画家を志していたわけではない。「漫画家になりたい」と初めて口にしたのは、大学中退の理由を親に説明したとき。認めてもらうためについた嘘だったという。
言葉にすると現実になるとは言うが、73年には自身の作品が初めて雑誌に掲載された。当時はうれしさより、自分の作品が載っていいのかという怖さが大きかったという。78年には、ホラーやミステリー調の作風からギャグ路線に変更。現在まで続く人気作「パタリロ!」もこの頃に連載を始めた。
その後もヒット作を生み出す魔夜さんだが、アイデアの源泉は何か。尋ねると「いい作品を書こうと思い過ぎないこと」と即答。デビュー直後の20代の頃、「いい作品を書かないと」と考えすぎ、2年半スランプに陥った経験からくるものだ。「いい加減なアイデアでも、うまく調理すればそれなりの作品になる」。それが魔夜流だ。
2019年には埼玉をこき下ろした過去の作品「翔んで埼玉」が再び注目を集め、映画化された。この動きは本人も全くの想定外だったが「何か言ったらすぐにたたかれる今の時代だからこそウケたのかも」と分析する。新潟が舞台の今作は「翔んで埼玉」とは全く異なるSF作品だが、愛ある新潟ディスは健在だ。
今年67歳となった魔夜さん。先日「パタリロ!」の102巻が発売されたが、「目標は200巻」。あと40年かかると見積もっているそうだ。新潟が生んだ希代のギャグ漫画家にとって、漫画家人生はまだ半ばのようだ。(斉藤美保)