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移住起業家の夢、被災地を照らす 岩手・陸前高田

2011年3月に起きた東日本大震災から来年で10年を迎える岩手県陸前高田市で10月31日、花火大会が開催された。今年はコロナ禍で全国的にほとんどの花火大会が中止となり、復興途上の被災各地の経済も打撃を受けた。そんな中、19年12月に神奈川県から同市へ移住したベンチャー起業家の浅間勝洋さん(39)が実行委員長を務める「三陸花火大会」が、感染防止対策を取りながら開かれた。夜空に浮かぶ色鮮やかな光が、集まった約1万1千人の人たちの顔を明るく照らした。

レンタカー会社を経営し、三陸花火大会の実行委員長を務める浅間勝洋さん(10月14日、岩手県陸前高田市)

「もともとレンタカー業をやるつもりではなかったんですけどね」。21歳で起業した浅間さんは、東京都などで広告代理店や貿易会社など、さまざまな仕事を手掛け、震災以降は陸前高田市などの被災地でボランティア活動を続けてきた。活動を継続する中で、さまざまな人との信頼関係が育まれ、同市に住む多くの人たちに「来いよ」と呼ばれたことが移住の決断を後押しした。

浅間さんは市の復興事業に関わり、「観光などの経済を盛り上げるためには、まずは現地での移動手段が必要」と電気自動車のレンタカー事業を今年1月に立ち上げた。3月には予約もたくさん入っていたが、コロナ禍に襲われすべてキャンセルに。「これまで観光目的の利用は5回もない。ぜんぜん稼働していない」というが、暗い表情は見せない。

花火大会の着想は、同じくボランティア活動を通して被災地での人脈があった花火業者のマルゴー(山梨県市川三郷町)の斉木智社長との出会いがきっかけだ。浅間さんと斉木さんは震災から10年の節目となる21年に、陸前高田市で大きな花火大会をしようと計画。今年の大会は、その前段となる大会との位置づけだ。来年以降も若手花火師が競い合う継続的なイベントにし、将来は大曲や長岡のような名物花火大会に育てたいと考えている。

マルゴーの斉木社長(奥)と花火大会の打ち合わせをする浅間さん(左)=10月14日、岩手県陸前高田市
津波被害に遭った岩手県陸前高田市(2011年3月18日)

陸前高田市は市街地のほとんどを津波で流された。元は住宅地で、かさ上げされて整備された会場の高田松原運動公園には芝生が広がり、周りに高い建物がない。野球場やサッカー場からは、上空いっぱいが開けて見える。浅間さんと準備を進めてきた斉木さんは「これだけ花火大会に適した場所はそうない。花火を見て前向きな気持ちになってほしい」と話す。

震災当時、浅間さんは東京でフォトグラファーやヘアメイクを束ねるマネジメント会社を経営していた。スタッフの家族がいた東北の沿岸被災地をボランティアの支援活動で訪れ、自身の父親が住む陸前高田市も訪ねた。避難所の中学校体育館の外廊下で、被災した人たちに化粧をしたり、写真を撮ってプレゼントしたりする活動を始めると、人が集まってきてどんどん楽しい雰囲気に。そして、生活空間の体育館の中に呼ばれて挨拶をした。浅間さんは「人にあまり見られたくない場所だったろうに、僕らを中に招いてくれて喜んでくれた。感謝してもらえて、こちらも感謝でいっぱいで。気が付いたら仕事やお金に関する考え方が大きく変わっていた」と振り返る。

「被災地での花火大会はこれまで鎮魂や追悼の意味合いが大きかった。これからは、地元の人や観光客がワクワク楽しめる場所にもなって行くことを伝えたい」と浅間さんは強調する。陸前高田市で生まれ育ち、副実行委員長を務める伊藤雅人さん(38)は、「地元の力だけでは絶対できなかった。浅間さんのような外から来た人の自由な発想と行動力が必要」と信頼を寄せる。

各地から車で訪れ、花火大会の会場に向かう人たち(10月31日)
会場入り口で検温してから入場する観覧者
花火大会会場内に出店し、にぎわう「さんりくフードビレッジ」

開催費用の一部はクラウドファンディングで集めた。8月から2カ月間の支援者数は1089人。目標の倍となる1000万円を超える金額が集まった。花火大会は有料のライブ配信コンテンツとしても提供され、アーティストのコンサート付きアリーナ席や、ドライブインシアター方式で車の中から観覧できるエリアも設け、最新技術と広い敷地を利用した工夫が随所に盛り込まれた。

花火の打ち上げを前にスタッフらと連絡を取り合う浅間さん

普段は人けの少ない場所に約1万1千人(実行委員会発表)の観覧者が集まった。観光需要喚起策「Go To トラベル」を利用した旅行会社のバスツアーが各地で組まれるなど、東北観光につながる導線が新たに生まれた。

会場を訪れた地元在住の佐々木敏さん(67)(手前右から2人目)は「花火大会のおかげで、仙台から息子夫婦が孫を連れて来てくれた。集まって楽しめる機会を作ってもらえてうれしい」とにこやかだった
夜空に打ち上がった花火を見つめる人たち

陸前高田市には鉄道駅がないため、交通手段のほとんどが自家用車というのが花火大会開催の課題だ。今後は、観覧者の輸送手段や駐車場の確保、路上駐車で鑑賞しようとする車への対策、交通渋滞の解消などの問題を解決していく必要がある。それでも浅間さんは「挑戦できるっていいことですよね。花火大会がなければそんな話すら出なかったのですから。ほかの被災地の若い人たちのモデルにもなれるよう頑張りたい」と前を向く。被災地に移住した起業家が描く未来は、コロナ禍の苦しい時でも、花火のように明るい。

間近で1万発以上の花火を堪能する人たち

(写真映像部 小園雅之)

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